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読書会メモ:The Miracle of Teddy Bear

はじめてタイの長編小説を読んだ。プラープ著、福冨渉訳 The Miracle of Teddy Bear (2019)。

脚本家ナットくんの大事なクマのぬいぐるみタオフーが、ある日人間に姿を変えた。タオフーはナットくんに警戒されるが、母マタナーさんの希望で3人は同居することに。家の「物」たちの協力のもと、タオフーはぬいぐるみに戻る方法を見つけられるか。

タイトルのこと

タイ語のタイトルは คุณหมีปาฏิหาริย์ とある。
คุณ:ミスター หมี:クマ ปาฏิหาริย์:奇跡 (Google翻訳)

後ろの「奇跡」は前の「クマ」に係り、ミラクルなクマさんという感じ。タイ語の意味から考えると英語タイトルの of は同格、日本語だと「クマさんという奇跡」になるか。

タイ語の ปาฏิหาริย์ は、こう説明されている。

【奇跡】[名]驚くべき奇妙なこと、または驚くべき奇妙さ
    [動]普段はなし得ないことをする

The Miracle of Teddy Bear 下巻、特別章 

「奇跡」が動詞なら、原題は「クマさんが奇跡を起こす」という意味にもなりそうだ。

案外ゆるくないBLドラマ

父が亡くなり、母とまともな話ができくなった今、ナットくんは心を閉ざした理由を語ろうとしない。読者は少ない情報からから推し量るのみ。

しかしドラマ版 (2022, Ch3Thailand) は、ナットの苦しい記憶をこれでもかと描く。脚本家としてゆるいBLを見下しているナットだが、このドラマはぜんぜんゆるくない。

彼は叫ぶ。
4:30 "Nat เป็นเกย์" 「ナット(ぼく)はゲイだ!」

同性愛者の苦悩は、BLドラマで以前から描かれている。 Love by Chance (2018, Studio Wabi Sabi) では、自身も性的少数者であるNew監督がカミングアウトのシーンを加えたという。

原作は MAMEの『My Accidental Love is You』(2015)。

Until We Meet Again (2019, Studio Wabi Sabi) は輪廻転生の物語。前世で互いの親に許されず無理心中をした二人が巡り会う。こちらもNew監督作品。

原作 LazySheep『ด้ายแดง (The Red Thread)』はドラマ後に書籍化されたか?

 คุณชาย クンチャイ (2022, One31) では、華僑一族の権力闘争のなか、主人公は自分らしく生きることを封じられる。同性愛者というだけで社会的に抹殺される時代。彼が幼い頃、自分が「断袖」(ゲイ)だと認めた男は追放され、最終的に自殺した。これが主人公を溺愛する母に恐怖を植えつける。

おそらくドラマオリジナル脚本。

The Miracle of Teddy Bear はタイ最大のテレビ局 ch3、クンチャイは大手テレビ局 One31 制作の、より幅広い視聴者に向けたラコーン作品。タイBLのすそ野は広がっている。

語りなおされる記憶

作中、さまざまなタイプの「物語」が登場する。神話、伝説、歴史、ニュース……『ビルバオ―ニューヨーク—ビルバオ』を思い出すような、物語の物語だ。物語には、受け止めにくい事実にワンクッションおく作用がある。

息子をよく見ようとしなかったマタナーさんでも、彼が自分のことをどう思っているのか、本当はずっとわかっていたはずだ。タオフーに[息子の日記を]読み聞かせさせるというのは、ある程度〝角が取れた〟事実を受け入れようとしているということだ。

The Miracle of Teddy Bear 上巻、15章

脚本家のナットくん、歴史教師だったマタナーさんのつらい記憶の断片は、「甘く美しい夢の象徴のようなタオフー」のおかげでひとつの物語に姿を変えた。


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