見出し画像

喫茶店のこと

私の記憶の中で、コーヒーと煙草の匂いは、セットになっている。

物心ついた頃から、祖父母につれられて、よく喫茶店に行っていた。今どきよくあるお洒落なところじゃなくて、昔からあるような、常連さんでいっぱいの喫茶店。

子どもだったのでまだコーヒーなんか飲めなくて、食も今よりずっと細かったから、ヨーグルトを分けてもらったり、トーストを少しかじらせてもらったりしていた。

お店の中は、いつもコーヒーと煙草の匂いがふわーっと漂っていて、子どもながらに良い匂いだなあと思っていた。祖父はお酒とコーヒーが大好きな人で、いつも煙草の匂いをまとわせていた。今でも懐かしい匂いだ。

最近では禁煙のところも多い。お店の中で煙草を吸う姿なんて、ほとんど見かけなくなった。世の中の流れなので仕方ないこととはいえ、このまま喫茶店から煙草の匂いが消えていくのは、ちょっとだけ寂しい気もする。


もう少し大きくなってから、叔母といった喫茶店で、初めてバニラアイスの乗ったソーダを飲んだとき、いたく感動したことを覚えている。海の底みたいに、きれいな青色だった。

数年前、祖母と入った昔ながらの喫茶店で、メニューの中にソーダを見つけて思わず頼んだことがある。記憶の中と同じ、青いソーダ水にバニラアイスとさくらんぼが浮かんでいて、嬉しくなってしまった。

生クリームがたっぷり乗ったココアも、フルーツがたくさん盛られたパフェも、クリームソーダも、全部喫茶店で覚えた味ばかりだ。


大学生の頃は喫茶店でバイトをしていた。個人でやっているような、こじんまりしたお店。常連さんはもちろん、若い女の子たちや家族連れも多かった。

まかないと一緒に、好きな飲み物を飲んでもいいことになっていた。そこで初めて、コーヒーの味を覚えた。それまでは、砂糖とミルクのたっぷり入ったものじゃないと、とても飲めなかった。

砂糖もミルクも入れなくたって、美味しいコーヒーは美味しい、とそのとき初めて知った。働いた後だから、よけいに美味しく感じたのかもしれない。コーヒーが飲める、なんて大して自慢にもならないけれど、ちょっとだけ大人になれたような気がして嬉しかった。


最近では、家でもちょっとした喫茶店気分を味わって楽しんでいる。モーニングみたいな朝食を作った日とか、近所でケーキやパンを買ってきたときとか、美味しいお菓子を頂いたときとか。

一時期は道具もそろえて、挽いた豆から淹れていたけれど、面倒くさがりな性格もあって続かなかった。今は比較的お手軽なドリップコーヒーに落ち着いている。種類によって、色も香りも味も違うので、飲み比べられるのが楽しい。

こんな時なので、思うように喫茶店にも行けず。自家焙煎のお店とか、サイフォンで淹れてくれるお店とか、本格的なコーヒーがたまに恋しくなる。外まで漂うコーヒーの良い香りにつられて、お店にふらふらと入っていた頃がすでに懐かしい。

またいつでも気軽に、コーヒーを飲みながら友達とおしゃべりしたり、まったり読書したりできる日が来てほしいなと思う。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?