無題

「共存」を目指す意欲作『ウルトラマンタイガ』は子どもたちに未来への宿題を送り続ける。

 「タロウの息子」「三人のウルトラマンに変身可能な主人公」「トレギアが続投」「放送開始直前のキャスト変更」など、放送前から情報量が多すぎた2019年放送のウルトラマンシリーズ最新作。1話からニュージェネレーションヒーロー揃い踏み、ミニチュアセットの造りこみも緻密かつ斬新なカットも増え、ウルトラマンブランドのゆるやかな、しかし着実な復権を象徴する出だしから一気に駆け抜けるような2クールが、令和初のウルトラマンの活躍を華々しく活写した。同時に、本作はどこか昭和のウルトラマン、『タロウ』というよりは『セブン』に近い後味を残し、子どもたちに未来への宿題を毎週渡してくるような、そんな印象を抱くに至った。その軌跡を、ネタバレ込みで振り返っていきたい。

「多様性」を描くニューヒーロー

 実のところ、「タロウの息子」というタイガの出自については、あまり本編ではフィーチャーされることはない。『ジード』がベリアルの息子という運命を濃厚に描き切ったこととの差別化だろうか、息子ウルトラマンらしいアイデンティティの揺らぎや葛藤といった場面もなく真っ直ぐな性格のタイガは、少年のような純粋さを感じさせる朗らかなニューヒーローだ。

 そんな本作が描こうとするのは、「宇宙人と地球人の共存」を巡る、いわば多様性の物語。地球にはすでに多くの宇宙人が隠れて暮らしており、その事実が世間一般にはあまり知られていない世界を舞台に、民間警備会社に勤める青年がウルトラマンとなり、様々な戦いを経る。その過程で、怪獣やウルトラマン、宇宙人の存在が周知のものとなったとき、地球人はどうするべきか。そうしたテーマを扱う際、どうしても「差別」「迫害」のニュアンスが描かれることは避けられず、中にはわりとショッキングな場面も。様々な人種や言語、肌の色が違う人々と接することも当たり前になった時代で、『ウルトラマン』が子どもたちに伝えるべきメッセージとしてこのテーマを選んだことが何より意義深い。宇宙人は総じて人間とは容姿の異なる「異物」として登場するが、意思の疎通ができ、仕事にも就き生活をする者もいる。我々はキミたちと何が違うのだ?と語り掛けてくるような宇宙人との対話は、子どもたちに考える機会をたくさん与えてくれただろう。

 本作における「宇宙人」は、身近な例で言えば外国人のように、「自分とは異なる人」のメタファーとして描かれている。そして人間とは、自分とは異なる者、理解できない者を恐れ、忌避し、それが「迫害」を生む。このメカニズムをサラリと登場人物に語らせ、実際にその場面を見せることで、子どもたちはショックを受けるかもしれない。確かに、宇宙人の容姿は人間のそれとは大きくかけ離れていたり、怪獣を送り込む「侵略者」のニュアンスも描かれる。同時に、ウルトラマンとて宇宙人である。主人公ヒロユキの先輩であるホマレもそうだ。宇宙人には良い人も悪い人もいる。我々人間にも通じる「当たり前」を子どもたちに繰り返し訴えてきた『タイガ』は、クライマックスでその学びを復習する。

 24~25話の前後編に及ぶ最終話、怪獣ウーラーの来襲を機に、地球人による宇宙人排斥のムードが高まる様子が描かれる。プラカードを掲げ、大勢で宇宙人は出ていけ!と叫ぶ地球の「大人たち」を観て、子どもたちには何らかの違和感が生まれたのではないだろうか。「宇宙人には良い人も悪い人もいる」のに、テレビの大人たちは「宇宙人みんな」に地球から出ていけと怒る。大人の視聴者である私がテレビから受け取った(しかしついやってしまいがちな)大人の醜さへの抵抗感、それを子どもたちがまだ言語化できないなりに受け取ることができたとすれば、本作の価値はとてつもなく大きい。

 そしてこの番組は、主人公たちによってデモを行う地球人に対し断罪も批判もさせない。その代わり、一部の者は宇宙人によって助けられ考えを改めたり、主人公の職場に宇宙人社員が受け入れられることで、少しずつ理解と共存の可能性が見え隠れするような、そんな淡い希望が描かれる。これがとても誠実で素晴らしい着地だったように思う。一度根付いた差別意識は悲しいかな、そう簡単に拭い去ることはできない。その現実を見据えつつ、それでも小さな和解を見せ未来に希望を繋いでいく。他者を理解することの難しさと正しさを描く『ウルトラマンタイガ』の眼差しは、どこか暖かい。

「絆」を断つ者・トレギア

 劇場版『ウルトラマンR/B セレクト!絆のクリスタル』から引き続き登場する悪のウルトラマン・トレギア。残忍かつ冷酷で、その正体はタイガの父親であるタロウの元親友。ヒロユキと心通わせた怪獣の命を奪い、トライスクワッドを一時は解散にまで追い込んだ闇の戦士。普段は紳士的に振る舞いつつ、外道という言葉が相応しい暗躍で場をかき乱し、タイガに挑戦し続けてきた。

 その目的もタイガを闇に染めるというもので、シリーズ後半からはタロウに対する異常なまでの敵意と、タイガへの嫉妬交じりの執着を見せる強烈なヴィランとして存在感を打ち出してきた。「親友が闇に染まったウルトラマン」という意味ではウルトラの父ーベリアルの関係を彷彿とさせるも、トレギアもまたタロウへの並々ならぬ対抗心を抱いており、その息子を傀儡にして光の国をも亡ぼそうとする屈折っぷりが最高。そのためにトレギアは、タイガとヒロユキ、トライスクワッドとの絆にメスを入れる。

