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こいつはどえらい時間泥棒『ユニコーンオーバーロード』、その理由を書き記す。

 寝不足である。

 0時頃には寝よう寝ようと思いつつ、気づいたら深夜2時や3時を越してしまい、翌朝に痛い目に遭う。時折スマホで時間を確認しているのに、あと一戦、あと一クエストが止められないし、編成画面を開いてしまったがもう最後、あっという間に時間が吸い寄せられていってしまう。

 開発期間10年、ヴァニラウェア謹製の作り込まれたゲームシステムと暖かな色調のグラフィックに魅入られ、最高の軍師体験をする代わりに、私は睡眠時間を手放した。このテキストに辿り着いた皆さんの中にまだこのゲームのことを知らない人がいるのなら、ぜひとも私と同じ過ちを繰り返してほしい。健康を犠牲にしてでも遊ぶべきゲームはこの世に数多存在するとして、その最新作の名は『ユニコーンオーバーロード』という。

国盗り×オープンワールド

 では実際に、このゲームがいかに時間泥棒なのかを列挙していきたい。そもそも、シミュレーションRPGというジャンルは一回の戦闘にかかる時間が他のジャンルよりも多いことが知られており、元から時間泥棒の側面を有している。ところが、『ユニコーンオーバーロード』の合戦(1ステージ)は短いものであれば2~3分程度で終わるほどの小規模なものが多数用意されており、一つの判断ミスが長時間の戦闘の積み重ねを水泡に帰すような場面はメインストーリーにおける重要な局面のみとなっている。一回の戦闘が短いということはシミュレーションRPG初心者を受け入れる間口となっているだけでなく、戦闘自体が面白いので連戦をしたくなる、という方向の時間泥棒が、本作の正体だ。

 プレイヤーの分身たる主人公アレインは、自身の祖国コルニア王国を邪悪なる者の侵略を受け失い、母のイレニア女王も生死不明となってしまう。それから時が経ち、青年となったアレインは反乱軍を結成し、新生ゼノイラ帝国に奪われたフェブリス大陸を奪還するため、大陸全土を旅しながら仲間を集め、戦力を増強していく。

マップを歩くだけも楽しいユニコーンオーバーロード

 『ユニコーンオーバーロード』では、舞台となるフェブリス大陸を自由に歩き回ることのできる、ワールドマップが用意されている。ここでは、各地を巡って素材を採取したり、各地に点在する町や要塞を訪れて、素材を渡すことでゼノイラ帝国によって破壊された町の復興を手助けしたりすることができる。前述した“2~3分程度で終わるほどの小規模な”戦闘は主に敵の根城となった町や城を解放するためのサブクエストであり、奪還した町には民衆が戻り、ショップや仲間と同じ釜の飯を食うための宿屋などが利用可能となる。

 本作はこのマップの構造が絶妙で、青く光る素材採取ポイントに惹かれて歩いていると、次のクエストが見つかる、というルーティンを組んでいる。一つの町を解放すれば、行ける領土が広がり、その先に新しい採集ポイントと支配に苦しむ集落が見つかり、つい立ち寄ってしまう。戦闘を終えセーブし、ゲーム機の電源を切ろうとしたのに、画面の端に青い光が見えて、ついつい吸い寄せられてしまう。そうなれば新たなロケーションが見つかり、プレイ時間はどんどん伸びていく。

 このプレイ感覚は、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』に近いものを感じている。こちらのゲームはリンクをどれだけ歩かせたら新しい発見に出会えるかを等間隔に配置したと聞いた覚えがあるのだけれど、そのメソッドを本作も採用したのではないだろうか。素材を求めて世界を放浪すれば町に行き当たり、小規模な解放戦を繰り返して自軍のレベルは向上し、自然とメインストーリーが発生する場所に辿り着く。自分のプレイによって敵から領地を奪い返していく、その達成感を常に味わわせてくれるところが、最初の「時間泥棒ポイント」である。

