見出し画像

頼むから #パトレイバー4DX を観に行ってくれ。時間がないんだ。

 タイトルで全て出し切った気がするが、何度でも念押ししよう。頼むから、『機動警察パトレイバー the Movie 4DX』を観に行ってくれ。DVDや配信じゃ意味がないんだ。今この瞬間、この作品を劇場で観ること、それも4DXに搭乗することに意味があるんだ。きっと忘れられない経験になることを保証する。さぁ今すぐ座席を予約して、街に出よう。

 アニメファンをやっていればもちろんパトレイバーは義務教育…と思っていたが、若い世代にはパトを全く知らない人も当然いる。そんな人にいきなり劇場版を押し付けても「TVシリーズ観てないし」「古いアニメ映画に4DXの追加料金なんて払えない」と門前払いされるのがオチだ。ならばせめて、『機動警察パトレイバー the Movie』(以下、劇パト)がいかに面白い作品なのか、ネタバレしない程度にお話しよう。鑑賞済みの方はここは飛ばしてもらってかまわない。

3分ちょっとでわかるパトレイバー

 まず、『パトレイバー』とは、ロボットSFモノであり、警察ドラマである。20世紀末の東京を舞台に、高度に発達した2足歩行式の作業ロボット「レイバー」が主に建築業界で活躍する中、レイバーを悪用する犯罪を取り締まるおまわりさんの物語…それがパトレイバーだ。

【あらすじ】
政府「用地確保のために東京湾の一部を埋め立てるわ」
機械産業「作業効率アップのために作業用ロボ作りました」
警察「そのロボットを悪用する奴ら多すぎるからレイバー犯罪対策課を創設したいんだが」
政府「おk」

 以上が、『パトレイバー』の基礎中の基礎だ。ロボット犯罪はロボットで取り締まる。警察のレイバーだからパトカー×レイバーでパトレイバーだ。白く輝くボディは普段見慣れたパトカーの車体を彷彿とさせ、実際の警官さながらにリボルバー拳銃で平和を乱す輩を追い詰める。冗談みたいなお話だが、まさしく“機械の警察官”なのだ。

 さて、パトレイバーはOVAから始まり、TVアニメや漫画版に実写版と様々なメディアミックスが展開された息の長いシリーズだが、現在公開されている劇パトは単体で楽しめる、ということもお伝えしなければならない。ある意味、入門編としてうってつけの作品が、現在全国の劇場で公開されている。これは千載一遇のチャンスと言っていい。パトレイバー、名前は知っているけど観たことなくて気になっている。そんなアナタ、今なら考えうるかぎり最高のシチュエーションで劇パトが観られますよ!ということだ。

【劇パトのあらすじ】
レイバーの画期的な操作OSである「HOS」を単独で作り上げた天才プログラマー・帆場暎一(ほば えいいち)が、東京湾埋め立てプロジェクトの要となる施設「方舟」から飛び降り、この世を去った。時を同じくして、レイバーが突如暴走する事件が多発し、政府はその対応に追われていた。
パトレイバーをもってレイバー犯罪に立ち向かう特車二課第2小隊の面々は度重なる出動に疲弊していたが、隊員の一人である篠原遊馬(しのはら あすま)は多発するレイバー暴走には「HOS」が関係していることを突き止め、即座にレイバーのOS書き換えを具申する。しかし、帆場暎一の仕掛けた犯罪の規模はすでにこちらの予想を超え、都内に配備された数千機のレイバーが暴走する危険性が迫っていた。すべては、大型台風が首都上陸するその日に決まる。特車二課第2小隊はレイバー暴走の引き金となる「方舟」を解体するため、緊急出動するのだった。

 劇パトの公開は1989年。劇場で販売されていたパンフレットによれば、まだ家庭用PCがようやく出回りだした頃合いで、一家に一台、というような時代にはまだまだ到達していなかった。スマホはもちろん、携帯電話さえ当たり前でない20世紀末、劇パトは未来を警鐘するかのように「OSの暴走」というモチーフを扱い、システムによる一極集中管理の危険性を描き出している。

 デバイスに慣れ親しんだ現代の世代であれば、この恐ろしさはきっと響くだろう。例えば、駅の構内や街中に配置されたモニターが故障し、ブルースクリーンが表示されている写真をSNSで見たことはないだろうか。普段当たり前のように稼働しているインフラ、例えば銀行のシステムや信号機の管理、コンビニのレジに至るまで、あらゆるものがWINDOWSを基幹に動作している。では、そのWINDOWSが意図的に破壊や改変を受ければ、どのような混乱が起こるか。そうした問題提起を、先駆的にやってしまった劇パトはアニメファンから不朽の名作として支持され続け、やがて時代が追いつき、追い越された。しかしそれでも劇パトは全く古びておらず、むしろ令和の時代にアップデートされたはずの社会でも起こりうるパニックを描き出した点で、万人に薦めたい一作たりうるのだ。

