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冒険すればするほど強くなる、『ゼノブレイドDE』の心地よいゲームデザイン。

 Nintendo Switch 専用ソフト『ゼノブレイド ディフィニティブ・エディション』をクリアした。10年前に発売されたWii専用ソフト『ゼノブレイド』に追加要素を加えたリマスター版でありながら、有識者曰く「実質リメイクと言っていいくらい手が入っている」「格段に遊びやすくなっている」と絶賛の嵐が吹き荒れ、その熱量に押され軽率にダウンロード版を購入したのだが、こんなにRPGに熱中するのは何年振りだろうかと思うくらいハマってしまった。今では出勤時のBGMは『名を冠する者たち』で、仕事でトラブルが起こるたびにずっと脳内で鳴り響いてしまっている。

 『ゼノブレイド』は、オンライン通信を用いた協力・対戦プレイが当たり前になった令和の時代でも一際輝く「腰を据えて一人で遊ぶRPG」だ。他のプレイヤーと交流する要素を一切持たず、広大な世界をただ一人で駆け抜ける。キャラクターボイスを導入することでストーリーの表現方法を大きく拡大した『FFX』と、フィールド画面と戦闘がシームレスに移行することで疑似MMORPG体験を成し遂げた『FFXII』、グラフィック技術の向上によりさらなる世界表現で驚かせてくれた『FFXIII』があるとして、その良いところをギュッと凝縮して生まれたのがこの『ゼノブレイド』、という印象だ。他社タイトルばかり例に挙げるのも失礼な物言いだが、やはりこのJRPGの進化の延長線上に生まれた作品なのだと感じてしまう。

 太古の昔、「巨神」と「機神」、二つの神の戦があった。天に轟く巨大な神の闘いは何日にも渡り続き、やがて相打ち、二神は骸となった。
 それから長い月日が流れ、神々の骸の上に生命が誕生した。そこで芽吹いた命は文明を起こし、街を造り、生活を営んでいた。

 『ゼノブレイド』にてプレイヤーが冒険する世界は、巨大な神の骸の上に編み出された世界だ。人々が集う街から広大な平原、湿原や雪原に機械仕掛けの要塞、はたまた巨神の胎内を走り回ることもある。今作はオープンフィールド"風"のゲームデザインを採用しており、同じマップ内であればロードを挟まずにファストトラベルしたり、シームレスに戦闘へと移行することができる。本作はなんといっても、冒険を進める上での「心地よさ」に配慮が行き届いており、それゆえに多くのプレイヤーが止め時を見失い、熱中してしまうのだろうと推測する。

 まず序盤、主人公シュルクを操る過程でプレイヤーは故郷の町「コロニー9」を探索することになる。そこでは人々が商売を行ったり、軍の訓練場がある、のどかで活気のある町だ。そしてその門を一歩でも出ると、モンスターが闊歩する自然の風景に足を踏み入れることになる。RPG用語でいうところの「町」と「ダンジョン」が地続きに一つのマップとして存在しており、プレイヤーは気軽に冒険と休息(といってもステータスは自動回復で、町は人々との交流や買い物、サブクエスト受注をする場所だ)をスイッチすることができる。今となっては当たり前になりつつある仕様だが、本作は10年前にそれを成し遂げている。ロードを挟まないことで冒険を億劫に感じさせないゲームデザインが、開拓へのモチベーションを支えているのは間違いない。

 次にプレイヤーは、マップの広大さに驚かされることになる。はじまりの町「コロニー9」のマップを埋めようとすると、わりと1時間近くかかってしまうほどに作りこまれているのだが、もう少しストーリーを進めて訪れる「ガウル平原」はその2~3倍はあるんじゃないかと思うほどのスケールが待ち受けている。晴天爽やかな大地を踏みしめて歩くと、未知のモンスターや謎の洞窟が目に入り、ストーリー進行そっちのけで探索を始めてしまう。ストーリーを一直線に進めても、脇道にそれてマップ開拓やアイテム収集、サブクエスト埋めに尽力してもよい。『ゼノブレイド』の自由度の高さを身をもって学ぶことになる、この序盤のワクワクは実際に遊んでこそ体感できる冒険の喜びだ。

