第527回 制度を変えたいなら歴史を知るべし

1、読書記録 79

なぜ日本は変われないのか。

そんな煽りに乗せられてこんな本を読みました。

小熊英二 『日本社会の仕組み 雇用・教育・福祉の歴史社会学)講談社現代新書

著者はあとがきに

日本の戦後史を総合的に記述するための研究を進めている

と記述しています。

戦後史というとこれまで、田中角栄の伝記などで触れてきましたが

あくまでも政局、権力闘争の話が主流でした。

一方、本書は

雇用や福祉、政党や地域社会、さらには「生き方」までを規定している「慣習の束」がどんな歴史的経緯を経て成立したのかを書きたい

と著者が表現する「日本社会のしくみ」としか表現できないものを明らかにするものです。

私自身が日々感じる閉塞感、生きずらさがどこに起因するのかが腑に落ちたという感覚で読みました。

これを少しでもシェアできればと思います。

2、目次と構成

序章

第1章 日本社会の「三つの生き方」

第2章 日本の働き方、世界の働き方

第3章 歴史のはたらき

第4章 「日本型雇用」の起源

第5章 慣行の形成

第6章 民主化と「社員の平等」

第7章 高度成長と「学歴」

第8章 「一億総中流」から「新たな二重構造」へ

終章 「社会のしくみ」と「正義」のありか

あとがき

本書全体を通じて展開されるのは、

企業とそこで働く人々の生き方。

最初に投げかけられるのは

2017年5月に話題になった若手官僚の出したレポート

新卒一括採用で就職し、正社員として終身雇用される、そんな昭和の典型みたいな生き方が

1950年代生まれでもわずか34%、1983年代生まれでも27%と推定されているのです。

残りの7割近くの人々はどんな生き方をしているのか、

それを分析するところから書き起こされます。

古くは明治、太平洋戦争を経て、どのように今の雇用形態が出来上がったのか、

それぞれ当時の事情で選択され、時には長い時間をかけて同意を図りながら、ある意味妥協をしながら、勝ち取ってきた民主主義や平等の権利でもあります。

それが1970年代までは効果的に作用し、オイルショックで転回がなされるとどう変わってきたのか。

1984年にはすでに「人材派遣」や「非正規雇用」というワードが雑誌を踊るようになり、現在にまで後を引く「二重構造」が生まれていくことになります。

3、人文社会科学の基礎研究

時系列を追って、因果関係を紐解いていくと、感じるのは

現在の分断されつつある社会は、なるべくしてなったということ。

なぜ日本では大学院進学率は低いのか、学歴社会と言いながら、院卒は評価されないのか。

なぜ日本では転職が忌避され、専門職業団体が生まれないのか。

それは、このように理解すれば良かったのか、とすっきりしました。

ちなみに、学芸員や文化財担当職も欧州のような職人組合があったほうがうまくいくのではないかと本書を読みながら考えたりしました。

組合が専門的教育を施し、能力を担保する代わりに、職務内容が同じであれば報酬も同額を求めるというものです。

県庁で文化財に関わる調整業務をする者も、博物館で展示企画をする者も、市町村で現場担当をする者も、統一された資格基準で評価されるべきたと思う場面も個人的にはあります。

それこそ文化財マネージャーを標榜するならそう進むべきだと思いますけどね。

話が逸れてしまったので、本題に戻します。

著者が「日本社会」を理解するためのケースワークとして提示しているとある「問い」がありました。

スーパーの非正規雇用で働く勤続10年のシングルマザーが
「昨日入ってきたばかりの女子高校生と変わらない時給なのはおかしい」
と訴えたと言う。

これに対して著者が用意した回答は3通り。

具体的に選択肢を提示することは避けますが

どれも一見正しいように見えるものばかりです。

もちろんどれも一面の正義はあり、別の価値観に立って考察しているに過ぎないのです。

貴方ならどう答えますか?

ぜひコメント欄で教えてください!

本日も最後までお付き合いくださってありがとうございました。

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