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おれは、たくさんの女を泣かせてきた

 ドーモ、伝書鳩Pだ。おまえたちはもうこの名前には慣れたか?おれはまだだ。自分で付けたハンドルネームなのに、下したての義手のように、上手く馴染んでいない。複数のペルソナを持つと自我がほうかいする恐れがあるというが、おれもいまその瀬戸際に立たされている。

 そんなことはさておき、今日も今日とて、おれはアイドルをプロデュースしている。溢れんばかりの情熱を溜めこんだアイドルの卵たちに試練を与え、常に寄り添い、落ち込みそうなときは奮い立たせてきた。そして、苦難を共にし大きな成長を遂げた彼女たちは、おれの元から巣立っていき、「フェス」という新たな戦場で持てるチャームを振りまいている。そんな日々を懐かしく思いながら、おれは場末のスナックで安物のテキーラを飲み干して、また新たなアイドルと向き合う。そんな毎日を送っている。

 だが、おれの元を離れて行ったアイドルはみな、万弁の笑みを浮かべて去って行ったわけではない。むしろ、彼女たちは気丈に振る舞い、おれの前では明るく笑ってはいるが、人知れず枕を涙で濡らしているのかもしれない。いや、そうに違いない。

 おれはおれを責めるしかなかった。すでに10回を超えるプロデュース、いや、時間遡行を繰り返しても、おれは彼女たちを「W.I.N.G.」の王座に導くことができなかった。彼女たちは何も悪くない。全てはおれのふがいなさゆえだ。テキーラだと思って飲み干していたのは、おれ自身のほほを伝う涙だ。慟哭の味はとても苦く、一粒一粒がおれの心を蝕んでいく。それでも、諦めるわけにはいかない。悲劇を言い訳に自分を憐れむ時間は終わりだ。おれは全ての魔力を込めて、次のやり直しへ進んでいく。全ては、彼女たちの夢のために―。

敗因は己の弱さにある

 前回の手記にも書いた通り、『シャニマス』はトライ&エラーを繰り返すゲームだ。万全に仕上がった状態で臨んでも、審査員のしつような口撃を受け撃沈したり、その時々の流行やアピール順(攻撃順)、目押しの成否によって大番狂わせが起きることもしょっちゅうだ。性能差を戦略と運で覆せる余地があるというのは素晴らしいが、その逆もしかり。必要なのは、勝機を待つ根気と、チャンスを我が物とする実行力だ。

 とはいえ、まずは基礎を盤石としなければ勝負にすらならない。日々の鍛練から、勝負は始まっているのだ。アイドルにはそれぞれVo(ボーカル)・Da(ダンス)・Vi(ヴィジュアル)のパラメーターがあり、それらをレッスンで伸ばしていくのが基本だ。プロデュース開始時、どのアイドルもこの基礎値は同じ基準値からスタートし、プロデューサーの育成方針によって全く異なるアイドルが誕生する。おれが育てたおれの考えるさいきょうのアイドル、それがシャニマスの醍醐味であることに、諸君らも異論はないだろう?

 おれはたいてい、育てたいアイドルが将来獲得するであろうスキルから得意な分野を推理し、それと同じ分野に特化したアイドルを3名と、残された二つのステータスに特化した2名、という基準で装備を選出している。一つのパロメーターに特化した編成を運用したこともあったが、結局はスキルが重複して旨みを引き出せず、流行とマッチしなかった場合は小粒のようなダメージしか憎き審査員に与えられず、無星でむざむざ帰還する羽目になると学び、こうゆうバランスで挑んでいる。むろん、この場合の装備とはアイドルのことを指す

 だが、結果は前述の通り、準決勝を越せぬまま、暗澹とした気持ちで朝を迎えている。得意とするパロメーアーとメンタル(HPに相当する)を交互に上げ、ときにアイドルの要求の汲み取りつつ、うまいことレッスン表をこねくり回し、かなりイイ線のステータスで「W.I.N.G.」出場まで持ち込んでいる。だというのに、いざ本番になるとその力を活かせぬまま、砂漠の塵と化す少女たちが後を断たない。

