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追伸、樋口円香様‐G.R.A.D.を終えた現在地‐

 どうもつむじです。前回言った通り、気合入りすぎて20000字近くになったので、さらに二分割しました。自分でも笑っております。SSも書きたいのに全然進まないですね……。SSのリンクは最後に貼っておくので良かったら読んでください。
 ここではようやく、円香の救済について語っていきます。今回こそ終わらせます。いやマジで。
前々回↓

前回↓

〈注記〉
この記事は、題名にもある通り樋口円香G.R.A.D.編のネタバレが多分に含まれております。どうかご容赦ください。

〇「彼女」について

 さて、前回の記事で「彼女」とPは、それぞれ円香との(少し歪な)同質性というものを我々は確認し、それによるお互いの関係性をより明確にできたのではないでしょうか。
 なので、結局のところこの三人はどこに着地することになったのか。それを今回は見ていきたいと思います。
 具体的に最も見なければいけないところは、「彼女」と円香の関係性がどのような結果に至ったか、でしょう。

 G.R.A.D.優勝後、円香は「彼女」に対する言葉にできない感覚を何とか知っている単語に落とし込もうと葛藤します。

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G.R.A.D.編「願いは叶う」より

 そんなとき、奇しくも「彼女」は同じエレベーターに乗り合わせることになりますね。

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G.R.A.D.編「願いは叶う」より

 こう言って、「彼女」は1階に着く前にエレベーターを降りていこうとします。
 最初に言わなければならないことは、円香がG.R.A.D.で優勝した、ということは裏を返せば「彼女」は優勝できなかったということに他ならない、ということです。

私、これが最後のトライにしようと思って

もちろん終わらせるつもりはないですよ!『G.R.A.D.』で優勝することが目標です!
でも、鳴かず飛ばずに結果になったら、その時は……
        G.R.A.D.編「脈を打て」より

 というわけなので、彼女はアイドルをやめた可能性が高いように感じられます。
 同時に前回の話を蒸し返せば、「エレベーターを途中で降りる」という行為は、「彼女」がアイドルをやめたということと同時に「円香の理解者」から降りたことを示唆的に表しているのかもしれません。
 まず少し考えておきたいのは、「願いは叶う」というタイトルです。怪しすぎますね。我々は「彼女」と円香が関わるコミュというコミュで、この言葉に遭遇しています。
 円香の「願い」というのは、「重くなる」ということなのでしょう。正確には誰かの救済を持って、とか破滅を回避して、とかいろいろ枕詞が付くでしょうが、もっとも端的にあらわすならこれだと思います。
 問題は、「彼女」の「願い」です。
 ぶっちゃけ彼女の願いなんてどこにも書かれていません。ですがまぁ、円香との会話等を鑑みれば「素敵なアイドルになる」といったところではないかと思います。
 しかしながらそれとは別に、僕は「彼女」にはもう一つ「願い」があったのではないかと思います。

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G.R.A.D編「願いは叶う」より

 この少しシニカルな言い方、「彼女」は本当に円香が好きなのだろうな、と考えさせられるとともにやはり「彼女」と円香の同質性が気になります。「彼女」と円香は、やはりどこか似ているものを感じます。
 いま、「彼女」が円香と似ているのならば我々が注視すべき点が存在します。それは先の項で触れた、「無能系アイドル」のくだりです。
 つまり僕が言いたいのは「彼女」が本当に「無能系アイドル」を進んで演じたのか?というところにあります。仮に彼女と円香が似ているのだとすれば、その可能性は極めて低いはずです。
 これは別の言い方をすれば「それくらい表面を取り繕ったとしてもアイドルとして生きていきたい」という願望にもなります。
 さて、この言説は何かに似ていますね。それはどこかの誰かが「浅倉透と対等でいるため」にとった施策と構造的にかなり近いように感じられます。
 であるとした場合、「彼女」も同様の悩み、つまり「本当の自分」に対する「正当な評価」を得られないことに対する葛藤がある可能性が高いように僕は思います。それは転じて、「彼女」が自信を「軽い」存在であると考えるのではないかという説と共に、実は「彼女」にも「救済」が必要である、ということを暗に示していると僕は考えます。
 では、彼女たちに共通する「重くなりたい」という「願い」は結局のところ叶ったのでしょうか。僕は叶ったと考えます。というのは題名が「願いは叶う」であるからです。もちろん他にも論拠はありますが、一旦保留とさせてください。あとで説明したいと思います。

