第833回 歌枕としての松島12
1、第78段から第84段まで
今週もやってまいりましたこの企画。
Twitterで毎日呟いている #松島百人一首 を一週間分ご紹介します。
Wikiレベルですが作者の経歴の紹介と
個人的な感想を付け足しています。
また【私訳】はあくまでも素人の私の解釈なので
間違いなどありましたらご指摘いただけると嬉しいです。
2、江戸時代後半の和歌
第78段 いつはあれどわきて春秋富山に見る目をよする松島の浦
伊達重村
【私訳】いつ眺めるのがいいだろうか。春も秋も富山からみる松島の浦は素晴らしい。
伊達重村は仙台藩第7代藩主。
父の死去に伴い、15歳で後を継ぐと、奉行職同士の勢力争いが激化し、当初から苦労しています。
他にも薩摩藩の島津重豪に対抗した昇進運動に多額の費用を使ったり、財政難の解決のために仙台藩内で銭の鋳造を試みたりと、迷走しつつも無事に息子に家督を譲って隠居生活を送ることができています。
この歌も身軽な隠居の身になってから領内を見回って詠んだものでしょうか。
富山から見る松島湾は今でも格別です。
第79段 松しまの月見が崎の雨の夜は心ばかりぞすみわたりける
伊達斉宗
【私訳】松島の月見が崎から見る雨の夜とはうらはらに、私の心は澄み渡っている。
伊達斉宗は仙台藩第10代藩主。
重村の孫にあたります。父も兄も早世したため、若干15歳で家督を継ぎます。
彼自身も22歳という若さで世を去りますが、文武両道の教養人で、領内の内ヶ崎家が作った酒に「初霜」と「初霞」と名付けたと伝えられています。
本作はリアリティのある情景を読み込んだ歌で、松島を訪れた際に詠んだのでしょう。
第80段 たくみなす筆も及ばじ松島やただ時のまにかはる眺めは
伊達慶邦
【私訳】達人の筆でも描くことはできないだろう。ふとした時に眺める松島の景色は。
そして続くは仙台藩最後の13代藩主。
またしても藩主の早世が続き、16歳で家督を継ぎます。
時代はもう幕末動乱期。奥羽越列藩同盟の盟主となって戊辰戦争を戦いますが、敗戦。
江戸で謹慎閉門の身となります。
この歌を読んだのはいつのことなのか。
詳細な巡検記が残っているので、松島をいつ訪れているのかはわかりますが、なんとなく領地を失ってから、松島を懐かしく思って詠んだもののように感じます。
第81段 松しまの千々の見るめを爰にそめてむへ富山と誰なつけらん
朴斎道也
【私訳】松島の変化に富んだ景観から誰かが名付けたのだろう。この富山という名前を。
朴斎は『松島紀行』という書物の中でこの自作の歌を紹介しています。
見るめは海藻のことで、海松色(みるいろ)というやや黒味がかった萌葱色を表す言葉にもなっています。
第82段 なきたまも光をそへてあづまぢのゆく末照せ夕月のかげ
堀田正敦
【私訳】今は亡きあの人の魂も、私が向かう東道の行先を照らしてくれるようだ。この夕月の光は。
正敦は譜代大名堀田家の婿養子となって若年寄を勤めた幕府の重臣ですが、元は78段でご紹介した伊達重村の実弟です。
大名でありながら、蝦夷地へのロシアの影響を視察するため、松前藩まで訪れ、紀行文にまとめています。
その途中で松島にも立ち寄り、詠んだ歌がこちらになります。
兄重村はすでに亡くなっていた頃なので、彼を導いてくれる魂とは重村のことではないか、と思っていました。
第83段 山に海に惜む名残のあれはにや旅をうしとは人のいふらん
泉崎真畔
【試訳】
山の景色も海の景色も名残惜しくなってしまうので、旅はつらいとはよく言ったものだなぁ。
泉崎は米沢藩士で、よく旅をしながら和歌を詠む文化人でもあり、『松島日記』という書物にこの和歌が記録されています。
第84段 たぐいなや横雲しらむそなたよりほのぼの見へてうかむ松島
小宮山楓軒
【私訳】類まれな雰囲気がただよう横雲が白んできた。遠くの方にはほのぼのと浮かんで見える松島の島々よ。
小宮山は水戸藩士で、水戸光圀が始めた『第日本史』編纂事業にも関わる学者肌の武士でした。
郡奉行として現地で農地改革に取り組んだり、水戸斉昭の側用人として使えたり、町奉行も務めたりと、政治的にも大きな足跡を残しています。
温泉好きなのか『浴陸奥温泉記』という書物を著しているのですが、その中にこの歌も採録されています。
3、殿様から庶民まで旅をする時代
いかがだったでしょうか。
仙台藩主の後半と紀行文や日記という形で実際に松島を訪れた文人たちの作品が多くなっていますね。
松島の景観を目的としたものは言うまでもなく、
さらに北へと向かう人たちも足を止め、和歌の一つも残したくなるところ、
それが当時の松島だったのでしょう。
今に置き換えると旅ブログに必ず登場するスポット、と言うところでしょうか。
次回からは明治時代の歌人も登場します。
本日も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
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