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優しさと厳しさと心細さと。『NeverAwake』

 ビデオゲームという大きなくくりにおいて「食わず嫌い」があるとすれば、私のそれはシューティングになると思う。

 幼少期に遊んだ『ガメラ2000』は結局ラストステージには辿り着けなかったし、大人になって触れたシューティングゲームといえば『ベヨネッタ』『ニーア・オートマタ』の途中に挟まれるシューティングパートくらいのもので、ニコニコ動画全盛期と第二次性徴期が重なりながらも『東方』を通らなかった私は、いつの間にかシューティングゲームを避けるようになっていた。面白そうと感じても、なぜか手が出ない。買ってもクリア出来ないのではという不安が、財布の紐を緩めることを許さなかったのだろう。

 それゆえに、『NeverAwake』を購入したのは、個人的にはかなりの挑戦だった。セール中でお安く買えたから、以前から「STG初心者にもオススメ」という評判を聞いていたから。その二点だけを支えに、人生で初めて自分の意志でシューティングゲームを買った。二時間後、私は真夏の太陽に向かってこう叫ぶことになった。

 難しいじゃねぇか!!!!!!!

 まずは、最初に目を引く世界観と物語について説明したい。本作は、とある少女の悪夢を舞台とするシューティングゲームである。病院のベットで寝たきりの少女・レムは、自分の嫌いなものがモンスターとして襲いかかってくる悪夢に苛まれていた。そこで彼女は、夢の中で自身のトラウマと向かい合うためにモンスターたちと闘い、「ソウル」と呼ばれる物質を集めることでストレスを和らげ、現実に目覚めようと奮闘する。

 『魔法少女まどか☆マギカを彷彿とさせるグラフィックとおどろおどろしさ満開の世界観やモンスターは、全てレムの嫌いなもので構成されている。野菜や歯医者といった子どもが苦手とする代表例に続き、クラスメートや犬といったモチーフが異形として現れ、ゲームが進むごとに彼女の心の闇と鬱屈が浮き彫りになっていく。

子どもの目にはこのように見えているらしい。

 レムはなぜ病院で寝たきりになっているのか。彼女が抱えるトラウマやストレスの正体とは何か。ステージをクリアすることで入手できる「DIARY」では彼女が寝たきりになる前の様子が断片的に開示され、少しずつレムという少女の在り方が鮮明になっていく。この謎を解き明かすことがプレイヤーの興味を持続させ、ステージを攻略していく原動力となっている。彼女の明るい目覚めを願って、険しいシューティングの道のりが始まるのだ。

「DIARY」は必ずしも時系列順に開示されるわけではない。
メニュー画面で読み直すと、意外な真実が見えてくる。

 ではようやく、肝心のプレイの中身に触れていく。シューティングパートは、左スティックで自機移動、右スティックでエイムを行い攻撃は自動なので、二本のスティックで移動と連射が完結する。使用するボタンは(switch準拠)ZLのダッシュとZRのウェポンのみで、操作系統“は”実にシンプルだ。

 レムのトラウマが反映された世界は、一つのテーマにつき10ステージが用意されており、ステージのクリア条件は倒されたモンスターが落とす「ソウル」を100%になるまで集めること。画面に表示された敵を全て倒す必要もなく、苦手な敵はあえてスルーして御しやすい敵からソウルを獲得する、というプレイも許容してくれるため(ただしチャレンジを除く)、ステージと敵の特性を見極め攻略に臨んでいこう。なお、レムのライフはシールドの数で表現され、ゼロになって被弾したらアウト。回避を疎かにしていたら、あっという間に沈んでしまうゲームバランスになっている。

左下にウェポンの残弾数とシールドが、
上部にソウルの回収率が表示されている。

 ここで正直に告白すると、「STG初心者にもオススメ」という前評判に対し、私は本作を「易しいゲーム」と思い込んでいたわけだが、それは壮大な勘違いだった。本作は、分類としては「ツインスティックシューティング」と呼ばれるらしいのだが、これはつまり自機の移動と攻撃の照準を常に自分が操作しなければならない、ということだ。

ご存知『ゼビウス』より。

 私の貧相なゲーム知識において、シューティングゲームとは「自機の前方から弾が出る」タイプのもので止まっていて、ゆえにチュートリアルを遊んだ瞬間は壮大なカルチャーショックに襲われたものだ。自分の好きな方向に攻撃できる!つまり360度どこから敵が出てきても、迎撃できるわけだ。

 それはつまり、敵もまた360度全方位から襲ってくる、ということも意味する。初期のステージこそ弾幕も緩やかで心地よく無双させてくれはするが、ほとんどのステージにおいて画面は複数の敵とそれらが吐き出す弾、グロテスクなギミックに覆い尽くされ、プレイヤーはその猛攻に追い詰められながら回避とエイムの両立を求められる。また、ステージの進行は強制スクロールとなるため、そのスピードの速さ如何で難易度は大きく変動する。

 シューティング慣れしていればいざしらず、若葉マークが手放せない私のような初心者からすれば、本作の弾幕とゲームスピードはかなり厳しいものに感じられた。巨大な敵に移動範囲を狭められ、前と後ろから攻め込まれ、次第に私の思考は回避と攻撃の両立に頭が回らなくなっていく。こちらが立てばあちらが立たず、攻撃に専念すれば自機はあっという間に体力が付き、回避を重点すれば倒し損ねた敵に画面を覆い尽くされ、これもまた手詰まりに追い込まれてしまう。本作を遊んでいる間、脳の負荷が加速度的に高まっていくのを感じた。どのステージも目が回るほど忙しいし、難しいのだ。

