第1080回 若人の快挙という明るい話題

1、読書記録205

本日ご紹介するのはこちら。

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立命館大学考古学研究会2021『近世鷹司家墓所調査報告書』

クラウドファンディングで資金調達をして作製された調査報告書です。

2、トップクラスの公家の家でも

京都府右京区嵯峨に所在する二尊院。

慈覚大師円仁の開基とされ、鎌倉時代の作と伝わる釈迦如来立像と阿弥陀如来立像が本尊となるので、「二尊」院。

幾たびも戦火に遭い、現在の堂宇は三条西実隆が諸国から寄付を募って再興したとされます。

境内には数多くの公家の墓所が所在し、五摂家の一つである鷹司家もその一つです。

調査は4年間にわたり、文献調査から墓石の実測、写真撮影などを実施して公家墓研究の基礎研究となるデータが記録されることとなりましが。

具体的に墓石の記録を見ていくと、

当主はもちろんのこと、夫人や子女などの墓石も多く、

早世した者の没年月日やどの史料にもなかった母親の名前などが

資料化され公開されたことは大いに意義深いことです。

興味深いのは大名家から嫁いできた夫人(毛利氏や高松松平氏など)の墓は

「大名式」と呼ばれ鷹司家の墓の様式とは異なるものを使い、なんなら当主よりも豪華だったりしたこと。

墓石の型式は宝篋印塔から五輪塔、櫛形、角柱形と変遷していることも明らかになり、全国的な傾向と比較検討できる材料が提供されました。

付録として二尊院に所在する卒塔婆堂に関する考察と、当主・夫人墓における規模の比較という調査参加者の卒業論文を改稿したものが再録されています。

3、大きな一歩

近年大名墓研究はようやく各地で進むようになってきました。

それに比べて公家の歴代墓地に関する考古学的な研究はさらに希少な存在です。

ただ、本書に見られるように、大名家に嫁いだ公家の子女は婚家の菩提寺に葬られるとともに、遺髪の一部が実家に戻され、そこでも葬られるという風俗があったようです。

もちろんその間には交流があったでしょうし、逆に大名家から公家に嫁いだ場合は前節でも紹介したように実家の伝統をそのまま持ち込んでいたわけです。

まずは基礎的な調査記録をどんどんと蓄積して公開していくことで比較研究が進んでいくことが期待されます。

本書を通覧して感じたことは、

学生主体の、しかも考古学以外の先行性もいるサークル仲間で、ここまでしっかりとした報告書が作製できるということに、驚きとともに光明を感じることができました。

我が身を振り返ってみて、私は学部生時代にここまでできなかっただろうな、と思います。

もちろん、指導された教員の方々のお力添えや、調査に協力された多くの大人たちの尽力もあったと思いますが

それ以上に若者たちの快挙に胸がすく思いでした。

コロナ禍の中で、対面での授業やフィールドワークが制限されるなど

若者たちをめぐる環境は厳しいものがありますが

彼らの言葉を借りると「学生の考古学」の可能性は非常に明るいものがありますね。

おっさんも奮起せねば。


本日も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

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