〇本題-救済編-

 かなりのカードが揃ったところで、いい加減自分の立てた問いに答えていこうと思います。
 僕の呈した問いは
①そもそも円香における「救済」とは何なのか
②それはどのような救済なのか
③円香を救済するならば、それはどのような存在になるのか
 という三つでした。これは円香を「彼女」に置き換えれば、「彼女」の救済に関する問いとなります。先ほど「彼女」にも救済が必要だと僕は述べました。そのため、この章ではこの二人が「救済」されたのかどうかを見ていくことが主目的です。

 まず始めに、円香の救済についてです。
 円香の救済について、僕は前回の記事で①について「円香に何らかの方法で他者からの評価への対抗策を与える」という大変婉曲的な言い方をしました。そしてそれが可能な人間の候補として、「彼女」そしてプロデューサーを挙げたのでした。
 では結局のところ、円香は救済されたのか?
 結論から言えば彼女は救済されました。板挟みになった他者評価を回避し、彼女を停滞から救い出した方法は何だったのでしょうか。
 それは奇しくも円香が最も忌み嫌った、「第三者」への「信頼(では言い表せないくらいのクソデカ感情だと僕は思いますが、他に言葉がないので信頼、ということにしておきます)」ではなかったかと思います。
 果たしてその「第三者」は誰だったのか。僕は前回、二人の可能性を示唆しましたね。ですから正確には「どちら」だったのか。
 ……正直なところ、もうお分かりでしょう。前回、「信頼」という言葉を使いまくって説明をしたのは、無論「プロデューサー」の方でした。そうです、最終的に彼女を「救済」したのは、プロデューサーでした。まぁメタ的に考えればそうでないと「アイドルマスターシャイニーカラーズ」という作品の中で成立し得ないのでわかりきっていた結論ではあるのかもしれませんが。
 さりとて、「彼女」がなり得なかったかというとそうではありません。彼女がいなければ円香は不必要なことを番組で言うこともなく、プロデューサーの自己開示もなかったでしょう。さらに、そこから続いた一連の「未熟の肯定」という話もなかったのではないかと思います。
 一応結論を書けば、円香の救済は「プロデューサー」によって「信頼という寄る辺を得ることで」他者からの評価に耐えうる、ということになるでしょう。

 さて、「彼女」の話に行きましょう。
 「彼女」が正当な評価を与えられたい、と願ったのは円香との同質性を考えていく上でとても重要であると思います。しかし一方で、それは「誰に」評価されたかったのか今一度考える必要があります。
 これはあくまで妄想に過ぎませんが、前回の記事で言ったように
 円香→「彼女」とプロデューサー→円香
という構図が構造的に近しいのならば、自分との同質性がありなおかつ先ほど見たように、「凛々しくて、迷いがなくて、たくさんのことを知っていて、本当は少し嫌い」な円香に「憧れ」そして「理解してほしい」という感情を持つことは、さほど非論理的なことではないように僕は感じています。
 で、あるならば「彼女」が認められたかったのは、究極的には「樋口円香」ただ一人だったのかもしれません。
 それゆえ、円香が「彼女」を番組において否定したことは大きな衝撃をもって「彼女」に受け止められたはずです。
 そして、だからこそ最後のここはとても大事であることは火を見るよりも明らかでしょう。

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G.R.A.D編「願いは叶う」より

 ここで僕はタコ泣きしました。アニメ化せんかな、これ。
 もはや言うまでもないと思いますが、「彼女」の救済はここで完了します。先ほどの三つの問に答えるのならば、「円香」が「彼女を重いと肯定することによって」です。また「お互いに頑張る」というのは円香が「彼女」に哀れみを持たない同質性を見出した証左であると僕は感じます。
 と同時に、円香が他人を「重い」と称するには円香自身が「重い」存在でなければならないはずです。故に、この箇所は円香の「重さ」の証明にもなっているのではないか、と僕は思います。