 その一方で、エンターテイメントしても破格の面白さを誇るところが劇パトの真骨頂である。すでにこの世を去った犯人からの不敵な挑戦状とその目的が全編に不穏さを醸し出し、予期される社会不安を前に揺れる政府や警察上層部に翻弄されながらも「正義の味方」として危険な任務に挑む特車二課第2小隊・パトレイバー部隊のロボットアクションは、現代の基準でも見ごたえ十分だ。後に『踊る大走査線』シリーズに多大な影響を与えたパトレイバーの、その中でも最もエンタメ志向な劇パトは、繰り返すが入門編に最適の一作。必ずや劇場料金の元は取れると、保証できる面白さだ。

なぜ4DXが最高の環境なのか

 ここからは、すでに劇パト鑑賞済みの方も対象にしたプレゼンになる。どうせ劇場に行って、普段より割高な料金を払うのなら、それ相応の満足を得たい。劇パト4DXはそれに見合う作品か否かを知るまで、座席を予約する勇気がない人がいるとすれば、その人の背中を押して箱舟から突き落とすのが、本テキストの目的である。

 まず、4DXとは何であるかは以下のページを参照いただくとして、その醍醐味はやはり体感性にある。揺れる座席に吹き出る水、またたくフラッシュやエアーによって、まるで映画のワンシーンを直に体験するような感覚。そのアトラクション性は正直なところ、作品との相性を選ぶところがあるのだが(※個人の感想です)、こと劇パトによっては相性抜群、わかる人だけに伝わる言葉でいうなればガルパン級とだけはお伝えしておきたい。

 まずその魅力が炸裂するのは冒頭、暴走したレイバーと自衛隊が戦闘を繰り広げるシーンにおいて。森の中をあてもなく激走するレイバー、その激しい駆動に合わせるかのように座席は左右に揺れ、ミサイルや機関銃の発砲にはフラッシュがその臨場感を増してくれる。ついに追い詰められた暴走レイバーは自衛隊から集中砲火を浴びるのだが、その間座席は揺れフラッシュは何度も炊かれ、まるでその暴走レイバーに乗り込んだような…というよりはレイバーそのものになってしまったかのような感覚が味わえる。序盤から4DXフルパワーで映画の世界に放り投げられた観客は、間髪入れずに大音響から鳴り響く川井憲次サウンドに包まれ、そして大スクリーンには『機動警察パトレイバー』のタイトルが顕現する。このエクスタシー、2020年に劇場で劇パトを観ているということを実感させられる至福の瞬間は、まさに今劇場でしか味わえないのだ。

 やはりパトレイバー4DXの白眉は、クライマックスの箱舟の一連のシーン。未見者のためややぼかして書くが、本作には「台風」が重要なモチーフとして描かれる。東京に大型台風が迫る中、パトレイバー隊は危険な任務に挑まなければならない。そのシチュエーションに我々観客も半ば強引に引きずり込まれてしまうことこそ、劇パト4DXの真骨頂だ。

 例えば、キャラクターが激しく荒れる大海原に出れば、場内は大型ファンからの強烈な風に横から殴られ、上から滴り落ちる水は本当に雨のよう。映画の中に入り込むという4DXの真価が、20年前の作品と驚くほどのマッチングを見せ、こちらもつい真剣に見入ってしまう。

 作品の性質上、クライマックスは何度も風に煽られ、何度も水に濡らされることになる。かなり肌寒いことになるかもしれない。だが、劇パトにおいてはこれで正解なのだ。我々は、あの「風速40m」の世界を疑似体験することが出来る。突風と水にさらされながら観る劇パト、最高じゃないか!4DXという最新の上映システムによって、20年前の作品がこれまでにない臨場感が得て生まれ変わり、見慣れた作品がこれまでより何倍も面白く、感情移入させられてしまう。だからこそ、今劇場で観ることに意義があるのだ。自宅の環境では得られない、今でしか味わえないパトレイバー体験。これを得ずして劇パトを観た気になるのは、あまりに勿体ない。何度も繰り返すが、今が最高の環境で、その最高は期間限定なのだ。頼むから、パトレイバー4DX を観に行ってくれ。公開が終わったらもう味わえないんだ。

 劇場体験を文章にしたところで伝わらない部分の方が大きいのだから、このテキストは独りよがりなものになる。それでも、出来れば劇パト4DXは長く続いてほしいし、定期的にリバイバルしてほしい。そのためには今、たくさんの人に観てもらうしかないのだ。お願いだ、騙されたと思って、劇場に行ってパトレイバー4DXを観てくれ。きっと面白いから。お家で何度も観たよって人も、パトレイバー知らないよって人も、最高のコンディションで劇パトを観られるチャンスを逃してほしくない。後になって劇場で鑑賞したことを自慢できるような作品は、本当に貴重なのだから。

この記事が参加している募集

いただいたサポートは全てエンタメ投資に使わせていただいております。