「絆……?二言目には絆  絆 うるさいんだよ、地球人風情に何ができる……!」
「もう君は地球人がいなくても変身できる。新しい相棒は闇のエネルギーというわけだ。君と僕とで、バディゴー」
「おやぁ?絆とか大層なことを言っておきながら…他の二人はどこだぁ?見捨てられちゃったのかなぁ…? 」

 「絆」とは、直近のウルトラ映画のサブタイトルにも用いられた通り、シリーズに通底するワードである。絆の力をお借りした『オーブ』もいるし、絆を得て合体するウルトラマンだっている。そうした、近年のウルトラマンの力の源といってもいい「絆」へのカウンターとしての存在が、トレギアである。闇に落ちたきっかけは今のところ明らかになってはいないが、おそらくはタロウとの絆の解消(と本人が思い込んでいる)に起因することが予想されるし、チビスケを殺したりタイガをヒロユキから引きはがしたのも「絆」が目障りだったからだ。トレギアは絆を断ち切ることで光が闇に変わることを学び、その境地に引きずり込もうとする。人と人との繋がりを示し、3.11以降のヒーローが、いや日本人が掲げてきたこの言葉を、トレギアは強烈に憎む。3月公開の劇場版ではタロウ本人を闇落ちさせるくらい、もうやりたい放題だ。

 そんな挑戦に対しウルトラマン側(作り手)の回答は「絆は途切れない!」というわけでトライストリウムが誕生し、敗北を迎えるトレギア。だが、彼も完全に滅びたわけでもなく、劇場版への続投は確定している。これでお別れになるのかは現状定かではないが、現代のウルトラマンを揺るがすカウンターとしての絆否定論者トレギアには、正義の心をこれからも揺さぶり続けてほしい所存である。

「バディ」という絆の描きこみ不足について

 ここからは、特撮オタクとして大人げない感想を連ねる項目になるため、『ウルトラマンタイガ』を子どもに観せよう!と思った保護者の方々はここでお別れです。タイガ、お子様の教育としてとてもタメになるし、親子の会話のきっかけにもなります。ぜひご覧ください。AmazonプライムビデオやHulu、Netflixで配信中です(執筆現在)。

 ヒロユキがウルトラマンに変身する際の掛け声は「バディ、ゴー!」で、主題歌も「Buddy,steady,go!」とある通り、バディ=相棒という言葉が彼らを繋ぐ絆である。タイガはチビスケを助けようとしたヒロユキの優しい心を見て彼を選び、二人は幼い頃から実は一心同体であった。また、タイガ・タイタス・フーマは「トライスクワッド」というチームを結成しており、生まれた星も種族も異なるウルトラマンが同じ目的のために助け合う、番組テーマである「共存」を象徴する絆を本編開始前から有していた。

 ところがどうだろう、タイタス・フーマとヒロユキは相棒と呼べるだけの強い絆で結ばれていたように見えただろうか?タイタスとフーマは戦闘が始まるまで登場しない・台詞が無い回が多いためドラマシーンに絡む機会が乏しく、ヒロユキータイタス・フーマの関係の強まりがドラマを盛り上げるといったエピソードもないため、タイガを媒介になし崩し的にチームを組んでいるように見えてしまっている。

 トライスクワッドは本編開始時点から関係性が確立されていて、ヒロユキも戸惑うことなくウルトラマンを受け入れる。その間に価値観の衝突や互いに影響しあうだけのドラマもなく、「このウルトラマンにしか変身できない!」といった限定的なシチュエーションもない。そのため、三人のウルトラマンに変身できるという唯一無二の個性を持つ主人公を設定しながら、実際の場面は従来のフォームチェンジ、タイプチェンジの域を超えない「いつもの」ウルトラマンにしか見えない。マッチョと忍者という強すぎる個性のキャラクターなのに、彼らをウルトラマンとしての「機能」としてしか活かせていない現状の本編には、どこか歯がゆいものがある。

 そうした彼らトライスクワッドの成り立ちや活躍はYoutube配信のボイスドラマやウルトラヒーローズEXPO THE LIVE などで補完されるわけだが、もう少しTV本編でも踏み込んだ描写が欲しかった。タイタスとフーマ、それぞれ個別の主役回があっても良かったはずだ。「ヒロユキとタイガ」「タイガとタイタス/フーマ」が出来ていても、「ヒロユキとタイタス/フーマ」の絆の深まりが今一つ見えてこないのは、前述のトレギアがそのカウンターを担っている以上、とても惜しい。

ニュージェネ、クライマックスへ

 すでに既報の通り、『タイガ』の劇場版が3月に公開され、『ギンガ』から続くニュージェネレーションヒーローズ全員集合のお祭り映画として期待が高まっている。

 円谷プロの経営難からの失速、総集編番組で食いつないできた時代を経て、少しずつ豊かに、ゴージャスになっていき2クールで番組が製作できるまでの「体力」をつけてきたウルトラマン。『シン・ウルトラマン』や『ULTRAMAN』シーズン2を控えつつ、実写特撮TVシリーズについての今後の発表はまだなく、「クライマックス」が何を意味するのかは公開日までお預けとなっている。ついに人種問題を描くまで進歩したウルトラシリーズ、次ももっと観たい!と思ってしまうのが道理なので、これからも絆を繋いでいくヒーローの活躍を期待せずにはいられない。


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