第696回 文化財保存活用地域計画をみる その1 札幌
1、バスに乗り遅れるな
この連載でも何度か取り上げていた「文化財保存活用地域計画」。
簡単にいうと「文化財保護法」の改正に伴って
今後はしっかりと各地域にあった計画を立てて文化財を保存し、活用していきましょう
という趣旨の施策です。
今年度先駆的に計画の策定まで漕ぎ着けた3自治体のことが報道されていました。
行政が立てる計画、というとちょっとお堅い話かと思われるかもしれませんが、
その先入観を少しでも取り払えるように、という想いも込めて紹介していきたいと思います。
2、まずは札幌から
今回策定されたのは北海道札幌市、大阪府河内長野市、兵庫県神河町の3自治体です。
すでに策定がなっているのは茨城県牛久市、山梨県富士吉田市、長野県松本市、奈良県王寺町、島根県益田市、長崎県平戸市となっていますので、
合計9つの自治体が策定したことになりますね。
いろいろ思惑はあるでしょうが、文化財に対する意識が高い自治体だ、ということは言えるかと思います。
さて一つずつ簡単に紹介していきますと、
【札幌市】はまず、これまで取り上げられる歴史文化が「幕末・明治以降」に偏りがあった、ということを問題意識として取り上げます。
国・道・市の指定文化財となっているのは近代以降の建造物が多く、59件中38件にのぼる、ということです。
ただ、文化遺産に対する取り組みは早くから行われていました。
「さっぽろ・ふるさと文化百選」
昭和63年に市創建120年記念事業として文化遺産を選定しました。
市民からの応募が161件あり、郷土資料館などからの情報提供を加えて241件を有識者7名からなる選定委員会で決定。
平成元年度には案内板を設置して普及につとめた、とのこと。
計画ではまず札幌の歴史文化の特徴を6つに整理します。
①原始の昔から育まれた人々の暮らし
②幕末に始まる諸村の開拓と開拓使による中心市街地の建設
③オリンピックで変わった街の姿と市民の意識
④都心で楽しむ季節の催し・風物詩
⑤積雪寒冷地に成立した大都市
⑥ 継承されるアイヌ文化
この中でも個人的に気になったのが⑤なのでちょっと掘り下げてご紹介すると
冬は資源であり、財産である
というスローガンの下で見出される文化遺産。
例えば現在では個人の住宅でも一般的になった二重サッシですが
明治21年建築の北海道庁旧本庁舎(赤レンガ庁舎)ではすでに二重窓が採用されています。
昭和30年代以降に普及した急勾配の三角屋根から現代の無落雪屋根への変遷も都市の特徴として取り上げられています。
凍結路面で転倒しないための歩き方を体得していることまで文化として紹介されているのは驚きでした。
計画策定にあたっては広くアンケート調査が実施されています。
全市民向けは回答555件、
連合町内会長向けは37件(110件中 回収率33.6%)
イベント参加者向け78件
の結果がこの計画に反映されています。
この数字を多いとみるか、少ないとみるか。
ただ、素案ができて、それを広く公開して意見を求める段階、
パブリックコメントの募集にあたっては
令和元年10月28日から11月26日の30日間の期間があったにも関わらず
意見提出者は2人と5団体という寂しい結果になっています。
3、鶏口ととなるも
いかがだったでしょうか。
今回は「歴史文化として捉える幅」と「市民の意見の反映度」の二つに絞って内容をご紹介しました。
少し長くなったので稿を改め、他の二つをご紹介した後に総括してまた取り上げたいと思います。
一つだけまとめに近いことを申し上げると
やはり新しい取り組みに先んじて挑戦することは
注目を浴びて批判にも晒されますが、
その分改定時によりよいものを作ることにも繋がりますし
市民にとっては悪いことではないのではないでしょうか。
私自身、大いに学んでいきたいと思います。
本日も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
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