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拝啓、一歩を踏み出したあなたへ。

 ドーモ、伝書鳩Pだ。突然の身の上話で申し訳ないが、何かと忙しい日々が続きアイドルのプロデュースを数週間くらい怠っていた。シャニマスは遊び応え十分のタイトルだが、それゆえに腰を据えて遊べるメンタルや時間が整わないと容易に手を出せない。挙句の果てには出社(ログイン)すらできなくなり、アイドルやはづきさんに多大なる心配をかけてしまった。申し訳ない限りだ。それでも、イベントコミュだけは忘れず取得しておこうと合間を縫ってプロデューサー業を再開し…コミュを読んで…おれの瞼は涙をせきとめる栓としての役割を放棄し、今日一日誰とも会えないくらい目が腫れてしまった。おのれシャニマス、情緒でプレイヤーを殺すテクニックを日々磨いてきやがる。今回はおれの涙腺をバキバキに破壊したイベントコミュの話をする。当然ネタバレを含むため、注意されたし。

 青春モノ、学園モノになぜ惹かれるのかと言えば、それらがつねに「終わりへの予感」を常に帯びているからだと思っている。学校というものはいずれ卒業して、誰もが進学や就職といった未来への選択肢に悩み、いつかは決断する。今の楽しい時間は有限であり、それは誰にとっても避けられない、とても儚いものだ。だからこそ、私たちは創作の青春群像劇に自分を投影して感情移入し、いつかの別れを思い出したり、キャラクター同士の別れの辛さを共有することができる。夕日を見て少しだけ切なくなるのは、あの頃の思い出がふと心をよぎるからだ。

 物語は、283プロ事務所の近くにある商店街の会長が、放課後クライマックスガールズに豆まき行事のお手伝いを依頼しに訪ねるところから始まる。放クラにとっても馴染みの深い、帰りに寄るお店のおっちゃんが商店街会長という大役であったことに驚く樹里。会長は豆まき行事はもちろん、商店街全体を盛り上げるために放クラの力を借りたいと願い、樹里たちも率先して協力したいと了承する。

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 樹里と凛世はとくに気合が入っていて、商店街の大人たちからも可愛がられているようだ。コロッケを差し入れされたり、写真館の主人とポスターの撮影をして、準備が着々と進んでいく。会長とプロデューサーの会話によればこの商店街は283プロの寮の近くにあり、どのメンバーにとってもここは地元ではないらしい。それでも、彼女たちにとってここが「大好き」な「第二の故郷」であることが語られ、その愛着の深さが伝わってくる。友達と寄り道した帰り道、いつも立ち寄る馴染みの店、そこで出会う地域の人々…そういう情景が浮かび、放課後クライマックスガールズの面々がまさにそこで生きているような。それほどの解像度で脳裏に焼き付くのは、やはり自身の過去をふと思い出したからだろう。

 そんな折、樹里たちは商店街会長が今回の豆まき行事を最後に店を閉めることを知る。いつもそこにあると思っていた、大好きな場所。仲間との思い出が詰まった大切な場所。それが、無くなってしまう=永遠ではないことを知る、その残酷さ。

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 樹里は、変化の予感を感じ取っている。今が永遠ではないこと。自分も周囲も少しずつ、気づかないうちに変化していって、それはとても寂しいことなのだと。人間歳をとればそういうことはいくつもあるし、変わり果ててから気づくことだってある。誰にも訪れる通過儀礼のようなもの。だけれど、樹里はそれが恐ろしい。登った階段の先にどんな光景が広がっているのか、全く見えないからだ。

 その日の夜、樹里は昔のことを思い出していた。商店街のおっちゃんとの会話、283プロに入って間もない頃の樹里。不愛想で突き放すようなしゃべり方で、アイドル(芸能人)としての自覚も、夢や方向性も見えていなかった樹里は、親元を離れて頑張る決意を褒めたたえる会長の言葉を素直に受け取ることができない。「何者にもなれない」樹里は、見えない未来に怯えていたのだと思う。これからどんなアイドルになるのか、自分がどうなりたいのか。ゴールの見えない今に悩む樹里は、メンバーのことさえ「友達」と呼ぶこともできなかった。

