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おまえのような気象学者がいるか!!『ジオストーム』

 地球を襲う異常気象!招集されたはぐれ者のスペシャリスト!政府関係者の陰謀!兄弟愛!家族の愛!自己犠牲!ノリのいいタイアップ曲!
 定期的に製作されては好事家たちを喜ばせる、大味B級ビッグバジェット・ディザスタームービー最新作がやってきた。しかも、大災害の満漢全席と、筋肉のフルコース付きで。

2019年、度重なる異常気象に対抗するため、人類は気象コントロール衛星システム「ダッチボーイ」を開発した。国際宇宙ステーションISS上に構築されたダッチボーイは地球の気象を安定させ、世界は平和を取り戻した。
しかし、ダッチボーイの運用責任者であるジェイク・ローソンはアメリカ連邦政府との対立を理由に更迭され、後任を担うのは弟のマックス・ローソンだった。地球を救った英雄は、職と兄弟の絆を失ってしまう。
それから3年後。アフガニスタンの砂漠地区が突如寒波に襲われ、村人が凍りついてしまう異常事態が発生。ダッチボーイの異常を察知した政府は選挙を目前に控えたタイミングでの不祥事発覚を恐れ、秘密裏の事態解決を図るため、ジェイクを招集する。
インド、香港、リオデジャネイロ、東京…。全世界各地で様々な自然災害が発生し、被害はさらに拡大していく。果たしてジェイクは、人類文明を救うことができるのか!?

 平成30年にもなるというのに(本国では2017年公開)、あらすじから匂い立つ90年代のかほり…。ジャンルのお約束を裏切らない、あるいは新鮮味のない、王道を往くディザスター映画、それが『ジオストーム』だ。

 それもそのはず、本作の監督・脚本を務めたディーン・デヴリンは『ユニバーサル・ソルジャー』『インデペンデンス・デイ』『GODZILLA('98)』の脚本を手掛けてきた、破壊王エメリッヒの右腕的存在。“あの時代”を生きた映画人ならではの感性が存分に詰まった本作を懐かしく思うのは、地上波放送の吹替え洋画を嗜んできた方なら至極当然。鑑賞中何度も抱く既視感は、過去たくさん映画を観てきた証拠とも言えるだろう。

 どこかで観たような映像と、後の展開が容易に読めるストーリー。それでもなお映画ファンが本作を素通りできないの理由とは、主演:ジェラルド・バトラーだということ。ある時はスパルダ軍を率いる英雄レオニダスとして、そしてある時は”強すぎるSP”ことマイク・バニングとして、いっぱい人が死ぬ映画に出てくる俳優の代名詞的存在に登りつめたGB。

 そんな彼が本作で挑むのは、気性コントロール衛星のシステム責任者にして気象学者ジェイク。この手の主人公にありがちな「元特殊部隊の○○」と思いきや作中一切言及されないため、どうやら気象学とエンジニアだけで生計を立ててきた人物らしい。マジで!?おまえのようなババァがいるか!!のケンシロウのような顔をしてしまう設定だ。

 明らかにデスクワーカーではない筋肉の持ち主ジェイクだが、宇宙ステーションに着いてからわずか5秒でロケットの乗るくらい話の早いマッチョで、決して仲間を見捨てないイイやつ。『ゼロ・グラビティ』じみた宇宙遊泳もしっかりこなし、ちゃんと人を殴るシーンもあるので、ファンは安心していい。唯一の欠点は、吹替えを担当した上川隆也氏の演技が上品すぎることだ。スーツをビシッと着こなした上川氏の御姿がチラついてしまうので、作品そのものとは別の面白さが生じており、色んな意味でオススメしたい。

 肝心のディザスター描写だが、「思いついたやつ全部入れました!!」みたいな潔い態度が微笑ましい。インドには台風、アフガニスタンには大寒波、香港は火山噴火、東京には特大サイズの雹、アメリカには雷。ありとあらゆる自然災害が各地で巻き起こる、あの『2012』を彷彿とさせるフルコースを楽しめるのが『ジオストーム』だ。

 そもそも災害映画とは、CGの発達と共に多くの作品が作られ、本作に90年代のテイストを感じてしまうのも『ディープ・インパクト』『アルマゲドン』が同時期に公開され、ブームを巻き起こしたのが根底にある。それから映像技術も進歩し、アップデートされた災害描写が目を惹く作品が登場する。しかし、CGに目新しさを感じない目の肥えた現代の我々にとって、本作の映像に驚かされることはあまりないだろう。『デイ・アフター・トゥモロー』『ボルケーノ』『ツイスター』などなど、まるで過去の先輩方をなぞるような本作のカタストロフは、どこか淡々と感じられる。

 その中で唯一、本作が打ち出した新たな災害。過去作の誰もが成し得なかった、全く新しい恐怖。そう、特大レーザービームだ。

 こんなモンを搭載したヤツは間違いなくイカれてる。これでは気象コントロール衛星ではなく大量殺戮兵器である。なぜこんな機能が搭載されたのか作中説明があるのだが、これって妥当なんですか!?専門家の方!?と問いただしたくなること必至の、爆笑シーンが待っている。終わりよければ全て良し、予定調和すぎて眠くなるところを強引に引っ叩いてくる、とてつもないインパクト。こういう見せ場一本で、映画の印象って変わるんですねぇ。

 そんなわけで、観たいものをそのままに、内に秘めた破壊願望を程よく満たしてくれるので、みんな観たほうがいいんじゃない…?暇なら…っていうテンションの作品だ。ちなみに、もう次のブツが年明け早々に公開されるので、今の内に観ておかないと確実に忘れる。

 ちなみに、一番大好きな災害映画は『超強台風』です。全人類観て。


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