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第753回 将軍の愛娘へのまなざし

1、日本刀レビュー48

今回は週刊『日本刀』48号をご紹介します。

ちなみに前回はこちら。

2、天下人が持つ天下一の名刀

巻頭の【日本刀ファイル】は国行。

13世紀半ばから14世紀にかけて山城国で隆盛を極めた刀工集団、

来派の祖とされる人物です。

掲載作は徳川美術館に収蔵されている国宝の太刀で、

徳川家光の長女千代姫が尾張徳川家の光友に輿入れした際の調度品の一つとされ、

「日本一の嫁入り道具」と称される豪華な一群に含まれています。

この時千代姫はなんとまだ2歳6ヶ月だったというから驚きです。

本書ではこの千代姫の母方の曽祖父が石田三成にあたり、

千代姫のひ孫にあたる千姫が九条家に嫁ぎ、その血脈は大正天皇の皇后である節子妃にもつながっていることも紹介しています。

続いて【刀剣人物伝】は三好長慶。

近年は織田信長に先駆けて「天下人」となった武将として評価されるようになった人物ですが、

流石に一流の刀剣とも縁があります。

一説には大般若長光も一時所持していたとか。

その名が冠されている郷義弘が鍛えた「三好江」や

阿波国守護三好家の重代の宝刀とされた「岩切海部」が名高いです。

【日本刀匠伝】は則宗。

備前は福岡一文字派の事実上の祖とされる刀匠です。

独特の刃文は沈丁花の花に似ていることから「丁子乱」と呼ばれるものをさらに精巧化し、八重桜が咲き誇っているかのように見える「重花丁子」や大きくゆったりとした焼刃が乱れる「大房丁子」という技法を生み出したとのこと。

後鳥羽上皇の御番鍛冶も務め、「天下一の名工である」との賞賛を受けたことから銘に「一文字」を切ることになったとも言われています。

作例でもっとも名高いのは皇室の御物として伝わったもので、

ある時明治天皇が旧広島藩主浅野家の所蔵刀を鑑賞した際、

この一振りだけはしばらく借りたい、とまで言わしめた逸品です。

地元の岡山県立博物館に所蔵されている太刀や

徳川綱吉が日枝神社に寄進したものとされる太刀、

土屋子爵家から三井美術館に寄贈された太刀など多くの作例が残されています。

最後の【日本刀ストーリー】は軍記物語と刀と題して

歴史文学の中で刀が描かれた姿を紹介しています。

例えば平家物語には平家重代の宝刀「小烏」、源氏に伝わる「髭切」に始まり

蒙古襲来絵詞を紹介しながら、元軍に対応するために日本刀が進化した様子、

『明徳記』『応永記』『応仁記』などからは室町時代の戦の様子が語られています。

戦国時代の話題としては越前の真柄直隆佩用の「太郎太刀」、子の隆基所用の「次郎太刀」という長大な太刀も紹介されています。

そして実践では槍の方が有用性が高かったことにも触れられています。

3、将軍の娘へのまなざし

いかがだったでしょうか。

今回は刀匠の話題も何度か出たものばかりでしたし、

三好長慶のエピソードも権力者ゆえに集まったものや、

家に伝来してきたものの解説であって

長慶本人の刀にかける思いが伝わってくる、というものではありませんでした。

最も関心がひかれた話題は「日本一の嫁入り道具」というところでしたね。

女性の守刀で短刀を、ならわかりますが、まだ幼児である姫に長大な太刀を持たせるところが豪気ですね。

この太刀のために誂えた、葵の文が散りばめられた拵は蒔絵の金色が眩しく

映える調度品であることは間違いありませんが。

家光が「天下にも代えがたい姫だ」と語ったという娘に対する愛情が伝わってくるようですね。

本日も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

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