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その気になれば冬月先生ともキスできちゃう『エヴァンゲリオン2』のヤバみを語る

 『新世紀エヴァンゲリオン』といえば日本を代表する大ヒットアニメの一つで、そして2007年から『新劇場版』と称して終わる終わる詐欺を続けている、なんとも悩ましいシリーズだ。いったいどんな結末を迎えるのか誰も予想できず、そもそも本当に2020年に完結編が公開されるのか、未だ不安を隠せないのが正直なところだ。

 そんなヒットタイトルなので、ゲーム化の機会は多々あった…が、処理落ちが酷すぎる劣化版スマブラだの、名探偵だの、映像のエフェクトでノーツが見えにくい音ゲーだの、捻りすぎてもはやエヴァでなくともよかろうと言いたくなるタイトルが多い。原作再現と言う意味では、パチンコの移植版の方が目くじら立てずに済むだろう。

 そんな中、未だに最高峰と信じて疑わないタイトルが、『新世紀エヴァンゲリオン2 造られしセカイ -another cases-』である。これは、2003年にPS2専用ソフトとして発売された『新世紀エヴァンゲリオン2』の、増補移植版のようなもの。「2」と題されいるがこれはアニメの続編を指すのではなく、では何なのということで庵野創造神の言葉をそのまま引用。

ではなぜ“2”なのか? これについて、記者会見に出席した庵野氏は「僕はエヴァンゲリオンの“2”を作るつもりはない。このゲームの企画を初めて聞いたとき『エヴァンゲリオンの世界を作ることができるゲームです』と聞いた。エヴァンゲリオンはすでに僕の手を離れ、続編が作られない以上、ゲームを遊ぶ人の手によってそれぞれが“2”を作ればそれに越したことはないと思った」と語った。

バンダイ、PS2「新世紀エヴァンゲリオン2」完成記者会見開催
庵野秀明氏とアルファシステム芝村裕吏氏が登場

 本作は、「エヴァンゲリオン」の世界を生きるワールドシミュレーター。プレイヤーはエヴァのキャラクターを操作し、他者と触れ合い、食事をし、排泄し、使徒との戦闘を行う。ゲーム内世界は、庵野秀明の思考をモチーフにしたとされる庵野AI(直球すぎるネーミングが最高)によって管理され、登場する使徒やイベントがこのAIによって左右される。キャラクターにもそれぞれの行動原理が組み込まれ、さながら生きているように行動している。

 プレイヤーの分身となるキャラクターは、シンジやアスカらチルドレンはもちろん、ミサトやリツコといったアダルト組からオペレーター3人組、果てはペンペンまで操作できる。しかも本作では彼ら一人一人に個別のシナリオとエンディングが用意され、アニメでは明かされなかった知られざる姿を見ることができる。

 本作はとにかく自由だ。使徒との戦闘と睡眠以外に行動の制約はなく、原作を再現するロールプレイはもちろん、他キャラクターとの恋愛に走ったり、世界の真実を追い求めて暗殺者の奇襲に怯える夜を過ごしたっていい。エヴァの世界で自由に生きるとは、かくも魅力的だ。カヲルくんを生還させたり、アスカを廃人にさせないことだってできる。いろんなifを叶えることができる、エヴァ2ならね。

 本作のシステムを説明しよう。この世界を生きるキャラクターはそれぞれにパラメータ(空腹感、喉の渇き、清潔感、尿意、眠気)とAIによる行動原理、他者への好感度が設定されている。また、テンションにも相当する「A.T」と呼ばれるパロメーターがあり、数値が高いほど気分が高揚し、他者に好意的な反応をしたり普段出来ない行動を取ったりすることが出来る。A.Tはポジティブな行為をすれば上昇し、チルドレンにとってはエヴァの強さにも反映されるため、常に高水準をキープすることが望ましい。また、「インパルス」と呼ばれる値も存在し、こちらは「プレゼントを渡す」「手を握る」といった、日常会話を超えた特殊な行動を行う際に消費するポイントである。こちらは逆にネガティブな行為を行うことで上昇する一方、A.Tが高い程上がりにくくなる。A.Tを上げるためにはインパルスが必要だが、A.Tが高いとインパルスが回復できず、相手の好意に応えられない場合がある。このジレンマがエヴァっぽいのだ。

 使徒が襲来すると、強制的に戦闘ターンに移行する。チルドレンを操作している場合は、エヴァに搭乗し使徒との戦闘へ。ミサト操作時にはパイロットへの指示を出すタクティカルを、その他のキャラクター操作時はミサトによる戦闘結果の報告を受ける。ネルフに努めるキャラクターを操作する際は戦闘報告を聞くだけなのだが、平時の業務(兵器開発や事務仕事、オペレーター業務)をきちんとこなし、チルドレンのA.Iを高い状態に保つケアをすることで間接的に戦闘を勝利に導くことも重要。これぞ大人の仕事…!!