 そうすると、二人の「願い」はこの救済が論拠になり得ますね。というのは、結局のところこの二人に救済には誰かによる新たな価値観のもとでの(言い方が悪いですが)肯定を必要としており、それは達成されました。その上で円香ならプロデューサー、「彼女」なら円香という寄る辺ができたことで、停滞からの脱却が可能となったというのは、ある程度妥当なものではないでしょうか。
 さてこの時、停滞から脱却し新たな一歩を踏み出す彼女たちは「軽い」のでしょうか。……そんなことはありませんね。先ほど見た通り、「彼女」の一歩は「とても重くて、力強い」。そしてこれは(後述しますが)円香も同様です。

 そうして二人の関係は決着をつけた……と僕は考えます。

〇樋口円香の現在地(G.R.A.D.編総括)

 ようやく円香の救済についても話終えたところで、そろそろ結びという名の「追伸」に入りたいと思います。いやぁ長かった。
 題名にも書いた通り、プロデューサーと名も無きアイドルの二人を通して救済された今、そもそも円香の現在地ってどこ?という話です。
 とりあえず時間軸的な話から、精神的な話へシフトしましょう。我々が知る限り、円香の存在している時空のなかで最新の公式供給はどこか?そこが現在地というのは妥当なところかな、と思います。つまりは「G.R.A.D.優勝後」です。

 ではG.R.A.D.優勝後、彼女はどうなっているでしょうか。

聞こえました?
最後のステップで、……思い切りステージを踏みつけた、音
えっ、あ……? それは見ていたけど音か……いや、音は……
あ、聞こえなかったなら結構です
すまん、音響も歓声もすごかったから……
はい、でしょうね
というか私の耳にも聞こえませんでしたし
え? そ、そうか……?
いや…… でもなんだかいつもよりダイナミックで……
……ダメでしたか?
いや、すごく良かった なんというか……
ゾウがドシーンって感じで……!
   G.R.A.D.編「決勝後コミュ  勝利」より

 ゾウ。……ゾウ?まぁゾウです。ゾウといえば、絶滅していない陸上生物の中では最重量の存在ですね。
 ここで大事になるのは、円香がそれを「プロデューサーに聞いたこと」にあるのではないかと思います。あの、他人の評価を極度に嫌った樋口円香が、よりにもよってプロデューサーに、「自分の評価」を聞くんですよ?奢られてからこっち、デレ過ぎでは。
 さらに重要なことは、「ゾウ」とプロデューサーが言ったことです。他の他者が軽やか、という中で唯一彼だけは円香を「重い」と評価する。そして、それはきっと「正当な評価」であるはずです。思い切りステージを踏みつけた、と自分で言っていますから、円香自身も「重い」という自己評価があるのでしょう。
 さて、先ほど見た通り、彼女はプロデューサーが信頼を得て、彼女の否定し続けてきた(透に届かないという)未熟さをそのまま肯定することでなんとか破滅を回避することができたように思います。
 そして、この一歩の「重み」を他者に伝えるであろう「音」が歓声(他者からの評価を伝える音)によってかき消される、というのもなんだか示唆的で良いですね。他人には伝わらなくても、それでも彼女は踏み出すことを決めた。そんな風にも読み取れます(深読みかもしれませんが)。それは、揺らぐことのない「寄る辺」が存在するからに違いありません。
 そして最後に、円香はこう言ってG.R.A.D編は終わります。

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G.R.A.D.編「願いは叶う」より

 魂が震えましたね。円香G.R.A.D.編のシナリオライターさんはノーベル文学賞確定です。
 「しかし」の後に、彼女はなんと続けるのでしょうね。方向性はわかるにしろ明確な答えは出ません。考えてみるのもまた一興なのではないでしょうか。

 そして彼女たちが揃ってエレベーターを出たことは、新たな一歩を踏み出したことを表現しているように思えます。
 それを可能としたのは、やはり円香とプロデューサーが「信頼」や「親愛」と言ったチンケな言葉では表すことのできない本当のクソデカ感情で結びついたからでしょう。よく体のいい解釈(いやまぁ僕のこれもそうなんですけどね)で円香→プロデューサーの感情を恋情と結びつけることがありますが、明確に間違っていると僕は考えます。
 仮に思慕なんていう簡単な感情で円香が救われるのなら、彼女はこれほどめんどくさくはないでしょう。

