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おまえもいずれ『大逆転裁判1&2』のシナリオの完成度に打ち震えるしかない。

 3月。決算期を前に、多くのゲームがセールになってお得に買える季節。そんな折、複数のフォロワーが絶賛していたゲームが半額になっているのを発見。公式サイトもPVも観ることなく、即・購入しました。

そして今、クリアしました。もう11月ですが。

 その名も『大逆転裁判1&2 -成歩堂龍ノ介の冒險と覺悟-』。カプコン社の人気シリーズ『逆転裁判』の主人公の祖先にあたる成歩堂龍ノ介が数奇な運命によって弁護士となり、異国の地で様々な事件を担当する中でやがて巨大すぎる闇と闘うまでを描く、2作のゲームが一本のタイトルになった今作。

 身も蓋もない結論を先に言ってしまえば、すっげぇ面白かった。長いし集中力と推理力を試される瞬間もあるし、荒唐無稽すぎる点もあるけれど、そういった欠点を全て帳消しにしてもお釣りが来るほどの読後の達成感と、驚き。全ての因果が収束するシナリオの完成度はプレイヤーの想像の上を超える展開の連続で止め時を見失わせ、それでいて納得と感動が一気に押し寄せるクライマックス。全ての真相を悟った時の緊迫感と、最後の証拠を叩きつける際のボタンを押す「重み」は、このゲームに深く魅入られ感情移入していた何よりの証拠だと思う。これはもう、文句なしで傑作と呼んでいいADVになるはずだ。

ゲームとしては実は“弱い”

 実は本作に手を付ける前に、偉大なる初代こと『逆転裁判 蘇る逆転』をクリアまで遊んでいたのだけれど、「現場や証言から見つけた【証拠】を【ムジュン】に叩きつける」というゲームの基礎の部分はすでにこの時点で完成されていて、本作もまたその系譜を継いでいる。ゆえに、逆転裁判らしさを受け継いでいるのと同時に「遊び」の部分はゲーム開始からクリアまで大きな変化はなく、同じことの繰り返しのように感じるプレイ体験には、正直思うところがないわけではなかった。

 本作はとくにテキスト量が膨大で、1話を読み切るのにかかる時間は短いものでも体感で3時間ほど。終盤に近づくにつれさらにシナリオが長くなっていくので、最終章なんて朝8時に遊び始めたのにエンドロールを迎える頃にはお昼を過ぎていた、なんてことも。その間、ひたすらテキストを読み、証人や被告人の証言の全てに「待った!!」をかけて追加の証言を引き出し、ムジュンを見つけては証拠品を突きつける。時折アクセントとして挟まれる「陪審バトル」も、結局は二者の発言から生じるムジュンを突きつける亜流に過ぎず、劇的な展開を見せるシナリオに対しゲーム部分は地味で地道な印象を抱きつつあった。

「英国市民の中から無作為に選ばれた陪審員」の中に
「たまたま事件に関連する証言ができる人物がいた」展開も多かった。

完璧な大団円

 それでもクリアまで見届けなければ!というモチベーションを保てたのは、ひとえに魅力的なキャラクターと、核となるシナリオ部分にあったのは間違いない。法廷を舞台にする以上、殺人などの重たい犯罪を扱うわけなのだけれど、登場する証人や容疑者は揃いも揃って個性の見本市かというくらい飛び道具ばかりだし、合間合間に挟まれるコミカルなテキストや豊かなモーションから発される“陽”の感じが重苦しさを廃し、起こった事件の凄惨さを和らいでくれたように今となっては思い返せる。

CV:中村悠一の圧倒的頼もしさ。

 初っ端から「お互いを相棒と呼び合う親友同士」に始まり、英国に着けば「【死神】と呼ばれ畏れられる検事」「名探偵シャーロック・ホームズその人」「なぜか英国で殺人の容疑者になっている夏目漱石」とかが矢継ぎ早に登場し、キャッチーな関係性と登場人物がこれでもか!と出てくるので常に賑やかで飽きさせない。史実の人物でさえ『逆転裁判』の味付けをされ強烈な個性とモーションで豊かに躍動し、それでいて主人公のお株を奪わない程度に大活躍する姿に、好感度がどんどん増していく。

 基本的には主人公・成歩堂龍ノ介の冒険と成長譚であり、幾多の裁判を経ることで驚くスピードで一人前の弁護士になっていく彼を画面越しに見守りつつ、脇を固めるキャラクターたちが入れ替わり立ち代わりに成歩堂をアシストして、そこから手に入れた証言やアイテムが証拠となり敗戦一色に思えた局面を逆転する……。こうしてかなり大きく広く広がった相関図を総ざらいするかのように「お前も!お前も!全員関係者!!!!」と指を突き刺していく最終の2章には、本当に面食らってしまった。

「このツラで声帯が津田健次郎なわけないだろ」と思ったら
本当にCVが津田さんだった。

 そもそもこのゲームはかなり肝っ玉が太く、「1&2で二本分のゲームが楽しめるからお得だね」と思っていたらその実なんと正真正銘の前後編。一作目の1〜5話は物語を完結させることを完全に放り投げており、ありとあらゆる伏線をそこら辺に散らかしたまま「おれたちの冒険はこれからだ」とプレイヤーを置き去りにして爽やかな顔でエンドロール。3DSで発売された一作目発売当時はなんと驚くことに2の製作そのものがアナウンスされていなかったらしく、そうした先人たちが怒りと困惑に苛まれた歴史の上でこの二作1パッケージが生まれたのだと思うと、感謝を禁じえない。

 その思い切った構成ゆえに『2』はこのゲーム全体の回答編となっており、過去に登場した人物や事象、証拠品に至るまでが総登場し「英国司法最大のスキャンダル」というゴールに結実すべく、怒涛の勢いで全ての伏線を回収して回る。この「怒涛」を文字に起こすのが本当に難しくて、ネタバレせずに説明する手段が思いつかないままここまで2,000字以上を費やしている苦労を、既プレイの方ならわかっていただけると信じている。

 2展3展する法廷劇、最後に待つどんでん返しとド派手な真犯人のやられっっぷり、時にモヤモヤとさせられる真相もあれどクライマックスは全ての霧と闇を払うことを約束するトンデモナイ完成度の最終章。このゲームの真骨頂にして、すでに遊んだ者が声を揃えて絶賛するのは演出とテキストとBGMがその盛り上がりを最高潮に高めるシナリオであり、今素直に「まだ大逆転裁判を遊んでいない人が羨ましい」とさえ感じる。それほど唯一無二の読了感を、本作は与えてくれるのだ。

 私の拙い文章力では、ネタバレ抜きに語るのはここが精一杯。なので、後はご自身の目で確かめてほしい。約束するが、あなたは必ず、最後の「つきつける」瞬間に指と心が震えるはずだ。

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