第1188回 博物館ってなんのためにあるの?
父と娘の対話 第四夜
ねえパパ、博物館ってなんのためにあるの?
おっと、直球で父さんを全否定しかねない言葉だね、怜香。
じゃあ、まず博物館がどんなところか、その確認からしようか。
えーと、昔のものを飾っているところ?
間違ってはいないけど、その飾られた展示品はどっからきたのかな?
発掘で掘り出したもの?
それもあるけど、美術工芸品とか古文書とかは寄贈を受けたり、古物商からも買ったりするんだよ。
古文書なんか売ってるんだ。
そう。出土品だってオークションサイトにでてるからね。
文字通り玉石混合だ。
でも確かに行政のアンケートとかで「充実した博物館が欲しい」っていう声が上がることってすっごく少ないんだよ。
じゃあ観光客が求めているってこと?
確かに歴史に関心がある人なら旅先でご当地の博物館とかみたいと思うけど
多数派かと言われるとどうかなぁ。
じゃあなんのためにあるのさ。
博物館法っていう法律には
「博物館」とは、歴史、芸術、民俗、産業、自然科学等に関する資料を収集し、保管(育成を含む。以下同じ。)し、展示して教育的配慮の下に一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資するために必要な事業を行い、あわせてこれらの資料に関する調査研究をすることを目的とする機関
と定義されているんだよ。
つまり資料を集めて保管して展示することが求められているってこと。
集めることと保管することが前提になっているのね。
そうそう。父さん個人としては地域の郷土資料館なんかは前半部分に重きをおいてもいいと思うんだ。
というと?
地域の博物館が集めて保存しないと残らないモノってあると思うんだよね。
例えばその地域独特の漁で使う道具があったとして、近代化で使われなくなったらあっという間に個人で持っている人はいなくなると思うんだよね。
国立博物館で収集してくれるのなんて一部に限られるから、その地域でこんな道具を使ってこんな漁をしていたんだよ、っていうのは実物が残らないと急速に忘れられてしまう。
その地域ではある時代の生活を明らかにしてくれる歴史的資料として価値がある。
だからこそ町の郷土資料館がしっかりと守っていく必要がある、というかそこでしか守ることができない。
行政でしかなし得ないこと、民間がやって採算がとれないこと、っていうのは最後まで行政が責任を持ってやるべきことだと思うよ。
でも最近は博物館も稼がないと、ってパパ言ってたじゃない。
日本という国全体が貧しくなってきたからね。工夫は必要だと思うよ。
見せ方、活用の仕方によってはお金を稼ぐことができるものもある。
実際クラウドファンディングで修復費用や調査費用を捻出する例も珍しく無くなってきたからね。
全国のファンからお金を集めて運営ってアイドル活動みたい。
そうそう、そういうあり方もあっていいと思うよ。
一方で裏方の地道な地域の歴史資料の保全も進めていく必要があるし、
その実践の中から次の活用の芽が出てくることもある。というかそのバークヤードの知識があってこその活用の華だからね。
アイドルもそうだけど華やかな表側だけ見て憧れても裏は実際地獄だったり闇だったりするってことか。
父さんが考える理想の姿としては、やっぱり地元民向けには無料開放して、小学生の社会科見学とか、中高生の調べ学習、ひいては大人が学ぶ拠点になるっていうのがあるかな。
それを土台にして、地域の人が大事にしているものが結果的に外の世界の人にも評価されてお金を生む、という形がいいよね。
まあ理想は理想ですから。パパが偉くなってそれを実現してよ。
なんだか冷たいなぁ。父さんが目指す博物館はもっと暖かく誰しもを迎えて
中に入ると熱くなれるものを見つけられる、それを目指したいんだ。
がんばってね〜
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