 ゲームは使徒との戦闘を繰り返すことで進行し、最後に立ちはだかる量産型を撃破するとエンディングとなる。たいていは人類補完計画が発動するオチなのだが、特定の条件を満たすことでキャクター個別のエンディングを迎えることができ、どれも衝撃的なオチを迎える。一例を取り出すと、全ての男ども(中学生含む)を手玉にとって女帝として君臨するリツコさんや、ミサトさんと爛れた関係にのめり込む日向くんを見ることだってできる。信じられないかもしれないが俺は嘘は言っていない

 さて本題。上述の通り、本作はキャラクターとの恋愛関係を楽しむことができる。プレイヤーキャラとその他のキャラには相互に好感度が存在し、その関係性は会話によって変化し、相手からどのように思われているかを確認することができる。プレゼントを渡したり、相手をほめたりすることで好感度を上げ、相手を「欲情」まで持ち込めばこっちのもの。職場で欲情するのもどうかと思うのだが、意中の相手をオとすには容赦はいらぬ。相手をホメて持ち上げて愛の言葉を囁くのだ。エヴァ2はギャルゲー

 お互いが恋愛状態になると、「手を握る」「抱きつく」「キスする」といったコマンドが選択可能となる。愛を確かめ合った後、顔を赤らめて言葉を放つキャラクターたちの姿は、実に新鮮だ。しかも相手からそうした行為を持ちかけられた時のリアクションは、「指をからめる」「耳元でささやく」「拒絶する」の三択だ。甘ったるすぎてこっちが照れる。

 しかし、こうしたコマンドには大量のインパルスが必要となり、多用はできない。相手に拒絶されないよう、タイミングを見計らったアプローチが重要なのだ…と思いきや、実はシナリオをクリアするごとにお助けアイテムがコンビニに入荷され、その中の一つに「くじけない心」というインパルス回復アイテム(使用回数制限ナシ)が存在する。つまり無限の行動力というゲームバランス崩壊公式チートアイテムを手に入れてしまえば、ハーレムを手にしたも同然。高インパルスを使用するコマンドを連発し好感度を上げ、場所も時間もかまわず接吻を繰り返し、相手のインパルスを枯渇させることで他の人物にはそっけない態度しかできないように仕向け相手の好意を独占することも可能。この手法で、レイからゲンドウを取り戻すヤンデレシンジくんプレイが可能となる。エヴァ2は昼ドラ。

 もっと付け加えるのなら、これらの恋愛コマンド、相手を問わないという点が凄い。加持さんに扮してヒカリ委員長とそういう関係になったり、カヲルくんになりきって全ての男とヴェーゼを交わしたりすることも、この世界では許されている。年齢や性別など、愛の前では関係ないことだ。相手を想うなら猪突猛進、コンビニで、ネルフ指令室で、学校の教室で、思う存分イチャイチャできる。マジで何なんだこのゲーム。

 そして今、このテキストのタイトルに立ち返ろう。「その気になれば冬月先生ともキスできちゃう『エヴァンゲリオン2』のヤバみを語る」である。御年60歳、プレイアブルキャラクター最年長の冬月先生とだって、そういう関係になれちゃうのだ。想像してみてほしい。いつ使徒が出現するともわからぬネルフ指令室で、険しい顔のゲンドウやこちらを見て見ぬフリするオペレーター三人集を横目に、丁寧にラッピングしたプレゼントを渡し、皺を重ねたその手を握り、熱い抱擁を交わし、キッス…。人生経験豊富なはずの冬月先生が乙女のように頬を赤らめ、初心な反応を返してくれる(CV:清川元夢)。全夢女子よ、これがエヴァ2だ。ここに式場を建てよう。

 さて、このエヴァ2が無限の可能性を秘めていることは、ここまで読んで下さった読者諸君に伝わったことだろう。最後に、本作でも最もぶっ飛んでいる冬月シナリオ「見果てぬ白昼夢」を紹介して、筆を置くことにしよう。

