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高濃度の“よもゆめ”を浴びせられて、おれは灰になるしかなかった『SSSS.DYNAZENON』

 2021年4月、『SSSS.DYNAZENON』の放送/配信が始まった。最新話の配信が楽しみで、金曜の夜は眠気との闘いが日課になった。地上波組の感想をシャットアウトしたくて、SNSも極力開かなかった。しかし、初めこそ視聴の動機は、この世界のどこかにあるのかもしれない新条アカネの幻影を探し求める、哀れで虚しい片思いだった。

 いつでも探してしまう、どっかに君の笑顔を。マサヨシ繋がりで『秒速5センチメートル』みたいな接し方をしていたダイナゼノン。なのにいつしか、彼らの青春に本気で夢中になって、おっきくなったアンチくんに親心をくすぐられ、ハイカロリーな作画の合体シーンに胸躍り、そしておれは画面の向こうにしか存在しない男女の恋愛を、本気で応援するようになっていった。あぁ、おれは来週からどうやって“よもゆめ”を摂取したらいい?これが、寂しい…?泣いているのは、私……?(そっくりさん)。

 『SSSS.DYNAZENON』は、『電光超人グリッドマン』を原作としたヒーロー/ロボットアニメである。と同時に、これ以上ないくらい爽やかで微笑ましい、青春群像劇だ。オープニング主題歌で宣言されている通り、悩みや鬱屈を抱えた若者たちが、「ぼくらの未来」を勝ち取るまでの物語。怪獣と言う名の非日常が襲ってきて、やりたいことや守りたいものと向き合って、少しだけ前に進もうとした、変わっていくことを恐れなかった者が明日を手にするまでの成長譚。

 そうしたキャラクターたちの物語に感情移入させられたのは、登場人物たちがどこまでも等身大で、彼らの抱える生きづらさが、共感を呼ぶものだったからに違いない。

 新しい父親になるかもしれない存在を受け入れられず、早く家から出ようとする麻中蓬。姉の死を機に不和に陥りかけた家庭に居場所を見つけられず、学友とも距離感を計りかねたまま生きるしかなかった南夢芽。社会のレールに乗ることが出来ず、モラトリアムの中で生きる山中暦と飛鳥川ちせ。ダイナゼノンに偶然か必然か選ばれた彼らは皆、人間関係や社会との関わりの中で摩耗し、あるいは逃げ出してしまった人たち。一度ドロップアウトした「正しさ」に戻ることも難しく、ただ毎日を生きてここではないどこか(あるいは、今とは違う自分)への羨望を募らせる彼らは、今置かれた状況や日常が一変することを望んでいたのかもしれない。

 そこに現れたのがガウマや怪獣使い、そして「怪獣」というイレギュラーな存在。怪獣は人の情動から生まれ、日常を破壊する。怪獣使い=怪獣優生思想は、怪獣によって現代の文明を破壊しようとする。怪獣優生思想はかつて5000年前に人に裏切られた恨みから怪獣を差し向けているようだが、その実態はダイナゼノン組と同様に、「正しく生きられなかった人」の寄せ集めであった。社会のルールや規則から脱落し、それを壊すことでしか生きる道を模索できず、その怒りを怪獣に託す。その身勝手な主義主張が、怪獣という具体的な暴力となって日常に侵食していく。

 一方で、ガウマだけはただ一人、「今」を生きようとしたキャラクターだった。悲運の別れを遂げた姫にもう一度出会うため、蘇った命を懸命に繋ぐ。明日を生きるためにアルバイトに精を出し、美味しそうにご飯を食べる。そんなガウマの真っ直ぐさが蓬らをまとめ上げ、ダイナゼノンはどんどん強くなっていく。

 ダイナゼノンを操る若者たちと、怪獣優生思想。彼らは実のところ鏡合わせの存在であり、現に怪獣使いの素質を見せた蓬の例を見れば、いつ何時ダイナゼノン組の誰かがヒーローから悪に転じるかわからない、綱渡りの状況にあった。それでも最後まで正義の味方でいられたのは、ダイナゼノンという「居場所」があったからなのだろう。

 ダイナゼノンに乗って怪獣と闘う。その日常は彼らに「役割」を与え、いつしか隣り合う人が「仲間」になっていく。夢芽は信頼できる仲間、ちせは最高の友達と出会い、暦は自信を育て、蓬は夢芽を守りたいとヒーローになる。壊すのではなく、守るために闘うことで自分が満たされてゆく。そうしたメンバーの精神的支柱としてガウマがいて、「誰一人欠けたら怪獣には勝てない」という言葉で蓬たちの存在を肯定する。彼らが悪に堕ちなかったのは、一番欲しい言葉をくれたガウマがそこにいたという、シンプルにして絶対の理由があったからだと思いたい。「今キミが必要なんだよ」と言ってくれる誰かのために闘う時、人はヒーローになれる。そんなことを教えてくれたダイナゼノンの物語が、私は大好きだ。

