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【G.R.A.D.】あなたの価値は、1円なんかじゃない。【桑山千雪】

 桑山千雪ラジオリスナーの皆さん、コンチニワ。ドーモ、おむすび恐竜こと伝書鳩Pです。最近はたくさんお便りが読まれて、これはもう千雪に認知されてるといっても過言ではないのでは??いやはや、いつもありがとうございます。皆さんのお便りも、楽しく聴かせてもらってますよ~^^

 諸事情あってシャニマスはおろかPCさえ起動できない日々が数週間続いていたが、当のシャニマスは3つ目のプロデュースシナリオ「G.R.A.D.」が実装されていた。なんでも、アイドル一人一人に個別のシナリオが追加されるという大盤振る舞いで、三年目のシャニマスを彩る大きな新要素としてP界隈では育成の研究が盛んに行われている。

 が、今回着目すべきはゲームシステムよりも、シナリオそのものだ。シャニマス運営はおれたちプロデューサーに対する「このアイドルのことをきちんと理解しているだろう」という信頼が物凄く高く、それゆえにW.I.N.G.~ファン感謝祭、諸々のプロデュースシナリオやイベントシナリオに至るまで、過去の様々な物語の集大成としてこの「G.R.A.D.」をお出ししている気がしてならない。

 例えば今回実装された桑山千雪のシナリオなんかは、W.I.N.G.と先日配信されたイベントシナリオ『薄桃色にこんがらがって』を読んでいることがほぼ前提と化している節さえある。なんということだ。よりによって薄桃色の次がコレかと、「G.R.A.D.」を読みながらおれは何度も呻き声を上げ、絶句し、部屋を涙の洪水でいっぱいにしてしまった。もう気軽に読める情緒ではないのだ。いい加減にしてくれ。今回はこの伝書鳩Pがプロデューサーという立場を捨て、桑山千雪という一人の女の子のことを応援するための、本人に届くはずもないラブレターだ。あなたが自分を誇れるようになるまで、伝わらないとわかっていてもこの文章を書いていく。もちろん、ネタバレを含むためコミュ未読者の閲覧は推奨しない

 物語は、千雪とプロデューサーがネットオークションの画面を見る場面から始まる。ラジオのふとした発言をきっかけに、千雪は手作りの手芸品をネットオークションに出品することに。ところがその手芸品は思わぬ反響を呼び、具体的な価格は明かされないが「0の数が……な」とPが困惑するくらいの高価格で落札が争われている。当の千雪は、高騰し続ける競売価格に戸惑ってしまう。手作り雑貨の価値が自分の予想を超えていくことの驚きや、ファンに高い金額を払わせてしまうことへの気遣い。

 そんな千雪に対しプロデューサーは、「千雪が手作りしたもの」にファンが価値を認め、製作者にお金という形で伝えたい想いがあるんじゃないか、と説く。

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 だが、その困惑にはもう一つ隠された気持ちがあった。それは、「アイドルでない自分に価値はあるのか」というもの。

 プロフィールの趣味欄には「雑貨作り」、特技にも「裁縫」と書かれるくらいに、千雪と手芸・雑貨は切って離せない。元々雑貨屋に働いていたところをスカウトして、最終的にアイドルに専念するためにお店を辞めたであろう千雪。当然、出品した巾着などの手芸品もファンを想って一生懸命取り組み、そこに自分のプライドや誇りのような、アイデンティティに関わる大事な気持ちが込められていたはずだ。でも、物の価値が「桑山千雪の手作り」にしか認められていないのだとしたらー?

 そんな考えに囚われた千雪はなんと、桑山千雪であることを伏せ一般人としてオークションに出したものの色違いの手芸を出品する。そこにはきっと、自分の製作物が認められて欲しい、アイドル・桑山千雪ではない、一人の女の子が一生懸命作ったものが誰かの目に止まってほしいという、細やかで切ない願いがあったはずだ。書いていて胸が苦しい。

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 一人の女の子・桑山千雪とアイドル・桑山千雪は、本来は同一人物のはずで、どちらが欠けてもそれは桑山千雪では無くなってしまうはずだ。だが、ファンが知るのはアイドルとしての桑山千雪だけで、アイドルになる前は雑貨屋に働いていたこと、好きなものを曲げられなくて闘った「薄桃色」の出来事を知っているのはプロデューサーや周囲の人物だけに限られる。それは仕方がないことなのだが、千雪にとってはそれは自分を揺るがす大きな疑問へと発展してしまう。

 アイドルであるか否かは、創作物の質そのものには影響しない。桑山千雪という一人の女の子が、裁縫や布の選び方を学び、習得してきた彼女のこれまでの人生の集積あってこそのもの。だが、ファンが求めるのは物の出来栄えではなく、「アイドル・桑山千雪が作った」ものという本来外枠にあるはずの価値そのもの。じゃあ、アイドルではない私に価値なんてあるのだろうか。

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 桑山千雪は桑山千雪に負けられない。重たい言葉だ。アイドルである、という価値しか認められない自分では、千雪は満足できない。自分を証明できない。雑貨作りもアイドルも、どちらも諦めない道を選んだ千雪は、その二つの生き方に優劣が付けられることを自分で許せないのだ。だからこそ、オークションは自分の人生の価値を計るための、重要な指針になるはずだった。

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 しかし、現実は残酷だ。アイドルという枠を外して勝負した時、自分は見向きもされず、価値も付けられない。「薄桃色」が真正面から挑んだ上での敗北なら、今回は同じ土俵に立つことすら許されないという非情な大敗を喫することになる。シャニマスくんは人殺しか???????