 ―1999年 京都

 大学講師として形而上生物学を教えていた冬月は、「精神と肉体の分離」について書かれた論文を読む。冬月はその着眼点に感心し、研究を進めるなら推薦状を書くとまで惚れ込んでしまう。その論文を書いた学生こそ、碇ユイだった。

 冬月は、後に自らと深く関わる男のことを思いだす。六分儀ゲンドウ。ユイの婿となったその男は、ユイの才能とそのバックボーンを目当てに近づいたと、仲間内で噂されていた。世界を動かす謎の組織ゼーレ。その有力者の一人の子女であるユイに、ゲンドウは取り入った。しかし、彼と共に歩むことを決めたのは、他の誰でもないユイ自身だった。

 到底届くことのない存在だったユイは、今や初号機の中に、魂として宿っている。あの論文の学説を、自ら立証したかの如く。

 冬月は、消えてしまったユイを追い求めるように、あの論文を読み返すのが習慣になっていた。そんなある日、京都の大学にユイの他の論文が残っている可能性に気づき、出張計画書をでっち上げ京都へ向かう。そこで見つけたのは、ユイが提唱した、自己の意識の拡大と他者への意識の干渉、精神汚染に関する提言。エヴァとのシンクロや、補完計画の基礎となる仮説を、ユイは早くから唱え続けていた。

 ユイとの再会に似た喜びを噛みしめながら、論文を読み進める冬月。その時、冬月は彼女の理論を実証するために、「精神と肉体の分離」を自らを実験台に試みることを思いつく。自我の崩壊を招く可能性さえある、危険な実験。それでも冬月は、実験を繰り返していく。身体の輪郭がぼやけ、自己が広がるような感覚。すると、突如意識が別の空間に放り込まれる錯覚に陥る。走馬灯のように、過去の記憶と対面する。そこにいたのは、あの時出会ったそのままの碇ユイ。しかし、どんなに手を伸ばしても、その記憶は遠ざかってしまう。

 さらに記憶を鮮明化するために、冬月は「匂い」に着目した。あの時ユイから漂った、ラベンダーの香り。それを再現するため、部屋をラベンダーのアロマオイルの香りで満たす。すると、よりはっきりとユイとの出会いを思い出すことができた。その時、自分自身に意識を向ける何者かの意識を感じ取った。その主とは、碇ユイ。

 冬月は実験の末、自身の精神世界にアクセスする術を身につけ、そこでユイとの再会・対話を果たす。人の数だけ現実がある。そう語ったユイの言に、ヒトが自らの力で神に等しいステージへと到達できる可能性を垣間見る。

 その後も実験を重ね、冬月はユイとの一時の逢瀬に耽溺する。その結果、現実世界との乖離が激しくなった冬月は、アロマの助けを借りずとも精神世界にアクセスすることが出来るようになってしまう。その様子を怪しむネルフ職員たち。冬月は共感覚を得て、他者の声が遠くから聞こえ、その心がわかるようになっていた。ヒトとヒトの意識が溶け合い、一つになる。ユイの理論の立証、人間が分かり合うという極地の一端を、すでに会得していた。

 度重なる精神世界への旅を続け、ついに肉体の維持に限界が来てしまう。それでも冬月は、「戻らない」と選択する。そして、人類の進化のその先を見に行こうと、ユイの手を、取った。

 初号機が格納されているケイジで、伊吹マヤは床に落ちていた冬月副指令の服を見つけた。その服はL.C.Lで濡れていて、その後彼の姿を見たものは、誰もいなかった―。

あとがき

 以上、意味が分かると怖い話でした。このように、エヴァ2は第三新東京市に生きるキャラクターになりきって、自分だけの人間関係を形成する醍醐味のシミュレーションゲームだ。遊び方は、プレイヤーの発想の数だけ、無限大と言ってもいい。あいにく、本作はダウンロード版の配信がなく、PSP本体がなければ遊べないのがネックだが、エヴァファンなら新たにゲーム機本体を揃えてでも、遊ぶ価値はある。ぜひともプレイして、キミだけの望むエンディングを目指して欲しい。

 ちなみに余談だが、タイトルのメイドさんは冬月先生の性欲の暴走によって女装させられたシンジくんである。先生、現実逃避もほどほどに。

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