 それはそれとして、“よもゆめ”ですよみなさん。こんなに可愛いカップル最近ご覧になりましたか??最終回のアレ、深夜なのに声出ましたからね。

 よもゆめ、1話だと夢芽がいつもの如く約束をすっぽかすことで蓬を試すところから始まるんですけれど、蓬は怒らないんですよね。怪獣騒ぎでうやむやになったとはいえ、決して夢芽を責めなかった。これ、「誰かに甘える/誰かを頼る」ことをハチャメチャに苦手とする夢芽にとっては雷に打たれたような出来事だったと思うんですよね。

 で、その出来事があったからこそ、夢芽は姉の生前の姿を探る旅に蓬の同席を許すし、墓参りのシーンにおける「蓬くんなら私の話聞いてくれると思って」という台詞が大きな意味を帯びてくる。夢芽は他者を避けているようで、その実めっちゃくちゃ他者とのコミュニケーションに飢えている。他者を理解したいし、理解されたいという内なる欲求に気づき、何かと蓬を気遣って風邪を引けば何だかんだお見舞いに行くし、いつの間にか鳴衣ちゃん以上に学校で一番同じ時間を過ごしているんですよ!?

 そんな男の子にさぁ、「もう南さんのお姉さんは他人じゃない」って言われて泣かれた日にはさぁ、もう“大切”になっちゃうじゃん……。わざわざ時間をかけても浴衣姿を見てもらいたかった……ってコト!?

 麻中蓬くん。麻中蓬さんなんですけど、彼もまたメチャクチャにヒーロー適正が高い。夢芽に惹かれていくにつれ、いつもは距離感を伺いながら会話するくせに、キメる時はバッチリとキメる。落ち込んだ時は必ず優しい言葉をかけて、夢芽を守るためならダイナソルジャーでどこだって駆け付ける。そんなひた向きさと優しさで夢芽の心を解きほぐしながら「好きです。付き合ってください」と正攻法120%の告白が堂々と出来る男なんスよ……。惚れた。あんなん、人生で一度は体験したいシチュエーションすぎるでしょ。おれがよもくんの彼女になりたい……けど“よもゆめの間に挟まる男”にはなりたくない……。

 第10話、もうここ完全に『ヱヴァ破』のシンジくんすぎる。誰かのためじゃない、あなた自身の願いのために、邪魔な壁を打ち破って手を差し伸べる救いのヒーロー(ここで夢芽が思い出す蓬の姿が香乃を想って泣く蓬くんの姿なの、100点満点なんだよな)(ろくろを回すポーズ)。

 11話、告白の返事が聞けなかったことを思い出して、ダイナソルジャーに乗り込むよもくん、完全に「今」と「未来」を生きる主人公になっているし、知恵の輪を解いたことで過去と一区切りしたことで悩みを断ち切った夢芽も迷うことなく最終決戦に挑む。で、最終話なんですけど、つ、つ、付き合っとる?????!?!??!?!?!?夢芽さんカレンダーに書いてる「プレゼント買う」って、何?えっ付き合い始めて最初の誕生日よもくんが先なん……??文化祭の日、屋上で座り込んでたのクラスと馴染めてないってよりは「蓬くんが迎えに来るのわかってて待ってた」よね?そんな甘え方いつ覚えたの???????????「恥ずかしいくらいがいい」っていつ気づいたの???????

ダイナゼノンくん「TRIGGER作画のロボットアクション、主題歌流れるラストバトル、ガウマさんとのお別れ、こよちせ、エモい合唱、よもゆめ、全部乗せてみたんですけど」

ぼく「加減しろ莫迦!(ありがとうございます)」

 よもゆめ、どのシーンどの場面取り出しても「可愛い」「微笑ましい」「よもゆめを見守る学校の壁になりたい」が詰まっているし、割り振られたエモと作画(主に髪のなびきや清潔感の表現)のリソースがアクション要素と同等か、時にはそれ以上になっていて、特撮ファンとしてグリッドマンのアニメを楽しむつもりが(それはそれでお腹いっぱいにさせてくれたけれど)ボーイミーツガールをノーガードで喰らって死んだみたいな感想になってしまった。『SSSS.DYNAZENON』を観て、怪獣や令和に蘇ったダイナドラゴンそっちのけでよもゆめ優生思想に染まるとは、完全なる予想外。本当にありがとうございました。よもゆめはいいぞ。

(以上です)
(お付き合いいただきありがとうございました)

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