第563回 丸木舟と縄文土器
1、読書記録 86
中央大学の小林謙一先生からご恵与いただきました。
2015年の刊行で、中央大学関係者6名の論文集として
共通のテーマ、島と港に関連するものが投稿されています。
2、目次
小林謙一 縄文丸木舟研究の現状と課題
石井正敏 遣唐使以後の中国渡航者とその出国手続きについて
近藤剛 一二世紀前後における対馬島と日本・高麗
中澤寛将 古代・中世環日本海沿岸の港町
吉田歓 日中都市比較から見た平泉
白根靖大 日本海側からの視座による地域史研究
3、丸木舟にはロマンがある
今回は小林論文について少し掘り下げてご紹介します。
まずは縄文時代の丸木舟がどれくらい出土しているのか、というところから話は始まります。
文末に表で一覧できるようになっていますが、
北は北海道石狩町の紅葉山49号遺跡、南は沖縄県萱野座村の前原遺跡まで117件の出土例が集成されています。
このうち、炭素14年代測定という科学的な方法で年代が推定できるようになった資料は19件あるそうです。
具体例としては千葉県や琵琶湖沿岸、北陸地域、韓国の例まで含めて紹介されています。
逆に言うと地域的な偏りがある、ということ。
あくまでも参考としつつも、近代まで丸木舟が使用されていた民俗例を集成した研究によると、
秋田や青森県の下北・津軽、岩手の三陸地方、長崎県の諫早湾でも多くの事例が報告されているように、
出土資料とはズレが生じています。
もちろん時代は全然違いますが、地形や気候など丸木舟の使用に適した場所であることは間違いありません。
考古学で「ない」ことを証明するのは非常に困難ですが
丸木舟という木質の遺物が残りやすいところと、そうでないところで
違いがでてくるのかもしれませんね。
そして小林氏の真骨頂である年代測定。
東京都三鷹市の丸山B遺跡の調査成果の一端が紹介され
年代測定の有効性を示す具体例として挙げられています。
というのもここでは縄文時代後期の土器の破片が敷き詰められた地面から
丸木舟の製作材料と見られる木材が出土しました。
普通に考えれば縄文時代後期に丸木舟が作られたと考えがちですが
木材を年代測定した結果は、弥生時代。
つまり、土器の時代と丸木舟の時代は違っていたことが証明されたわけです。
技術も進歩し、わずかな試料を採取するだけで
精度の高い分析結果を得ることができるようになった現在、
積極的に年代測定を実施すべきだ、という提言で締められています。
4、調査に臨む姿勢から刺激を受ける
いかがだったでしょうか。
残念ながらミヤギでは丸木舟は出土していませんが
きっと松島湾からも丸木舟で漁に出かける縄文人の姿はあったことでしょう。
木製品が残りやすい低湿地の縄文遺跡での発掘調査が待たれますね。
実は本日、小林先生と先生が指導する大学院生さんたちが
我が町の縄文土器を資料調査に来ていたんです。
調査の様子を拝見していましたが
縄文土器の文様についてどのような見方ができるのか
新たな視点を学ぶことができました。
いずれ先生たちの調査成果が公表されたらまたご紹介できればと思います。
それにしても若い研究者が資料を前に目を輝かせている姿をみると
私も負けてられない、と刺激を受けますね。
本日も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
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