第543回 文化財コンダクターってなんだ?
1、今回もまたこのシリーズ
月刊文化財 674号
文化財を活かしたまちづくりの歩み
いま業界内でもっともホットな話題と言えるテーマを取り上げています。
2、文化財担当者は何をすべきか
まず総論として
村上裕道 「文化財保存活用計画」を活かす
では
現行の組織的な組み立ての延長では、文化財の維持継承について、早晩困難を伴うことが予想される。
とはっきりと断言されています。
具体的な根拠として
①文化財専門職未配置の市町村が3分の1にものぼる
出典は 杉本宏2018「文化財保護法改正における展望と課題」『文化遺産の世界Vol33』
② 市町村埋蔵文化財専門職員数の減少
出典は『埋蔵文化財関係統計資料』
が挙げられています。
ただでさえ課題が多様化しているのに、専門職員といえば埋蔵文化財が専門(考古学専攻、発掘屋さん)で、
団塊世代の退職後、人員補充がなされないことと
志望する若者の減少もあってか絶対数が減っている。
それでもいないよりはマシ。
というところでしょうか。
この課題をどう解決するか、いつも繰り返されるのが
地域を巻き込んで、主体を住民に、行政は一歩引いて考えること。
その具体的な事例報告として
熊本県八代市、兵庫県神河町、愛知県瀬戸市、福井県小浜市が取り上げられています。
その中で一つだけ掘り下げて紹介すると
小浜市は「御食国若狭と鯖街道」というストーリーをうまく活用しているようです。
この地は古代中世には国際港湾都市として栄え、「海のある奈良」と例えられるほど、寺社や仏像などの文化財が数多く残されています。
リアス海岸にはぐくまれ栄養豊かな海の幸は天皇家や朝廷に「食」を提供されていたことから「御食国(みけつくに)」と呼ばれ、都の食文化を支えてきたとのこと。
江戸時代以降は特に大量のサバが供給され「鯖街道」とよばれていました。
このような無二の歴史があったにも関わらず、地域住民とっては「当たり前」と認識されていたそうです。よくある話ですね。
モデルケースとして全国で最も早く取り組んだ歴史文化基本構想策定においては
悉皆調査で最初に「食文化」に取り組んだそう。
行事食として600件が抽出されました。
その成果を受け、
平成25年に『小浜市の伝統行事と食』と題したシンポジウムを実施したとのこと。
日本遺産には初年度である27年度に認定。
サバの養殖事業から、全国サバサミット、ラッピングバスの運行、ウォーキングトレイルなど直接歴史文化と関係性のないように見える事業にも積極的に取り組み、
メディアに取り上げられることで、なぜ鯖街道事業を展開するのか、ということを発信していく、という考え方。
この覚悟があるかないかで地域が盛り上がるかどうかが変わってくるんですね。
文化財の活用というとどうしても、歴史愛好家の一定人材に限定されてしまいがちですが、柔軟性を持って各種事業に取り組んでいくことで多様な人材が集まってくるものなのかもしれません。
さらには賑わいの象徴として明治時代の芝居小屋「旭座」の復興も果たし、
京都の職を支えるまちで、京都になくなった素朴な歴史空間を住まうように体感できる
ことをコンセプトとした滞在型の文化財観光を心がけているそう。
通過型の対義語としてよく聞く、滞在型とはこういうことをいうのか、
と思い知らされる心持ちです。
そして最後に後を追いかけていく自治体にアドバイスするような提言がなされています。
それは文化財コンダクターとでもいうべき戦略的な人材の育成が重要だということ。
社会情勢と住民の思いを的確に把握し、文化財・歴史物語の価値を熟知して活用に導くことができる人材のことらしいです。
私の目指すところもまさにその文脈。
ゴールが明確に言語化されているようで非常に参考になります。
3、マネージャーかコンダクターか
いかがだったでしょうか。
先日私が受講してきた研修では
文化財マネージメント
という表現が用いられていました。
本質的なあるべき姿は同じところなのかな、とも思います。
道はまだ遠いようです。
本日も最後までお付き合いくださり、ありがとうございます。
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