ヴァニラウェアなので当然、飯テロが多発する

ガンビットを高速で回すオート戦闘の中毒性

 本作の体験版を遊んで、懐かしい気持ちに襲われた。『ユニコーンオーバーロード』では、ステージ攻略中は最大5人で編成されるユニットを移動させ、敵ユニットと接触すると戦闘が始まるのだけれど、その戦闘はオートによって進行する。プレイヤーが介入するのは、敵ユニットとの相性を判断して自軍のどのユニットを相対させるのかという判断と、戦闘中に各メンバーがどのように行動するのかを設定する「作戦」である。

 では、今からその「作戦」の画面をご覧いただきたい。RPGを常日頃遊んでいる方であれば、私が感じた懐かしさの正体に気づけるはずだ。

回復を得意とする「ビショップ」の作戦画面
スキル名の右に二つ設定可能な「条件」がミソである

 そう、「ガンビット」である。ソロで遊ぶRPGでありながらMMORPGの要素を盛り込み、それ自体が作品の独自性をハッキリと印象付けた『ファイナルファンタジーXII』におけるユニークなシステムを、本作は踏襲している。

 令和に蘇ったガンビット改め、本作の「作戦」とは、キャラクターが持っている攻撃や支援、回復といったスキルの「発動条件」と「優先順位」を、プレイヤーが細く設定することが可能、というもの。上の画像で例えるなら「HP100%未満の味方」がいればセイクリッドヒールを2AP消費して発動、さらにそれでも同条件の味方がいてAPが残っている場合「後列の味方を優先」してヒールを発動、といった具合だ。

 このように、本作に登場するキャラクターはその兵種に合わせた特徴的なスキルを有しており、それをどのように使うのかはプレイヤーが自由に設定できるのである。小難しく思った場合は「おすすめ」設定に一任することも可能だが、自動設定では痒いところに手が届かない展開が、いずれ必ずやってくる。その戦況をひっくり返すのも、「作戦」の醍醐味だ。

こちらがダメージを受けず、
一度の戦闘で敵ユニットを壊滅させられるのが理想系

 本作の戦闘ルールは、敵味方がお互いのAPとPP(スキル発動のために消費する各自保有のポイント)を使い切るまで続くオート戦闘であり、より相手にダメージを与えた方が勝利となり、敗北しHPが残っているユニットは後退する、という方式となっている。敵ユニットを後退させるということはつまり前線を押し上げることであり、ステージには制限時間があるので、待ちではなく積極的な攻撃の姿勢が求められる。だが、時にはこちらが敗北濃厚な、不利な相性の戦闘が始まることも、多々起こってしまう。

 ここで本作が面白いのは、上掲の画像は敵味方のユニットが接触し戦闘に突入する際の画面なれど、この時点でもユニット内の配置や作戦の変更、アイテムの使用が可能、という点にある。

 例えば、自ユニットは回避能力に長けた飛行ユニットを主力とした部隊を構築しているが、相対する敵ユニットが必中攻撃スキルを持つソードマンなどを主力としていた場合、相性が悪いのでユニットが全壊する結果が示されているとする。このまま戦闘に突入すれば敗北は避けられないが、諦めるのはまだ早い。敵からの攻撃を肩代わりするスキルを持っている味方がいれば、その条件を「前列の味方を優先」にして発動の優先順位を一位にする。あるいは、被ダメージを抑えるアイテムを服用し、こちらのダメージを最小化し与ダメージを最大化することでこの場の戦闘をやり過ごす。

 必ずしも一回の戦闘で敵ユニットを壊滅させる必要はなく、敗北を防ぐためにその場その場で戦略を練り直す。序盤こそ打てる対策は少ないが、各メンバーが育ちスキルや扱える兵種が増えると、複数の状況に対応できるユニットが出来上がることもある。不思議なことに、作戦を組み直す前はこちらが敗北するはずだったのに、少し配置を変えただけで勝敗がひっくり返った、なんてことも起こり得るのだ。