 ここでおれはこれまでをふりかえり、ある一つの答えに辿り着いた。それはあまりにも単純で、見過ごしていたが、重大な欠点。そう、「本番に弱い」ということだった。

 まず、目押しが絶望的にヘタだ。この伝書鳩P、副業のデスクワークで疲弊した眼と消耗した反射神経でアピールミスを連発させ、狙ったところに正しく攻撃を放つことができていない、冒険者酒場でも選り抜きのヘナチョコ弓兵に成り下がっている。本業に支障が出るほどの副業ならすぐにやめるべきだろうが、この副業がなければ食べるものも着るものも失い、そもそも本業を続けられなくなるという本末転倒ぶりを晒すことになる。現代社会に蔓延る貧困と格差が、おれの弱さを生み出す根底であったことが、皆さまにもご理解いただけただろう。

 あと、単純にめっちゃ緊張する。準決勝になった途端、動悸は早まり、誤クリック/タップが頻発するようになる。かつてのバッドエンドで目にした彼女たちの傷つく姿が目に浮かび、おれは惨たらしくなきわめき、自分を追い詰める。あとはその繰り返しだ。アイドルのメンタルを鍛えている場合ではない、鍛えるべきはおれであった。全ては、プロデューサーたるおれの弱さが、彼女たちの頂への道を閉ざしていたのだった。

1.材料:カワイイなアイドル、サポートするアイドル、
2.はじめに、レッスンと仕事でステータスを上げて……
3.ちくしょう!だいなしにしやがった!お前はいつもそうだ。
4.この準決勝はお前の人生そのものだ。お前はいつも失敗ばかりだ。
5.お前は負けたらすぐ別のアイドルに鞍替えするが、一人だって優勝させられない。
6.誰もお前を愛さない。

それでも千雪は最高の女だ

 そんなクソみたいなプロデューサー…伝書グソPなおれを慕い、着いてきてくれる千雪は、言うまでもなく最高の女だ。おれは、千雪の歌声がすきで、いつもヴォーカルのレッスンばかり入れてしまい他が疎かになってしまいがちだが、その歌声でステージを魅了する歌姫というのは、アイドルとして最高に孤高でカッコイイだ。そうゆうおれの性癖みたいなものにも異を唱えず、自らレッスンを望み、空いた時間には事務所を掃除したり、ユニットメンバーの面倒を見たりしている。女神と書いて「ちゆき」と呼ぶ、そう政府が提言しかねない神々しい姿に、だれもが心奪われるだろう。

 惜しくも「W.I.N.G.」は敗れたが、おれのもとを去ってから、最初の手紙が届いた。なんでも、フェスで初優勝したそうだ。もちろん、用意されたランクの最下層、群雄割拠の前では存在さえ霞むような最底辺にいたとしても、この瞬間だけはおれがそだてた千雪が宇宙一カワイイなアイドルであることを、彼女自身が身を以て証明してくれた瞬間だった。歓喜だ。この世に生を受けたことを、おれははじめて感謝した。ありがとう、千雪。

NGワード:
「フェスは5人のユニットの総合評価であって個人の成績ではない」
「難易度がEasyなんだが??」
「冬優子に浮気している件について」

猛省し、未来へ―。

 今回も付きあわせてしまってすまない。これは日々の不始末をあえて書き残し、反省を促すためのセラピーのようなものだ。かの武将トクガワ=イエヤスも、敗走の際にみっともなく排泄物を垂れ流した姿を、あえて肖像画として飾り、過去の汚点を自分の人生の糧としたという。つまりはそういうことだ。奥ゆかしい武人の矜持を、おれは今ちゅうじつに再現している。

 そんなわけで、次こそは朗報を届けられるよう、プロデュース活動に邁進する所存である。伝書鳩P先生の次回作にご期待ください。

この怪文書を作ったのは誰だぁっ!

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