第784回 歴史を学ぶと旅に出たくなる

1、読書記録123

本日ご紹介するのはこちら

桃崎有一郎 2020「京都」の誕生 武士が造った戦乱の都

何度か本文にも出てきますが、

活字で読める当時の公家の日記は全て読んだ

著者だからこそ、迫れる中世の京都の姿が活きいきと描写されています。

2、京都が作られるまで

まず語られるのは「平安京」は「京都」とイコールではない、ということ。

前著でも平安京の実態が暴かれていましたが

本書ではさらに踏み込んで

白河院によって始められ、

武士によって完成した「京都」が語られます。

一つのキーワードが都市そのものが劇場化していく、ということ。

平将門が梟首されたことに始まり、

源義家が前九年合戦からの凱旋を演出し、

源義綱に至っては現地に出向いていないのにパレードを行なって喝采を浴びていました。

白河院は「平氏を売り出す」ために凱旋パレードを広報メディアとして割り切って使った、日本初の君主だった

と著者は評価しています。

一方で過剰な演出とそれに後押しされた急激な出世によって力を得た武士達は

安全な観客席

だったはずの京都さえも戦乱の舞台としてしまうようになります。

京都は地方の構想を吸い上げ、しかも無闇に騒ぎを増幅させて、当事者を代表するボス同士に争わせる触媒と化してしまったのである。

そして保元平治の乱を迎えることになります。

この戦いの詳細、因果関係についてはこれまで以上に明快で

構造がクリアに認識できるようになりますので、ぜひ一読をお勧めします。

3、一枚上手の平氏

最後に描かれるのは殿下の乗合事件。

天皇の代行者である摂政、松殿基房と

平氏のプリンス、資盛が道で行き交い、

礼を失したとトラブルになった事件。

父である平重盛が報復したことで、平氏の横暴が極まった、

という単純な文脈で語られることが多いですが、

15年前にすでに起きていた、藤原頼長と平信兼のトラブルと比較し、

さらに重盛が相手を死傷させず、受けた恥だけをきっちりと返す様子に

絶妙なバランス感覚を見出しています。

平忠盛にしても、この重盛にしても、もちろん清盛にしても

そつのない、政界遊泳の才能はどこから生まれるのでしょうか。

源氏には学習能力というものがあまりない。

と一刀両断されてしまうライバルとは大違いです。

それなのに次に新たな政治システムを構築して時代を作っていくのは

源頼朝だ、というのが気になりますね。

あとがきに予告された次回作は

京都を守ったのは武士であり、荒らしたのは天皇だ

というテーマのよう。

これはこれで非常に読みたいですが、鎌倉や東国についても

同じような熱量で読み解かれた研究成果をいつか読んでみたいですね。

4、学びで想起される欲求

著者がはじめに、で言うように、氏の著作を読むと

京都という同じ京都という観光地が全く別の景色に見える

ことは間違いありません。

歴史を学ぶことの醍醐味がここにある。

京都には及ばなくとも、そんな地域史を描くことを私も目指していきたいものです。

そして、大河ドラマ「平清盛」がまたみたい。


最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?