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 とはいえこの「探索」がしっかり攻略に結びついているところが、『ゼノブレイド』の秀逸さであろう。マップにはそれぞれ細かく「ロケーション」「ランドマーク」が設定されており、初めてそこを通過した際は経験値やスキル習得に必要なAPを入手することができる。また、ランドマークはファストトラベルのワープポイントとなるため、ランドマークを見つけてしまえば次回の探索を短縮できたり、欲しい素材や倒したいモンスターの近くへ瞬時に移動することができ、サブクエスト回収にも大いに役立つ。

 また、マップに点在するNPCからはサブクエストを受注でき、指定された素材の回収やモンスター討伐を依頼されるのだが、その成功報酬は通貨と経験値とアイテムだ。つまり、サブクエストをクリアすればするほどキャラクターが成長し強力な装備が手に入り懐が潤う。「キズナグラム」という好感度を示すパラメーターも上がるため良いことづくめなのだが、やはりこれもマップ探索と上手くリンクしている。特定の場所にて拾えるアイテム、あるいは生息しているモンスターの住処に行くようサブクエストで指示され、目的地までのナビに沿って歩くと、まだ見ぬロケーションをいくつも発見することになる。あるいは、サブクエストに沿って探索していたら「秘境」と呼ばれる普通なら見つけにくいランドマークまで誘導されていた、ということもあり、サブクエストを埋めれば自然と探索も進行していくのだ。

サブクエストを受ける

目的地まで移動する

ロケーションやランドマークを見つけて経験値を手に入れる

サブクエストを達成して成功報酬で経験値や装備を手に入れる

 このルーティーンが自然と構築されることで、いつしかプレイヤーキャラたちは進行中のストーリーでの適正~少し上くらいのレベルまで、いつの間にか成長していることになる。特段レベル上げの作業を意識させることなく、冒険すればするほどご褒美が貰える=成功体験が積み重なっていく。これがとにかく心地よく、プレイヤーは広大な世界をどんどん開拓する快感にのめりこんでしまう。実際『ゼノブレイド』を遊んでいて印象に残るのは、訪れたばかりの新天地をあてもなく走り回ってマップを埋めたり、思いがけぬ隠し通路を見つけた時の快感、そういったものの集積であった。世界を冒険するのがひたすらに楽しいRPG、そう思わせただけでこのタイトルは"勝ち"である。

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 プレイヤーが旅をすることになるロケーションも、今の言葉なら「SNS映え」する風景ばかりだ。上掲した写真はその一部だが、これらの風景も昼夜でまったく違う趣を見せたり、天候によって様変わりするなど、とにかくプレイヤーを長時間のプレイでも飽きさせない工夫がこれでもかと仕込まれている。しかもこれらのマップは全て「朽ち果てた巨大な神の骸の上に成り立っている」というとんでもない設定である。ストーリー前半で冒険することになる巨神界を経て機神界に乗り込んだ時、一度立ち止まって振り返ってみてほしい。ただそこにそびえ立つ巨神の身体に、これまで冒険したマップの意匠が少しずつ隠れている。こんな場所を走り回っていたのか…!!といい意味で震撼させられるだろう。

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 次に、戦闘について。本作の戦闘システムはいわゆるMMORPG(多人数プレイのオンラインRPG)のシステムをお一人様用に当てはめたもので、プレイヤー操作の一名とNPC操作の二名による合計三名がバトルに参加する。初めての戦闘で驚かされたのが、従来のRPGで言う所の通常攻撃はなんと「オートアタック」の名の通り全自動となっており、何も操作せずともキャラクターは敵が攻撃範囲にいれば自動で攻撃してくれる、という点。

