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グレン・パウエルは今日も絶好調。『ツイスターズ』

 先日、わりと大きな地震があったことと、とあるイベントで3.11の揺れを再現した実験車に乗る機会があり、立っていられないほどの大地震をその身に経験したことで、再び防災意識を高めている。

 それはそれとして、映画館という空調の効いた安全な空間で、絶対被災したくないなぁという巨大災害を扱った映画を観に来ている。ディザスターはスクリーンの中に限る、ということだ。

 実際に公開されるまで実感の湧かなかったヤン・デ・ボン監督作『ツイスター』の続編ということだが、開始早々タイトルのフォントでニヤリとさせてくれる。今作の監督は『ミナリ』のリー・アイザック・チョンが努めているが、個人的に注目していたのは脚本が『オーヴァーロード』のマーク・L・スミスだということ。オーヴァーロード、好きなんですよね。兵士が肉片になっていく容赦なさとか、中盤から現れる怪物たちとか。

 気象学者を目指す若き女学生ケイト・カーターは、嵐を“手懐ける”研究のため仲間たちと共に嵐を追っていたが、想定よりも巨大な竜巻へと変化したことで数名の仲間たちを失ってしまう。5年後、彼女はかつての仲間のハビが進めている竜巻の3Dスキャンシステムのテストに参加するため、オクラホマの故郷に戻る。そこには、Youtubeとグッズの販売で生計を立てるストームチェイサー、タイラー・オーウェンズの一味がいた。

 主人公ケイトを演じるのは『ザリガニの鳴くところ』で頭角を現したデイジー・エドガー=ジョーンズで、その友人ハビには俺の大好きなアンソニー・ラモスが集う。それだけでもニコニコなのに、竜巻カウボーイことタイラー・オーウェンズには、今イケイケのあの男、グレン・パウエルである。初登場のニヤケ顔だけで、入場料金の元は取れると言ってもいい。

 以前から持論として「グレン・パウエル演じるキャラクターが序盤どれほど調子に乗っているかで作品の傑作度が決まる」と思っていたけれど、結果としてその暴論が本作のせいでより強固になってしまった。第一印象が軽薄でマッチョなタイラーのキャラクターは、まるで彼に宛書されたかのように馴染んでいる。ところが、「第一印象が最悪でも実はそれを覆すほどのイイ男だった」を演じさせたら右に出る者がいないことで有名な稀代の天才グレン・パウエルなので、好感度の折れ線グラフは右肩上がり天元突破である。あぁ、俺も吹き飛ばされそうになったら、そのたくましい腕に掴まってみたいものよ。

 このタイラーを筆頭に、『ツイスターズ』のキャラクターは皆、基本的に気持ちの良いヤツしかいない。ケイトは過去のトラウマを背負ってはいるがそれを克服しつつ誰の重荷にもならない自立した女性であり、ハビも仕事熱心ゆえに彼女と決裂することもあるが、災害から人々を守りたいという想いは共通だ。タイラーのチームに集う荒くれ者たちも基本は善良で、ケイトを女性だからと軽視せず、同じ竜巻に立ち向かう仲間として即座に受け入れてくれる暖かさがある。個人的には、記者のベンの心情の移り変わりが胸を熱くさせ、彼もまた巨大災害に挑むチームとして成長していく。

 登場人物たちにも好印象を抱かずにはいられないが、本作のディザスター描写は、とにかく景気が良い。鑑賞後に思い返せば「竜巻が起きていない時間の方が短いのでは!?」と思うほどに作中のオクラホマは竜巻大国で、日本における地震がかの国にとっては竜巻なのだな……いやそれにしても竜巻の頻度が多すぎるのだけれど、そのおかげで本編を観ながら退屈するシーンは1秒たりともなかった。

 竜巻も大小さまざまで、双子台風や『イントゥ・ザ・ストーム』でも印象的だった火柱竜巻ももちろん銀幕に吹き荒れる。そうした竜巻に対し「空気中の水分を吸収することで威力を弱める」というケイトの学説がどう作用するのかを見守ることになるのだが、竜巻の中心部から主人公たちが見上げる景色の「人間が自然を超越する」瞬間の美しさは、本作の白眉の一つだ。

 物語は当初、ケイト・ハビのチームと、タイラーのチームが競うようにして台風を追うところから始まる。出資を受けての最新設備と白く綺麗な車を有するハビらと、特殊な設備は持たず大型改造トラックと自身の経験を頼りに竜巻の中に入っていくタイラーたちはわかりやすく対照的に描かれているが、そこに優劣をつけなかった脚本も巧い。ハビたちが取得した3Dデータが無ければケイトの学説は完成しなかったし、巨大台風に挑むにはタイラーたちの無鉄砲さや車のデカさ無骨さはとても頼りになる。

 また、YouTuberに対する偏見の盲点を突くようにして、正義と悪が反転するような意識の変化を促しつつ、かといって資本家を断罪するといった押し付けもしない、物語上の小さなひねりツイストとして描かれる被災地支援のシーンや、タイラーとハビがケイトをトロフィーとして取り合うような展開がないのも現代的で見やすく、決めセリフの「感じたら追え」がオチとして小気味よくハマるのも気持ちがいい。乱暴そうな外見なのに、細部まで整っているのが『ツイスターズ』の良いところなのだ。

 ディザスターを観るなら映画館がマストなのは言うまでもないだろうが、それにしたって本作はデカい竜巻にデカい車にデカいグレン・パウエルがひっきりなしに映っているわけで、かのトム・クルーズも「大作映画。巨大竜巻。すばらしかった」と大喜びのはずだ。劇場でしか体感できないものを求めて、映画館に行く。その原初の感動を思い出させてくれる意味でも、この夏は『ツイスターズ』を勧めずにはいられないのだ。

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