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『貴族降臨 -PRINCE OF LEGEND-』はLDH版MOVIE大戦になるはずだったのに。

 「まさか陰キャのおれがEXILEのアルバムを集め始めるなんて」でおなじみラブ・ドリーム・ハピネス・カルチャーショックを巻き起こしたあの大傑作『HiGH&LOW THE WORST』から早数か月。いくら待っても円盤発売のアナウンスも流れず難民と化した新参のハイローオタ(おれ)は、ジェネリックハイローを求め『PRINCE OF LEGEND』に行きついた。王子などという日本とはあまり縁のない称号をかけて顔のいい男たちが大渋滞する、おれたちのHIROさんとHI-AX神にしか描けねぇマンガじみた世界観が展開される本プロジェクトは、2019年のTVドラマと劇場版を経て、第2弾の『貴族誕生』が放送された。その劇場版たる本作では、第1シリーズの「王子」と第2シリーズの「貴族」がついにぶつかり合う、いわばクロスオーバーな一作。特撮オタクとして、一番の大好物だ。意気揚々と劇場に向かった。

 ところが。何か様子がおかしい…と冒頭数分から不安が拭えなくなっていく。こうしたクロスオーバーの王道といえば、「最初は対立していた両者が共通の敵を前に団結・和解し、巨悪に立ち向かう」である。スーパー戦隊のVSシリーズや仮面ライダーのMOVIE大戦、果ては『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』に至るまで、全世界で長きに渡り使い尽くされてきたVSモノのお約束。そのフォーマットに沿って貴族と王子が激突するも最終的には協力し、山本耕史演じるノアとの最終決戦に挑む。ベタだが燃える、そんな大団円が観られると、思い込んでいたのだ。

 「思ってたのと違う」なんて映画を観ていればよくある話だが、本作は事前の期待値と合っていたかどうかのレベルを超えて、全体を貫くメインストーリーは限りなく「無」に近い。支離滅裂で貴族らしい振る舞いとは正反対の行いを続けるキャラクターたちに、膨らんでいた期待の風船が萎んでいくのを感じていった。

ホストが支配する世界「ナイトリング」の頂点に立ったシンタロウは貴族ドリーを名乗り、兄シニアの意志を継ぎ「みんなが笑顔になれる世界」を目指すことを決意。同時に、信虎をホストとして再起不能にするまで追い込んだ真犯人を探し仇を取るため、シンタロウ=ドリーは街の浄化に力を入れる。そんな中、真犯人であるノアはドリーに聖ブリリアント学園の存在を伝え、「王子は庶民を自らの駒として扱う」として改革を唆し、ドリーは学園を乗っ取るために動き出す。学園存続の危機に、伝説の王子こと奏も帰国し、貴族VS王子の熾烈な戦いが幕を開けるー。

 辛うじて、本作を観て読み取れたあらすじが以上である。いくらなんでも、貴族と王子が対立する動機が杜撰すぎないか!?信虎の仇探しはどこいった!?前日譚にあたるドラマ『貴族誕生』でのお膳立てが嘘のように、積み上げた前フリや宿敵の存在を脇に置いて展開される貴族と王子の意味不明な対立で、90分の映画まるまる一本作り上げてしまう。それはそれで偉業なのだが、アイドル映画といえどここまで「虚無」なストーリーがお目にかかれるとは、思うわけないじゃないの。

 その代わりに展開されるのは、キャラクター同士の関係性を巡るドラマを数珠つなぎにした、サイドストーリーの集合体である。王子サイドから離れ貴族側に就いた天堂光輝や久遠誠一郎の真意、京極尊人の突然の裏切りと竜の葛藤など、本来なら本筋の枝葉となるようなサイドストーリーが本作に限っては主題であり、そこに寄ってたかって顔のいい男たちが集い、アクションや会話劇を披露する。その繰り返しと言えばその通りなのだが、悔しいかな、アイドル映画としてはそれで正しく、観客の需要に十分に応えている。

 私とて「萌え」を摂取しにプリレジェを観に来ている。推しは京極兄弟だ。不器用でまっすぐだけどちょっと強引なキスしちゃってその後照れちゃう鈴木伸之×お兄ちゃん大好きなワンちゃん気質の川村壱馬というスカウターぶっ壊れ級の萌えを計測する関係性を発明してくださったHI-AX神に足を向けて寝られず日々拝みながら生活している。そんな私にとって本作は久しぶりの「供給」であり「救い」である。私にとってのミッドサマーが京極兄弟であり、プリレジェなのだ。兄弟愛尊い。おっきな唐揚げ作ってあげたい。

 この映画を観に来た人はそれぞれ、各々の推しがいるはずだ。それは役者本人であったり、キャラクターそのものであったりする。そうした偶像への愛が満たされ、公式からの供給を得て人生が豊かになる。そういうエンタメがあってもいいのだ。劇映画としては失格でも、「公式が最大手」を確認するための行事が、私たちオタクには必要なのだ。その点において、『貴族降臨』も混迷極める今の日本を明るくするために必要不可欠な、心の栄養たりうるのである。

 確かに期待していたものとは違ったし、ノアとの対決や信虎の敵討ちは後回しにされてしまった。劇場料金を払う以上、TVドラマよりもゴージャスなものが観たかったという気持ちもある。それでも、『PRINCE OF LEGEND』がまだまだ続くかもしれないというポジティブな見方に転換すれば、希望は残っている。顔のいい男たちが大渋滞、LDHが私たちに見せてくれるドリームは、まだまだ終わりがないらしい。最後の瞬間まで、私は京極兄弟にうちわとペンライトを掲げるオタクでいたいのである。

 あとこれ。吉野北人の歌唱力が化け物なので、彼が歌う「TiAmo」はフル音源かつ円盤の映像特典にはフル尺で収録すべきであると声高に主張しておきたい。そうでなければおれたちのハピネスは満たされないままなんですよHIROさん。

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