 プレイヤーが操作で介入するのは、キャラクターの位置取りと、「アーツ」の使用についてだ。アーツとはいわゆるコマンド技で、キャラクターが成長するにつれ複数習得するアーツを事前にセッティングし、実際の戦闘で有意義に運用するのがプレイヤーのお仕事である。アーツは攻撃や回復、防御といった様々なものが用意されており、とくに攻撃アーツは「敵の側面や背面から攻撃するとダメージが増える」特性のものがあり、戦闘中キャラクターを自由に動かせるのはこれに由来している。敵との距離を測り、アーツが最も効果的に作用する位置取りを狙って動き回る。思いのほかアクティブな働きを要求されるのだが、セッティングしたアーツの目論見通りに戦闘が進行していく様は、やはりたまらないものがある。

 アーツと同様に意識すべきは、MMORPGでは重要な「ヘイト」のパラメーター。ヘイトとは「敵に狙われやすい数値」と言い換えられようか、強力なアーツを使用するとヘイトのパラメーターが上昇し、敵はヘイトが最も多く蓄積されたメンバーを狙ってくる。このヘイト管理も重要で、考えなしにアーツを連発すると敵の集中攻撃に合い、あっという間に戦闘不能に陥ってしまう。そのため、RPG用語でいうところの「タンク」役を用意する必要が出てくる。ヘイトを高めて敵の攻撃目標を自身に集中させ、自身は防御を固め攻撃に耐える壁役=タンク。本作ではヘイトを高める/下げるアーツや装備品が数多く用意され、それを駆使することで敵の攻撃目標を誘導することが可能になる。そうすると、

防御に特化させたキャラクターに敵の攻撃を引き付ける

敵が一人のキャラクターに集中している隙に、敵の側面や背面に回り込み強力なアーツを叩きこむ

 といった戦略が可能になる。MMORPGでは常識のロールプレイだが、それを一人で構築することができる戦闘シークエンスは、かなり考えて作りこまれているのではないだろうか。NPC操作の二名は状況に即して回復アーツを使用したり、攻撃アーツが有効な位置取りを自分で行ったりするため、NPCのお守をさせられてストレスに、ということは一切無かった。疑似的にとはいえ「一緒に戦っている」感じを味わわせてくれる本作のバトルは、キャラクターが増える=得意とする役割が増えるごとに加速度的に楽しくなっていく。

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 本作ならではの要素として、未来視(ビジョン)というシステムが存在する。主人公シュルクは自身の武器・モナドの能力によって未来に起こることを予知することができるのだが、それを戦闘にも活かしたシステムだ。

 例えば、敵が強力な攻撃を仕掛けてきてパーティの誰か、あるいは全員が壊滅状態に陥るようなピンチが訪れると、プレイヤーはシュルクの能力を通じてその光景を先回りして視ることができる。要は、「あと〇秒でこの攻撃を防がないとヤバい!」というアラートだ。

 これを受けてプレイヤーは、様々な選択肢を頭の中で巡らせることになる。例えば、ヘイトを操って攻撃の標的をHPに余裕のあるキャラクターに変えさせる、敵を状態異常にして行動不能にさせ攻撃そのものを食い止める、防御アーツを発動させてその攻撃を耐え忍ぶ…などなど、戦闘に緊張感を与え、それを上手く回避した時はこちらが優位になる(テンションのパラメーターが上がりクリティカル率や回避率が上がる)など、プレイヤーが能動的に戦闘状況をコントロールさせるよう導く、秀逸なシステムだ。

 また、ここでは深くは触れないが、『ゼノブレイド』のストーリーのメインテーマであるところの「定められた運命を塗り替える」と本システムはリンクしており、その点でも「上手い!」と唸ること間違いなしな点も付け加えておきたい。

 ストーリークリアまで70時間ほど、取り逃したサブクエストやキズナトーク、ユニークモンスターを回収して回るとすれば余裕で100時間は超えるだろう。ゲームシステムやマップデザイン、BGMなどなど、どれをとっても完成度が高く、隙が無い。ただ目的地もなく世界を走り回っても何かしら新しい発見があって、それが巨大な神の上に成り立っている、というスケールは何度思い返しても圧倒され、数々のやり込み要素をこなす度に世界観やキャラクターへの愛着が育っていく。今となっては『ゼノブレイド』から離れがたい一心になってしまったが、HDリマスター版での追加ストーリーと『2』がまだまだ待っている。どうやら、楽しい旅はまだ終わらないらしい。


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