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ジャングルでブレックファスト・クラブ『ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル』

 『ジュマンジ』といえばロビン・ウィリアムズの名前を覚えるきっかけとなった一作で、まだ地上波での吹替え洋画の放送が廃れる前に何度となく見返しては、少し怖くて、不思議で、面白い映画の代名詞として刻まれていた。

 そんな『ジュマンジ』の正統続編が、あのロック様主演で実現するとは、全く予想もつかなかった。そして実際に出来上がった作品を観て、これはまさしく「抱腹絶倒」の言葉が相応しいコメディセンスを含みつつ、どの年齢層にもお薦めできるアトラクション・ムービーとして甦ったことに、とてつもない喜びを感じている。本国では歴史的ヒットを飛ばしているためクラシック化は決定済みだが、日本でも繰り返しTV放送されるような、愛される作品になって欲しいと、そんなことを考えてしまった。

普段の素行から学校の地下室の掃除を命じられたスペンサー、ベサニー、アンソニー、マーサの4人の高校生は、掃除中に見つけたゲーム「ジュマンジ」を起動する。すると、4人はゲームの世界に吸い込まれ、自分が選んだアバターとなって呪われたジュマンジを救う任務を課せられてしまう。ライフは三つ。果たして、4人はゲームをクリアして元の世界に帰れるのか!?

 いきなり冒頭で「正統続編」と謳ってしまったが、本作を観てくれれば、そのことに異論はいないだろう。あのジュマンジが「海岸」で見つかり、夜にあの太鼓のリズムが鳴り響く…。原典へのリスペクトをきっちりと入れ込み、懐かしさと不穏さを想起させるあの音を劇場で聴いた瞬間に、思わずニヤリとさせられてしまう。そしてジュマンジは時代に合せてビデオゲームにアップデート(!?)され、一人の男の子を引きずり込む。このとあるキャラクターについても、演じるニック・ジョナス自身が「ロビン・ウィリアムズへのトリビュート」であることを語っており、『ジュマンジ』の魅力を読み解いた上で“お約束”を積みあげていくこの序盤の舞台設定は、とても秀逸であった。

 それから時代は移り変わり現代。主役格となる4人の高校生が短くも的確に描写されていく流れも良い。典型的なナード(オタク)、ジョックス気質、イケ女子(クイーンではない)、イケてない女子。スクールカーストの上位と下位に位置するそれぞれの個性が描かれ、後のジュマンジ世界で活かされる前フリがここでも周到に積みあがっていく。そして、そのジュマンジに誘われるきっかけとなったのが、土曜の居残り補修。これは言うまでもなくあの青春映画の名作『ブレックファスト・クラブ』の踏襲であり、子どもたちの冒険が大人たちの知られざる場所でひっそりと行われるワクワクと、彼らの友情が形成され、あるいは再確認されることへの布石となっている。何とも微笑ましい。

 そしてついにジュマンジ世界へ。ゲームの世界という設定を活かし、「アバター」「スキル」といった形で個性付けされたキャラクターは馴染みやすく、ここでもちゃんと笑いを拾っていく。誰もがあらすじを読んで鑑賞を決意したであろう「オタクのアバターがロック様」の魅力はすでに十二分に発揮され、全く攻略に関係ないであろうとあるスキルが、場内がどよめくほどの爆笑を掻っ攫っていく。

 加えて、本作のダークホースとして誰もが口を揃えるのが、オベロン教授のアバターを演じた名コメディアン、ジャック・ブラックの存在。地図を読み解くことが出来るこの重要アバター、中身はなんと今どき自撮り女子のベサニーなのである。アバターと中身のギャップが著しい本作において、なんと性別から異なる特殊なキャラクター。これに対し我らがJBは、しっかりと中身にJKが入ったデブオヤジを見事熱演。外見上面影は皆無なのに、細やかな所作や仕草が完全に女子のそれであり、困ったことにちゃんとカワイく見えてきてしまう。字幕の妙こそあれど、形式的なオカマ描写などではなく、ちゃんと女子であることに違和感を覚えさせない名演は、「オタクだけどロック様」に惹かれた身としては大きなサプライズであった。笑いも感動も、5割近くがこのJB由来だと言うのだから恐ろしい。

 そんな4人が織りなす冒険譚は、笑いとハラハラが交互に押し寄せてくる、ノンストップな仕上がり。元がゲームオタクであるスペンサーが即座にゲームのルールを習得し、各々のスキルを活かして難問を解き明かしていく様は爽快でストレスが無く、各アバターに設定された「弱点」が想わぬ打開策になったりと手抜きが無い。ガイド役を務めるNPCのナイジェルの口上や喋りが完全にディズニーランドのアトラクションの前説テンションなのだが、それも相まってか遊園地のような賑やかさから始まり、それが2時間ずっと続いていく。エンターテイメントとして緩急はあれど、飽きさせない、上質な作りが効いてくる。

 しかし、驚くことに本作がさらに奥深いことに、「ティーンの悩み」にまで言及していく辺りも抜かりがない。学校内の順位が一旦はリセットされたジュマンジ世界において、実際の自分とは異なる容姿や能力を獲得する。それは万能感を得られると共に、10代の彼らにとっては理想と現実のギャップを突き付ける仕掛けでもある。果たして、この姿のままでジュマンジを攻略することが、どんな意味を持つのか。若かりし頃誰もが抱く普遍的な悩みや揺らぎに対し、本作はとても前向きなメッセージを発している。

 そのカギとなるのが、またしてもJB演じるオベロン(ベサニー)である。容姿に自信のある自己愛強め女子のベサニーだが、全く異なる容姿のアバターを以てしてもそのプライドは崩れ去ることはなく、むしろその態度がある難題への解決のキーとなる。同時に、そのことがカーストの異なる女子同士の友情を育み、ジュマンジに囚われた男にとっての長きに渡る“停滞”への突破口であり、作品のメッセージを象徴しつつ、観客には特大の笑いを届ける。ここまで多重的な役割を一手にこなす名演が観られるなど、事前には想像し得なかった。本作でも白眉の名シークエンスである。

 この通り、本作『ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル』は、前作を踏襲しつつ現代向けにアップデートされた舞台設定の元、4人のキャラクターの関係性が深まっていく様を、留まることを知らぬ勢いの笑いと真摯なメッセージでコーティングした、隅から隅まで完成度の高い一作。万人にお薦めできる間口の広さと、読み解くとさらに面白さが眠る奥深さを兼ね備えた、ファミリームービーとして優秀すぎる作りこみで、大ヒットも納得の出来栄えである。もちろん劇場の大スクリーンで、特に4D上映との相性が抜群であろうとは察せられるが、長く愛される作品として、TVで観る映画の代名詞になれば望ましい。時折見返しては、寝る前に布団の中で、あんなシーンこんなシーンが面白かった、と思い返したくなるような、童心に帰れる大切な一本になってしまった。


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