第708回 きっと此度も乗り越えられる

1、読書記録108

本日紹介するのはこちら

竹原万雄2015『明治時代の感染症クライシス コレラから地域を守る人々』よみがえるふるさとの歴史5

まさに今日の社会が直面している課題に取り組むにあたって必読の書となりました。

2、何度も克服してきた

明治15年(1882)いまからおよそ130年ほど前にも感染症が日本で大流行しました。

これはコレラ。

もとはインドの地方病だったとされますが、世界が交易で結ばれるようになると感染を広げ

我が国でも安政5年(1858)に3年間にわたって猛威を奮ったとのこと。

江戸だけで10〜20万人の死者を出したとの記録もあり

かの安藤広重もこの時亡くなったとされています。

明治以降には統計体制が整備されより正確な数字がでるようになりましたが

明治15年の流行は患者数5万人、死者数3万人を超え、致命率は60%以上という恐ろしい数字が記録されています。

しかも発病後数日でしわだらけになって亡くなってしまうとあって、病因が今ほどはっきり知れ渡っていない時代では恐怖でパニックが起こったであろうことは想像に難くありません。

本書では宮城県石巻市で、古くから医師を生業としてきた旧家から

東日本大震災の後に救い出した資料のなかにあった

関連資料を中心として当時の対応が描き出されています。

3、不安との戦い

いくつか要点を絞ってご紹介すると、

①法制度の整備

当時も実務にあたるのは地方公共団体。

宮城県では明治13年に各種の法令を整備し、予防に尽くしています。

その内容は事細かに定められたもので、患者が発生してしまった時の連絡通報の流れから、隔離・消毒の方法や

今や他人事とは思えない「群集禁止」の項目もあります。

まず祭礼や劇場、寄せを差し止め、学校や製造所を差し止めるのはやむを得ない場合に止めること、とされています。

②対応人員の確保

前述の法整備に伴って、対応にあたることとされたのは

医師や衛生事務担当の役人に加えて、警察、そして民間の衛生委員などでありました。

消毒や隔離については、今よりも人権意識が低かった当時、警察が強権的に進めた場合もあったようでそれに対して反発した人たちからは

病院つぶれろ、警察やけろ、巡査コレラで死ねば良い

と心ない言葉が浴びせられていたと言われています。

手が足りず、もともとの宮城県内にいた巡査の数が376人だったのに対し、臨時で225人を雇い入れ、それでも足りず市町村で独自に予算化して雇用した例もあったとか。

万が一、巡査が感染してしまった場合の治療費は全額自治体が負担する、という条件付きだったとも記録されています。

感染者は隔離して「避病院」に入院させられることが多かったようで、

宮城県内に26箇所設けられていたようです。

ただ、その環境については様々な風聞が広がり

破れた障子に消毒薬の臭気がひどく、豚小屋にも劣る
自然治癒をするごく少数を除いては死を待つしかなかった
実は患者を殺して肝を取り、海外へ高値で売り渡していた

とまで言われて忌避されていたようです。

ここでちょっと気になったお話を一つ紹介します。

がとある町で議会に新たな隔離病棟の建設計画が審議されました。

その平面プランは十字形、もしくは四方形で、中央に泉水・築山を設け壮観美麗なものであったようで

町の医者らが反対して成立しなかった、というエピソードが紹介されています。

死の恐怖に直面した感染症患者に、せめて綺麗な庭園を眺めてもらおう、という考えは一見すると悪くないように思えますが、

緊急時にそんな流暢なことをやっている場合ではない、ということなのでしょうか。

詳細は不明なので現代の我が国にそんな施設を作ろうとしたら反対されるでしょうか、とか妄想してみたりします。

4、行政だけに頼ってられない

いかがだったでしょうか。

すこし前、の時代でも「感染症」に対する人々の反応や行政の対策という意味ではあまり変わらないことがわかるのではないでしょうか。

リーフレットという簡易な読み物としての位置づけだからか

行政資料や医師の家に伝わる記録類が中心で

実際の人々の声があまり取り上げられていませんが

自粛に対する当時の反応とか、

もう少しわかるような資料もあると面白いですよね。

最後に付け加えるとしたら、

予算がどうにも足りなくて、臨時増税がされているにもかかわらず、

有志が寄付金を集めてコレラ予防費に当てていたことが印象に残りました。

ただ吏員のみに任せ置くは人民の義務を知らざる者なり

明治に生きる人の誇りに感銘を受けます。

現代の我々の生き様も後世にどう評価されるのか、考えながら行動していきたいですよね。


本日も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。


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