 さらにゲームを遊んでいると、一部のクリア済みステージに「OMOIDE CHALLENGE」や「HIMITSU CHALLENGE」といったお題が追加され、さらに頭を悩ませることになる。熟練者向けのやりこみ要素ならば見過ごすこことも出来るが、これらのチャレンジをクリアすると「ALBUM」が開放され、別の視点から見たレムの姿が明かされるため、ストーリーを理解するためには必須となっている。ゆえに見て見ぬふりも出来ず、苦労しながらリトライ回数を重ねていく羽目になっていった。

「DIARY」がレムの主観なら、
「ALBUM」は客観のレム。両方重要なのだ。

 本作は実にハードなシューティングゲームだ。有識者曰く「自機の当たり判定が小さいので回避は容易な方」らしいのだが、思考と身体の動きが一致しないからこそ体育というものに苦しめられてきたのだ。頭でわかっていても、どうしても繊細な回避も、的確な攻撃も間に合わない。インプットとアウトプットとが、致命的に噛み合わないのだ。

 そんなシューティング童貞に対し、本作が掲げるソリューションとは、「下駄履かせてやっから、出来るまでやってみ?」というものだ。決してゲームの難易度は下げてはくれないが、自機を強化することについては実は寛容なのである。

ステージに失敗すると、品揃えが増えていく。

 ステージを攻略するために集めたソウルを支払い、本作では様々な補助アクセサリーを購入できる。「取得ソウルを増やす」「自機の前に盾となる傘を出現させる」「一定のソウルを取得するとシールドを回復させる」といった効果があり、険しい闘いを乗り越えるためには必須のものばかりだ。こうしたアクセサリーは主にステージ攻略を失敗した際に追加されることが多く、リトライの前にメインメニュー画面を覗き装備を見直してみると、意外な打開策が見つかったりするものだ。

 本作は残機制ではないが、かといって被弾してよい数は限られている。であれば、アクセサリーを活用してレムの防御を固めてもいいし、あるいは殲滅力を向上させ殺られる前に殺るスタイルだって時には有効だ。足りないシューティング技能を装備で埋め合わせすること、ステージ構成や敵の配置に対し有効な戦術を考えることで、ステージクリアへの道筋が少しずつイメージできるようになる。敵の攻撃をかわせないのなら、当たってもいいさ、と言わんばかりのパワープレイも強行できてしまう間口の広さこそ、「STG初心者にもオススメ」という言葉の正体だったのだ。

 それでもクリア出来ない場合の最終手段として、 「オーバーソウル」が用意されている。これは少量のソウルを支払うことで自機の攻撃力とシールドの数を増強させた上で出撃できるというもので、主に「1ループで100%のソウルを集めきる」「ボスを完全に撃破する」といったチャレンジに対して有効過ぎる強化である。これを利用するにあたり支払うソウルはかなり安価で失敗しても損した気持ちになりづらいし、使用の有無はプレイヤーに委ねられているため、自分のプレイングを信じて頑張るもいい、オーバーソウルで難所を楽々突破も許されている、というバランスが実にありがたい。

 また、言い忘れた本作独自のルールなのだが、本作のステージはループするという特徴を持っており、敵の配置やギミックなどは変わらない(ただしループの切れ目に倒しきれなかった敵はそのまま残留する)。つまり、どんなにステージが難しくとも「何回もやれば覚えるっショ?」というわけだ。かつて渚カヲル氏がピアノの演奏と世界のループとをなぞらえて「反復練習さ」とCV:石田彰の美声で言ってのけたが、本作も“それ”である。何回もやれば、いつかはできるようになる。本作はスパルダだが、終わるまで優しくサポートしてくれる優しさも兼ね備えているわけなのだ。

 かくして、本作を遊んでいる最中、私は常に「シューティングが下手な自分と向き合う」苦痛や悔しさと、「装備や強化を駆使して強引にクリアした」快感を交互に味わい、いくばくかの充実感と共に悪夢旅行を終えることができた。決して楽な道中ではなかったし、1ループがもう少し長かったら、挫けていたかもしれない。ただ、たとえ作り手から用意された補助輪があったにせよ、シューティングゲームを終えられたという経験は確かな糧になるし、食わず嫌いが少しだけ緩和されたのも事実なのだ。そのことが何よりも、今は嬉しい。

 繰り返しになるが、『NeverAwake』は決して「易しい」ゲームなどではない。下駄を履かせてはくれるが、最後にモノを言うのは自身のプレイングと、諦めない心である。それは時代にそぐわないかもしれないし、楽しむというゲームの本懐を味わえないかもしれない。だが裏を返せば、コンティニューを続ける限りにおいて『NeverAwake』は決してアナタを見捨てるようなことはしない。そっと増えていくウェポンとアクセサリーの品揃えと、オーバーソウルを時々タダにしてくれるのが、その証左だ。

 万人が楽しめるとは保証しかねるが、あなたの度胸とチャレンジ精神に本作は応えてくれる。確かな歯ごたえと達成感を与え、シューティングが苦手でも突破口は用意されている。実に考え抜かれた難易度設定の上で、あーでもないこーでもないと試行錯誤する楽しさを、どうか味わってみてほしい。クリアできないなんて悪夢に苛まれないよう、強い心を持ち続けられるゲーマー諸氏にオススメの一本だ。

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