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新章ではなく完結作かもしれない『ターミネーター:ニュー・フェイト』

 「新たな三部作の第1章」が複数存在したり、製作会社が破産したりと、長きに渡り愛されながらも呪われたシリーズという印象の強い『ターミネーター』サーガ。実質的なリブートの試みがなされた『新起動/ジェニシス』以降の計画も頓挫し、またしても仕切り直しとあればファンもうんざりする頃合いだが、「ジェームズ・キャメロンが製作に復帰」「リンダ・ハミルトンがカムバック」という強力な切り札を引っ提げた新作がやってきた。

スカイネットの台頭から始まる人類滅亡は回避されたが、さらなる危機が迫っていた。2020年の メキシコに住む女性ダニーの元に、未来から送られた2体の戦士が現れる。ダニーの抹殺を目論む新型ターミネーター 「REV-9」と、彼女を守るべく己の身体を強化した戦士グレースである。一時はREV-9を退けたダニーとグレースだが、REV-9は何度も甦り二人を追い詰める。そんな絶体絶命の最中二人を救ったのは、あのサラ・コナーであった。

女性たちの『ターミネーター』

 今作は『Dark Fate』の原題が『ニュー・フェイト』に改められているのだが、ニュー/新たなという言葉が相応しい一作に仕上がっていたため、非常に適した邦題が付けられていたことになる。

 『T2』以降の作品、とくに『T3』『T4』は成長したジョン・コナーの物語であり、機械と人類の戦争は避けられないという前提の元、人類解放軍のリーダーに就く運命に収束していく男の物語であった。そこから時代を経た本作では、レジェンドのリンダ・ハミルトンを筆頭にメインキャラクターは全員女性であり、偉大なる一作目同様にサラ・コナーの物語でありながら『T2』以降が描かれると言う意味で、これまでにないアプローチの一作であることが窺える。

 「審判の日」を防いだことで人類を滅亡の危機から救うも、客観的にみればサイバーダイン社を爆破したテロリスト。一作目時点ではどこにでもいるような女性だったのに、いつしか屈強な女戦士になっていった、いや、そうなるしかなかった女サラ・コナー。彼女は今も複数の州で指名手配を受け、未来から送られるターミネーターを狩る人生を送っている。しかも、冒頭で明かされるある衝撃的な事件のトラウマを抱えながら…。人知れず人類を救った人物の、ターミネーターによって人生を決定的に狂わされてしまった悲哀という側面を浮き彫りにするために、どうしてもリンダ・ハミルトン本人の出演が必要だったのだろう。撮影時は御年62歳、加齢による貫録と年齢に不釣り合いなほど引き締まった身体が体現する老戦士としての説得力が、サラの歩んできた壮絶な人生を物語っている。

 一方で、ニューキャストも眩しい輝きを放っていた。強化人間グレースを演じたマッケンジー・デイヴィスは、その男前な顔立ちとしなやかな長い手足を用いたアクションがパワフルで、ショットガンを扱う手さばきは若きサラに重なる。守られる立場にいたダニーも戦士としての覚醒が描かれ、ナタリア・レイエスがハキハキとした力強い演技でその目覚めを見せつける。この三人が魅力的で感情移入を誘う名演を披露するからこそ、本作はこれまでの続編企画とは一線を画しているに違いない。

 すでに戦士であるサラとグレース、そして戦士として目覚めるダニー。スカイネットが誕生しない新たな世界線が切り開かれた今、人類の救世主は“女性”へと変化している。大柄な男性の身体で迫りくるターミネーターの力に抗い続けたサラとグレース、その姿を見て覚醒するダニーという構図は、なんとも示唆的に思える。『マッドマックス 怒りのデスロード』では「子産み女」という強制された役割からの脱却が描かれたように、女性に向けられた旧態依然とした視線からの解放や自由への闘いは、現代社会の気流に適応していこうとする映画業界の反応の表れとすれば、本作もまた誰かに勇気を与える一作になるだろう。その象徴の一人があのリンダ・ハミルトンなのだから、なんとも心強いではないか。

(以下、ネタバレを含む)
“ヒト化”していくターミネーター

 女性たちが紡いでいく新たな『ターミネーター』において、我らがシュワルツェネッガーはやや影が薄い。というより、本作のT-800は我々を震え上がらせた無敵の追跡者ではなく、良き父になっていたのである!!

 ここが本作の評価を分ける分水嶺になっているはずだ。『T2』で溶鉱炉に沈んだ個体とは別のT-800が事前に送り込まれていた―というよくよく考えたら『T2』ラスト全否定の後付け設定が加えられているだけでなく、ジョンの抹殺という使命を完遂し目的を失ったT-800は、その後虐げられていた母子の父親代わりとなり以来20年近く「家族」を経験することで「良心」を獲得したという。ジョンとの触れ合いで「なぜ人が涙を流すのかわかった」アイツを数段飛び越して感情を獲得し、もはや“人間味溢れる”という言葉では足らないくらいに人間らしくなったT-800さん。この牙の抜かれっぷりこそが衝撃的であり、早々に受け入れられるものではない。

 本作のT-800の動機は全てが「贖罪」であり、愛する我が子を失ったサラに向ける視線や言動の豊かさたるや、シュワルツェネッガー自身の人生の積み重ねが成し得た演技そのものであり、一方で機械特有の無骨さを感じさせない、そのくせターミネーターらしい“マシンギャグ”は健在というキャラ付けのチグハグさは、なんとも言えない居心地の悪さを感じさせる。

 女性たちが活躍するターミネーターならば、シュワちゃんはお役御免なのだろうか。ご本人もその雰囲気を悟っているあたり、わたしたちが怖れ、憧れた一作目や二作目のT-800にはもう会えないらしい。寂しくなるが、我々観客も価値観をアップデートしていかなければならない。過去作の掘り起しで失敗するのは、『新起動/ジェニシス』が証明してくれているのだから。

これからどうなる!?ターミネーター

 果たして、本作に続く続編、ターミネーター初の「新三部作の第2章が製作される」快挙は達成されるのか!?その答えは残念ながら「NO」であろう。本作ラストで生き延びたのはサラとダニーだけであり、あれだけファンの心を射抜いたマッケンジー・デイヴィスが再登場せず(グレースはあくまで人間なので復元できない)、年齢的に続投の難しいリンダとシュワ不在で、その上オチが見えている(結局人類と機械の戦争に突入する)作品の続編が観たいか?売れるか??というわけだ。

 現代社会の価値観に呼応した『ニュー・フェイト』は、今一度サラ・コナーの視点に立ち返りつつ闘う女戦士の物語へと再起動したことで、新たな魅力を獲得した一作である。同時に、『T2』の正統続編を御本家が謳い文句にしつつ、過去作を否定したり“らしさ”が失われた作品を送り出すのは、なんとも物悲しい。やはり『ターミネーター』は、もう寝かせておくべきタイトルなのかもしれない。「ジェームズ・キャメロンが監督&脚本にカムバック」とかされたら凝りもせず観に行くけれど。

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