今まで、諦めるって 道から離れることだと思っていました。
もしくは、立ち止まるとか、 後ずさるとかそういう風に―――
でも……
…………
そうじゃなかったんですね
諦めるのは踏み出すこと始める時と同じように
 G.R.A.D.編「敗者復活後コミュ 勝利」より

 そしてもう一つ見ておきたいのは、この箇所です。これはかなり大事なところかと考えます。恐らく「名も無きアイドル」への言葉であるのではないかと思う(根拠はないです)のですが、もう一つ「円香自身の自戒」であるように見ることもできるはずです。
 彼女たちはこれまで固執してきた価値観、道を捨て(諦め)、「寄る辺」を得て新たな一歩を踏み出します。
 今、「名も無きアイドル」への言葉としてとらえた時、彼女が諦めたのは「アイドル」の道ということになるはずです。
  しかしながら、「彼女」は絶望なんかしていないでしょう。なぜなら「円香」という寄る辺があるからです。「彼女」はここから、また新しい道へと軽やかに、かつ重たい一歩を歩んでいくのではないか、と思います。
 では、これを円香の自戒と捉えるのならば、彼女は何を「諦めた」のか?彼女が諦めるとすれば、僕の考えの中ではただ一つです。ここまで読んでくださった皆さんならほぼわかると思いますが、円香が諦めたのは「天才(に近い存在)であること」でしょう。
 しかし、これを諦めることは「透と対等であること」を諦めることと同値にはなり得ません。諦めたのは「透との同質性」であることは間違いないですが、一方でこれまで見てきたように円香はプロデューサーといることで実力・才能に依拠しない、「信頼」という新たな価値観に身を置くこととなりました。そこから彼女は「透と対等である」ために新たな一歩を踏み出すのかもしれません。
 それ故に、彼女の現在地は「新たな価値観」のもとでようやくアイドルとして、軽やかに、しかし一方で重みのある第一歩を踏み出したその瞬間なのではないか、と考えられます。

〇お詫び

 思考実験としての樋口円香と七草にちかという題で本来はここで文章を書く予定でした。
 というのも、Twitterで円香とにちかは本気の混ぜるな危険だろ、みたいな話を見たので本当にそうかな?と思ってこの章を書こうとしたのですが、先日にちかW.I.N.G.編を終わらせてから「七草にちか」という少女の内面がわからなくなってきてしまいました。
 ですので、ここは一凍結させてください。あと字数がもう厳しい。マジで。すみません。
 にちかのG.R.A.D.編が出たときには必ず書きます。どうかお楽しみに。

〇おわりに‐円香の展望-

 やっと大きくて重たい一歩を踏み出した円香。今後どうなるかは、正直なところわかりません。今後の展開に期待。
 ……とか言ったら来ましたね、新章告知。Landing Point編ですって。着地点ってことなんでしょうか。

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海へ出るつもりじゃなかったしエンディング「うみを盗んだやつら」より

 ノクチル、着地以前にそもそもまだ帆走準備なんですが……。
 このあたりは正直、やってみないと分からないところです。
 しかしながら、このまま円香が認められるその時まで描いてくれたら僕は嬉しいことこの上ないです。描いてくれるんだよな?高山。信じてるぜ。
 というわけで楽しみにしてます。どこがエンディングになるのかはわかりませんが、まだまだP-SSRもS-SSRもたくさん出るのでしょう。そこで、新しい円香の側面だったり、彼女の行きつく先が見られることを願っています。

 以上が僕の樋口円香考察(?)でした。想定の10倍くらい長くなって自分でも驚いています。長くてほんとごめんなさい。
 これ、大学の卒業研究とかになりませんかね(ならんわ)。
 こうして自分の頭の中で渦巻いていた円香への想いをまとめられて良かったです。すっきりしました。今後のコミュ次第でいろいろ変わるのかもしれませんが(笑)。その時はまたリライトしたいと思います。
 ひとまず、最後まで僕の独りよがりにお付き合いいただき本当にありがとうございました。

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