第626回 大字の歴史を残すこと
1、読書記録 95
本日紹介する本はこちら。
西村慎太郎・泉田邦彦 2019『大字誌 両竹(もろたけ)』1
この本を知ったきっかけはこちらの記事でした。
もうすぐ9年になろうとしている東日本大震災。
津波被害にあった古文書を救出していく中で
福島第一原発の事故によって立ち入りができなくなり、
生まれ育った土地とのつながりが断たれてしまう人々に出会い、
新たな取り組みを始めたとの記事。
それは「大字」の歴史を徹底的に記録しよう、ということ。
大字(おおあざ)とは地方には今も残る行政の区画単位。
古くは江戸時代の村程度の小さな集落単位の地名を指します。
いわば極小の地元ともいうべき範囲のこと。
東日本大震災のように沿岸部でまるごと集団移転を余儀なくされる地域では、大字全体が人が住まなくなり、これまでの歴史がまるごと受け継がれなくなってしまうことは少なくありませんでした。
歴史学者である、自分ができること
それを考えたときに西村氏が取ったのは、歴史を記録して残すことでした。
クラウドファンディングで資金を集めたのは社会にアピールする効果を期待したから、とのこと。
こんな取り組みがあるんだ、ということは広く知ってもらいですね。
2、本書の内容
市史や町誌と同様に、まずは順を追って通史的な概説があって、
その後に個別の論考が続きます。
両竹諏訪神社の歴史
資料紹介「両竹村地誌書上」
『大字誌両竹』から紡ぐ過去・現在・未来
両竹に生息する野生動物
といった流れです。他にCFの支援者名一覧や東日本大震災発生から現在までの歩み、月2回ネット配信されている『もろたけ歴史通信』などが掲載されています。
そのうち、諏訪神社の歴史についての部分を少し詳しく紹介すると
神社を描いた明治時代後期の銅版画、別当寺に残された文書、氏子総代を努めた泉田家に伝わった帳簿類などからかなり豊かに歴史が復元されています。
なかでも興味深いのは神社参道にある石灯籠。
寄進者名が74名刻まれているうちの、72名が女性だということ。
西村氏は「二十三夜講」という女性限定の行事との関連を推測しているようですが、
他の地域に同様の事例があるかどうか探ってみたいところです。
石灯籠の寄進は大正15年。
一方で神社境内には嘉永5年(1852)の「二十三夜」碑があり、同様の碑は近隣でも確認ができるとのこと。
この行事が何時ごろまで続けられていたのか、ということも地域を比較してみることも面白そうです。
3、どの地域も他人事ではない
さていかがだったでしょうか。
実はここで紹介したのはもう一つ理由があって、
それはある地域の方から、まさに大字の範囲の歴史講座をやってくれ
という依頼を受けたということもありました。
普段から見逃してしまいがちな、
当たり前に路傍に佇んでいる石碑を知ると
100年前、200年前のこの地域のことがここまでわかるんですよ、
そんな感じの講座にしようかと思っております。
その地域も少子高齢化が進んで、歴史を語り継ぐ人が不足していくことは
そう遠くない未来に確実に迫っています。
今のうちに少しでも記録していこうとするのか、
少ないながらも、地域に愛着をもつエネルギッシュな住民を育てるのか
そこに歴史がどこまで有効に働きかけができるのか
それを探っていきたいと思う今日この頃でした。
25年前の今日、1/17は阪神淡路大震災がありました。
語り継ぐこと、という意味では東日本の先輩でもあります。
今後の行く末を考える上で参考にさせていきたい地域でもあります。
明日突然災害が起きて、地域の歴史が途絶の危機に晒されるかもしれません。
残すものを記録していく時間、さらに何を残すべきか検討していく時間は、そうないのかもしれません。
本日も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
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