第870回 非正規雇用の悲哀はいつの時代も
1、読書記録132
本日ご紹介するのはこちら。
平山優 2020 『戦国の忍』
戦国大名武田氏や真田氏研究で知られる著者が、史料に基づいて「忍者」の実態にどこまで迫れるか、挑戦した意欲的な作品です。
2、いま忍者研究がアツい
2017年に三重大学に国際忍者研究センターができたのは記憶に新しいですが
2019年に国際忍者学会の国際忍者学会で基調講演を行ったことがきっかけで本書がまとめられたとのこと。
遡ること2016年の大河ドラマ『真田丸』の時代考証を務めた著者が
一般の方から「忍者」について問われることが増え、
実在の忍びとイメージされる忍者の解離を埋める研究が必要だ、と痛感したということ。
そこから史料を集め続けてできたのがこの成果物ということになるようです。
流石は一般向けでも分厚い本を書かれることで名高い著者のこと、得意の関東甲信越だけではなく、東北も九州も多くの事例が収集されています。
史料上で最も古く「忍び」が登場するのは『太平記』で、高師直が岩清水八幡宮に火を放ったときで、
新しいところでは幕末の『ペリー提督日本遠征記』に「目付」という立場で諜報員やスパイとして捉えられている事例を紹介しているように
時代幅もかなり広く目配せされています。
全てご紹介するのは難しいので、我らが御屋形様伊達家の使っていた黒脛巾組の例をいくつか取り上げると、
天正16年の郡山合戦の際に敵の陣小屋に潜入して荒らし回ったのは
片倉小十郎景綱とその従者で、本来その任務を担うはずだった黒脛巾組は外で待機していた、とか
草(忍び)が取ってきた敵の武将の首を政宗が大脇差で切り割ったとか
『伊達天正日記』に記される天正16年から17年にかけて忍びが討ち取った蘆名方の首級は300個をこえるとか
さすが、というエピソードが語られています。
他の大名家関連でも非常に面白い事例が掲載されているので、それは本書を読んでいただくとして、
最後に「忍び」とは何か
という命題に回答している箇所をご紹介すると
戦国時代の忍びの特徴として5点が挙げられているのですが、
①任務の多様性
②呼称の多様性
③出身の多様性
④人数が多いこと
⑤アウトロー性
というところにまとまるかと思います。
様々な身分から忍びの道を選び、地域によって呼び方が違い、担う仕事も異なる。しかし需要は多く、供給も絶えないため人数は多くなる。本質はアウトロー的世界で、正規の武士とは対照的である。
といったところでしょうか。
そして強調されるのは彼らの非正規雇用の割合の高さ。
このまま江戸時代の平穏を迎えると仕事を失い、社会不安のもとにもなってしまっているとの見解でした。
現代社会の非正規雇用労働の悲哀を重ねてしまいますね。
3、イメージが書き換えられることこそ歴史を学ぶ醍醐味
いかがだったでしょうか。
超人的な術を使う忍者は出てきませんが、
戦国時代の「忍び」の実態は豊富な事例からだいぶイメージできるようになって、
また違った「忍び」の魅力を感じることができるかもしれません。
社会にあぶれたアウトロー達を雇用すること自体が治安維持にもつながっていく、そんな構造になっていたのだと云うところは、しっかりふに落ちました。
本書を紐解けば、いつ市民から忍者について問われても大丈夫そうです。
本いつも最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
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