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 そんなことを思い返しながら、樹里は過去から今へ繋がる「変化」を見出していたに違いない。「友達ではない」メンバーがいつしかかけがえのない仲間になったこと、放課後クライマックスガールズだと胸を張って名乗れるようになったこと。変化を恐れていた彼女自身が変化していて、そのことに気づいていく。変化は避けられないとすれば変わっていくしかない、けれど、嫌なことばかりじゃない。

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 その想いを、正直にメンバーに話す樹里。スカウトされてアイドルになった樹里は、どういうアイドルになっていいのか、どういうアイドルになりたいのか、ずっとわからないまま活動していた。そんな自分を応援してくれる人がたくさんいて、商店街のみんなは優しく彼女たちのことを見守ってくれていた。そんな人たちが、たとえ会えないくらい遠くにいても、自分たちのことがわかるように、そういうアイドルになりたいー。

 その想いを受け取って、飾らない気持ちを語る放クラのみんなが愛おしい。商店街の大人たち同様、メンバーのみんなも樹里が心配で、応援していたのだ。だから、樹里が答えを見つけられたことを自分のことのように喜んで、がむしゃらに走ればいいと背中を押す。果穂の言葉を借りるのなら、「放課後クライマックスガールズはみんな優しくてスッゴク強い」から、一緒にいられるのだ。

 迎えた豆まき当日。突然開会の挨拶を任された樹里は、ここでも気持ちをストレートに語る。アイドルになって、この街に来て、大切なものが増えたこと。大切なものが増えるほど、失くすのが怖いと思う気持ち。応援してくれる人がどこにいても、自分のことがわかるように、応援してもらえるように、そんなアイドルになりたいと。

 樹里は、店のことも、メンバーのことも大切に想っていて、でもいつかは変わっていかなくてはならない。ただ、その「変化」を肯定することが出来た今日までの出来事を、プロデューサーは「大事な一歩」という言葉で表してくれた。

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 …ずっと引っかかっていたことがあって、今回のイベントコミュ、オープンングが「拝啓、階段の先の君へ」で始まり、「追伸、写真を添えて送ります」で締めくくられる。水着の説明文まで異様にこだわってくるシャニマスのことだ、そこには必ず意味がある。なので、この辺りの解釈を述べてキーボードから手を放すとしよう。

 拝啓、という言葉を使うシチュエーションといえばもちろん「手紙」である。主題に入るまでの挨拶文として、畏まった文章を書くときに誰もが一度は使ったことのある言葉。では、これは誰が誰に宛てた手紙なのか。それはやはり、今この瞬間を生きる樹里から、まだ見ぬ未来という階段を歩んだ先にいる「これからの樹里」に宛てたもの、と読み解くのが自然だろう。今回の商店街の出来事で、樹里は自分が目指すアイドルの在り方に気づくことが出来た。そしてそれはアイドル・西城樹里にとって大きな一歩であり、プロデューサーは「起きたこと思ったことも全部大切にしていこう」と説いた。その経験を経て、樹里は「起きたこと思ったこと全部」を大切にする手段として手紙を選び、その時感じたことを書き留めて、未来の自分に送ったのだろう。一瞬一瞬の出来事や感じたことを忘れないように、自分の理想のアイドル像を見つけることが出来たその時の気持ちをいつでも思い返せるように。このコミュ自体がその手紙を読んだ未来の樹里の回想であり、手紙を書くことそのものが樹里にとっての前向きな「変化」そのものとして描かれることで、これからのアイドル・西城樹里に繋がっていく階段が見えたような、そんな一瞬さえ感じられるエモーショナルなシナリオであった。

 最後に、前に進むことを恐れなくなった西城樹里さまへ。先行きの見えない未来が不安で、何かが変わっていくことが嫌で、それが大人になっても怖くて怖くて仕方がなくて、だからこそあなたの姿が眩しくて格好良くて、ファンになりました。これからも応援していきます。伝書鳩Pより。敬具。

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