 編成に凝りだしたら、あなたはすでに『ユニコーンオーバーロード』という名の底なし沼に脚を囚われている。有識者曰く、『アーマード・コア』は実際の戦闘よりもアセンブルを組んでいる時間の方が長いらしい。本作は流石にそんなことはないけれど、私が意図せぬ夜ふかしを敢行したのはいつだって、編成画面を触っている時だった。

 本作の戦闘バランスは兵種の相性が物を言い、その上でバフ・デバフが敵味方共通して強力、というもの。即ち、行動順の優位を取り、味方の強化あるいは敵の妨害を済ませた上で、攻撃に移るのが理想である。その実現のために、あーでもないこーでもないと編成画面をにらめっこし、どんどん加入していくネームドキャラと各地から雇用したモブ兵士とを組み合わせて、最強のユニットを目指して試行錯誤する。これがたまらぬ中毒性なのだ。

 敵のAP/PPを奪うのが得意なシャーマンを入れて敵の強力な攻撃を封じてみる、魔法攻撃が得意なソーサラーをあえて味方に必中/確定会心を与えるスキルを最優先に発動する支援役として添える、弓兵に弱い飛行系ユニットに確定回避を与えるエルフフェンサーを後列に採用する……。公式サイト曰く60種以上存在する多様な兵種は、組み合わせによって強烈なシナジーを発揮することがあり、たまたま最適解を見つけた際の興奮はさらにゲームへの没入を深めていった。

 このように、編成を変える、あるいはスキルの発動順や条件を変えることで、不利だったはずの戦況をひっくり返すことの出来る『ユニコーンオーバーロード』は、一回一回の戦闘でガンビットの最適解を導くことを課せられた『FFXII』であり、一見すると難しく思うかもしれないが、その都度修正し改善することが出来るわけで、より遊びやすくなった『FFXII』とも言えるのだ。戦争は事前の準備とブリーフィングが重要と言うが、作戦に誤りがあれば現場で正せば良い。その懐の深さが、イヴァリースの亡霊には優しい。

 ストーリーを進める、あるいは道中のサブクエストを攻略することで、新しい加入キャラクターがどんどん増えていく。キャラクターが増えれば扱える兵種が増え、兵種が増えれば練られる作戦も他兵種とのシナジー候補も増える。ゲームを進めるワクワクが最後まで途切れなかったのは、自軍の拡充を常に実感していられたからであり、それを促すゲームデザインこそがもう一つの「時間泥棒ポイント」に挙げられるだろう。

 今回は深堀りしないけれど、ヴァニラウェアらしい美麗なグラフィックにベイシスケイプの金田充弘氏が手掛ける楽曲の豊かさ、ネームドキャラがフルボイスで喋りまくるなど、どの切り口も高品質で隙がなく、上品な味わいがずっと続く点はディレクターこそ違えど『十三機兵防衛圏』に初めて触れた際の質感を思い出させてくれる。上質なガワの内部に狂気的な作り込みが隠されている点においても、この二作は兄弟のようなものとして扱っても差し支えないのかもしれない。

 なにはともあれ、余暇時間の全てを捧げたくなるほどの驚異的な面白さは、実際に触れてみないとわからない。喜ぶべきことに、本作は製品版にセーブデータの引き継ぎが可能な体験版が配信されている。ゲームの序盤のみなれど、ここまで書き記した「探索の面白さ」「作戦の編集」はバッチリ堪能できるので、体験版を遊んでみて本noteを読み返していただければ、より理解が深まるはずだ。

 お前も寝不足になれ、と言うのは心苦しいが、こんなに面白い、かつ同じクオリティに達するにはヴァニラウェアが10年かけなければならないゲームを前にして、遊ばなくていいよ、なんて口が裂けても言えるはずがない。まずは体験版、その次に製品版を買って、若き一角獣の国盗り合戦にあなたの貴重な人生の一欠片を委ねてほしい。目の下にクマを作ることになっても、それだけの価値があることは、保証できるから。

 では、私は次の戦場に繰り出すゆえ、これにて失礼する。

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