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元ボクサーから女子高の教師に転職した俺が失踪した女生徒を探すことになった件について『守護教師』

 お待たせしました、「真夏のマ・ドンソク祭り」第2弾のお通りでございます。今回は大本命、「女子高の体育教師がマ・ドンソク」なあらすじだけで100点満点の『守護教師』をご紹介。現役女子高生の男の好みを「くまさんみたいな人」に変えてしまいかねない取扱注意の一作、いったいどのような映画なのだろうか!?

暴力が原因でコーチの職を失った元ボクシング東洋チャンピオンのギチョルは、女子高の体育教師という新しい仕事を得るが、町の雰囲気と女生徒の扱いに頭を悩ませていた。ある日、授業料を滞納しているユジンという生徒と知り合うが、彼女は突然失踪した友人を探し回り、町中にビラを貼っていた。ギチョルは事の真相を調べるが、他の教師や警察もただの家出と決めつけ、ロクな捜査もされていなかった。そんな中、ユジンが何者かに襲われ、ギチョルは街に巣食う闇と直面する。

 まず初めに明言しておくべきことだが、本作はいわゆる「ナメてた相手がマ・ドンソク」映画の系譜とは少し離れた位置にある、ということ。暴力は発動する場面は限定的だし、悪を残らず蹴散らしてざまぁ見やがれ!というようなテンションの作品では決してない。描かれるのは、よそ者に排他的なコミュニティの寒々しさと、利権のために横行する隠蔽や殺人といった、どこの国にも必ずあるはずの仄暗い真実。アクション映画というよりは、郊外の閉鎖的な街を舞台としたスリラー・サスペンスの趣きのある作品である。

 女子高生ユジンは、失踪した親友スヨンを探すために活動しているが、教師や警察といった大人からは相手にされず、同世代であるはずの級友たちの間でも浮いてしまった少女。女子高生の失踪なんてよくあること、くだらない家出に決まっている。そんな風潮に支配されたこの街は、寄る辺の無い地獄のように彼女を責め続ける。

 そんな町に引っ越してきたのが、マ・ドンソク演じるギチョルである。彼もまたよそ者として忌避され、親子ほど年の離れた現役JKからは「まるでヤクザね」と言われる始末。礼儀のなってない小娘どもを一発どついたるねん!なシーンもあれば溜飲も下がるが、今のご時世そういうわけにもいかず、今日も今日とて授業料の取り立てに奔走している。

 そんなギチョルがユジンの活動を知り、そして彼女が実際に何者かに襲われる現場に居合わせることで、この町の異常性に気づき、独自の捜査を進めて行く。次第に明らかになる、汚職と隠蔽の連鎖、女生徒に向けられた教師からの性的なまなざし。救いのない田舎町の現状を描く前半パートは、暗く重苦しい。

 そんな世界でも頼りになるのは、筋肉とマ・ドンソクである。今回は元ボクシング選手という設定を活かし、重たいジャブとストレートで悪いヤツらをノックアウト。扉や窓ガラスを割るシーンがやたら多く、ドンソクさんの拳の凄みを映像で語る演出が多々あるのはありがたい。とはいえ、アクションのバラエティの豊かさでは『無双の鉄拳』の方が勝っており、目指す作風が異なる両作を並べて観られるのは今回のドンソク祭りの面白い点であった。

 社会に根付く闇と向き合い、不器用ながらも拳で打ち砕いていく、頼りになる男マ・ドンソク。しかし本作が(作風ゆえに)アイドルムービーとしての醍醐味を欠いているのは、あらすじを思い返せば大変勿体なく感じる。

 何せ「女子高の教師マ・ドンソク」という絶好の設定を用意しておきながら、授業のシーンが一切描かれないのである。現役JKだらけの空間に、一人くたびれた大男が佇んでいて、しかもその男はマ・ドンソクである。そんな勝利が約束されたシチュエーションを提示されて、撮らない監督がいるのか??女子高生の扱いに手を焼き、一人悪態をつきながらも低姿勢で応対したり、うっかり大声を出しちゃって「マズい!」とマブリースマイルで誤魔化すマブリーが観たいと思わないか?おれは観たい。しかし本作はそういう需要には応えない、硬派な映画だということである。

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