 繰り返すが、シャニマスの世界におけるファンが見て、応援するのはあくまでも「アイドル・桑山千雪」であり、それは当然のことで、誰も責められない。アイドルというのはそういうものだ。偶像だから。でも、「一人の人間としての桑山千雪を見てもらえない」ことを、よりによって桑山千雪が何よりも大切にしてきた「雑貨作り」という場でメチャクチャ残酷に突き付けてくる。いやいやいやいや。これヘタしたら死ぬでしょ。

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 当然、千雪は苦悩する。結果、千雪は「アイドルとしての桑山千雪」と「ただの桑山千雪」を分けてしまい、後者に価値がないことを思い悩むようになる。あのトラウマ製造コミュこと【NOT≠EQUAL】をまた違った形でリフレインするシャニマス運営、人の心がなさすぎる。

「でも……素材もデザインも同じだから
2つの巾着の価値を分けてるのは、その奥のー私です
だから…『ただの千雪』が…………
アイドルの千雪に負けたみたいな気がして」

 残酷なまでのアイデンティティの敗北。だが、「ただの千雪」に惹かれてアイドルにスカウトした人物こそが、我らが283プロのプロデューサーその人。そして付け加えるのなら、「ただの千雪」に魅入られて担当を決意したプレイヤー、そう、今この文章を読んでいる画面の前のあなた!!そしておれ!!!こそが、分かたれた桑山千雪を救うことの出来る唯一の存在たりうるわけです。「アイドルではない桑山千雪」を知っているからこそ、そのどちらも大切にすることの出来る、絶対的な存在。

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 このG.R.A.D.編千雪コミュにおいて、過去のシナリオをも超える頼もしさを見せるプロデューサーに、ときめかない人がいるでしょうか。「手芸を教えてくれないか」と千雪に頼むプロデューサー。プロデューサーは千雪と手芸づくりの時間を共有することで、彼女の尊厳を取り戻そうとする。

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 アイドル・桑山千雪がたくさんのファンを笑顔にするように、「ただの桑山千雪」だって目の前のおれを笑顔にしてくれたじゃないかと、そう言って彼女の価値を認めてあげる。そのことを千雪自身が誇れるように、導いてあげる。アイドルとしてだけでなく、一人の人間として桑山千雪と向き合うプロデューサーの姿が、そこにはあった。

 今回、シャニPの言動に救われたのは千雪本人だけでなく、この伝書鳩P含め、多くのプレイヤーだったのかもしれない。桑山千雪は、強い女だ。「私は、私の道をいくだけ」とW.I.N.G.準決勝勝利コミュで語るように、自分の道を曲げない芯の強さを持っている。それでも、一人の人間が挫折して、傷つかないわけがないのだ。「アプリコット」を諦めなければならなかった千雪が、最後に残った「雑貨作り」という自分らしさでさえ損なわれたら、桑山千雪が崩壊してしまう。その瀬戸際で、プロデューサーはファンがアイドルとしての千雪を、自分が人間・桑山千雪を見守り、支えていることを改めて提示してくれた。なんて優しく、なんと心強いのだろう。こんな人がそばにいてくれたら、どこまでも羽ばたいていける自信が湧いて出るに違いない。

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 自己喪失の危機を乗り越えた千雪は、アイドルの自分も、そうじゃない自分も受け入れて、また少し成長した姿を見せてくれた。G.R.A.D.に優勝できて、アイドルとして輝けることを素直に喜べる彼女の、なんと愛らしいことよ。自分で自分を好きであり続けること。それもまた、幸福論の条件だ。

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 後日。雑貨作りを通した二人の時間の共有で、プロデューサーは千雪が名前を伏せて出品した手芸品を突き止める。もうそれにはお金という形で価値を付けてあげられないけれど、二人の道を照らしてくれる道しるべとして、思い出したいと。それはもう、お金なんかじゃ表せない、唯一無二の価値だ。

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 C.K. アイドルも好きなことも諦めなかった、本当に強くて優しくて、か弱い女の子の名前。自分の創作物にその名前を刻むとき、それは「桑山千雪」という一人の人間が確かにそこにいたことを表す、存在証明だ。アイドルであるか否かなんて関係ない、一人の雑貨作りが大好きな女の子の、「This is Me」だ。

I am brave, I am bruised
私は勇敢よ、私は傷つけられた者
I am who I'm meant to be, this is me
これが私のあるべき姿なの、これが私よ
甘奈編もまた『薄桃色』の続編として秀逸な、アイドル・大崎甘奈の再誕生を祝う傑作でした。ご一緒にぜひ。

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