第352回 途中で投げ出すなんて惜しい
1、読書記録 50
なんとも痛ましいニュースが報じられました。
実はしばらく前から某ニュースサイトで取り上げられていましたが、ついに全国紙の朝日新聞に実名入りで掲載されたということで、社会的な影響も大きくなるのではないかと思います。
2009年には若手研究者が対象となる「日本学術振興会賞」と「日本学士院学術奨励賞」を相次いで受賞するほどの優秀な研究者だったにもかかわらず、大学の教員になるという夢が果たせず、自ら命を絶ったという内容です。
そこで思い出したのが本書でした。
高学歴ワーキングプア「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書) / 水月 昭道 #読書メーター
この本が出版されたのは2007年というからもう10年以上も前になります。
この記事に取り上げられていた方が輝かしい業績を残していた時にはすでに社会問題化していたという事実には戦慄さえ覚えてしまいます。
2、目次
はじめに
第1章 高学歴ワーキングプア生産工程
第2章 なぜか帳尻が合った学生数
第3章 なぜ博士はコンビニ定員になったのか
第4章 大学とそこで働くセンセの実態
第5章 どうする?ノラ博士
第6章 行くべきか、行かざるべきか大学院
第7章 学校法人に期待すること
おわりに
この本が出版されたとき、まさに私も大学院生でした。研究室で一番年上の先輩が自虐的にこの本を勧めてきたことを覚えています。
その時はまだ実感を持っていませんでしたが、いま改めてこの目次を見るだけでクラクラしそうです。
10年たって我が国の大学、高等教育をめぐる状況は改善したのでしょうか。
まずは内容を少し詳しく紹介します。
3、社会に振り回される悲劇
まず「ワーキングプア」という言葉。
ちょうどこの本が出た頃に日本でもよく聞くようになったように思いますが、端的にいうとちゃんと働いているのに貧困から抜け出せないこと。
高学歴でワーキングプア
本書では博士号まで取得しているのに大学での非常勤講師だけでは生活できないため、コンビニなどでバイトをする事例が豊富に紹介されています。
そこに共通するのは大学や国の制度の狭間で振り回されてきたということ。
一番の原因は若者数がピークを迎える平成3年頃に景気が減退期を迎えたということ。
それに伴い、就職難からとりあえず大学院に進学し、研究の道を志した層がいたのです。しかしそこからは少子化に伴い大学の経営も苦しくなり、教員削減や非常勤講師の割合を増やすなどの方策が取られるようになります。
すると苦労してまで博士号を取得しても大学の教員になれるのは一握り。そうこうしているうちに後続の博士が続々と競争相手としてやって来ます。本書では毎年5000人が“生産”されていると紹介されています。
これに輪をかけて悪いのは、大学教員は終身雇用である上に、年金問題で定年が伸びる団塊の世代が多数を占めていたということ。
まさに地獄絵図です。
税金も投入され、未来ある若者が必死に研究した果てに得られるものは高学歴ワーキングプアという称号のみだとしたら悲しすぎます。
4、希望はないのか
前述の事例集の中で
研究を諦めてパチプロで暮らす人の証言が掲載されています。
努力が報われる健全な社会はどこへ行ったのか
という魂から発せられた叫びが響きます。
本書でもすでに指摘されていますが、若者たちはこの構造に気づき、大学院進学を避けるようになっています。少子化の煽りで一般社会では就職売り手市場となっていることも影響しています。
私が知っているとある研究室でも海外からの留学生と学び直しで入学した高齢の方しか大学院生がいないという状況も目の当たりにしました。
大学法人としてできることはないのでしょうか。
著者が希望としてあげるのは「利他の精神」
学生たちが、この大学でよかったと思うような教育を受けることができれば、子や孫にもそこに通わせたいと思うようになるでしょう。
私立大学であれば必ず創立者の教育に関する志
あったのですから、その精神に立ち返るべきではないかというのが著者の主張です。
そしてここからは私の考える希望ですが、
きっと努力が報われる社会は取り戻せると信じてます。その根拠の一つがまた読書体験です。
今、並行して
という本も読んでいるのですが
SHOWROOMと動画配信アプリを運営する会社の創業者である前田裕二氏が同社の立ち上げに際して考えていたのがまさに努力が報われる社会。
詳しくは同書を読み終わってからまた別記事にしますが、端的に言えば誰でも努力次第でアイドルになれる仕組みを作ったと言えます。
そしてこのアプリにも視聴者としてどっぷり浸かっている1人として感じているのは、ここには希望があるということ。
10年前に本書著された時と比べて社会の可能性は確実に増えていると感じています。
きっと10年後はだれも予想できないような未来が待っているのかもしれませんよ。
だからそれを見ないで世を去るなんてもったいない!
これが私の現時点での結論です。
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