見出し画像

拝啓、樋口円香様②


この前初めて出ました。やったぜ。
 どうも。つむじです。これを呑気に書いていたら、課題が大量に発生してて死んでました。なんなら今も今日提出の課題と締め切りバトルしてます。ひぃん……。
 ……出すの遅れてすいません。めっちゃ。というわけで、前回に続いて、僕の恣意的解釈を正当化するべく駄文をを書いていこうかと思います。
前回↓

〈注記〉
 前回に同様、この記事は円香の「人格」を多くの面から統括的に議論するにあたって、彼女のW.I.N.G.編、G.R.A.D.編、プロデュース/サポートアイドルのコミュ、ノクチルのファン感謝祭、イベントコミュ(「天塵」、「海へ出るつもりじゃなかったし」)を横断するため、これらの引用が多数存在します。ご注意ください。よろしくお願いいたします。

 まずは、前回のおさらいといきましょう。
 円香は能力とは裏腹に、自分に対する評価が低い人間です。

はは、まだ時間はある 本番までに磨いていこう
ファンの人たちに向けて、ちゃんと、感謝の気持ちを伝えられるように
……
その気持ちにどれだけの価値があるのか、わかりませんが
ん……
……まぁ、ステージの価値を高めているのは、現状、どう考えてもスタッフさんですので
……だから、やりますよ
少しはまともな飾りになれるように
    ファン感謝祭編「リハーサル後」より

 また、それゆえに自分を高く評価する他者に不信感を抱き、かつそれを嫌うのでしたね。

何かが形になって、ようやく誰かに届くんだとしたら
今日は届くよ、きっと
……そうですね、きっと
受け取り側が解釈する形で

一方的に照らされて 一方的に視線を受ける……
ここは本当にアンフェアな場所
ステージから見えるのは、今日、その人が客席にいるという事実だけ
    ファン感謝祭編「感謝祭本番前」より

 前回触れられなかった(正確には読み直してみたら、ここもだな……と思った)箇所に言及してみました。掘ればもっと出てきそうですね。
 また、それの原因となっているのは「浅倉透」という才能を前にしたことによる虚無感である可能性があり、透と基本的に仲のいい円香はこのままだと破滅してしまうかもしれない、という自説を擁護するために前回はクソ長い文章を書いたのでした。
 前回書き忘れてしまったのですが、円香はほんの一瞬、W.I.N.G.編でも救済の糸口をつかみかけています。

……冷静に考えてみると
私がアイドルって本当に意味不明
熱意があればいいわけでも、技術があればいいわけでもない
勝ちあがったところで 将来の保証があるわけでもない
なんでそんなものに挑んでいたんだか
ふふっ……
でも、冷静になるまで気付かなかったってことは
つまり……ねぇ、どういうことだと思います?
…………
再出発だ
……本当に学ばない人ですね
円香!もう一度、俺と一緒に
……………………
はい
          W.I.N.G.編「風穴」より

 という様に、円香は(負けた世界線なら、ですが)アイドルにそれなりに重きを置こうとしている姿が見受けられますね。
 では、なぜ彼女がこのような思考に至れたのか?それを考えることが今回の究極目的です。
 というわけで、本題にいきましょう。前回の最後で僕が呈した問いは、
①そもそも円香における「救済」とは何なのか
②それはどのような救済なのか
③円香を救済するならば、それはどのような存在になるのか
というものでした。
 なので、それを紐解くところがスタート地点ということになります。

〇樋口円香の救済

〈注記〉
 前回から、僕の語彙力不足で「救済」という言葉を用いていますが、この言葉は若干違うな……と思いながら書いています。以降違和感を覚えることが多々あると思いますが、ご了承ください。すみません。 

 そもそも樋口円香の救済ってなに。まずはそこからです。
 円香のめんどくささというのが「どこにも行けないこと(超意訳)」であるということを説明しました。そして、どこにも行けないということがやがて彼女を破滅に導いてしまうのではないか、という結論に至りましたね。
 それでは、「樋口円香の救済」とは何か?最も簡潔に言うならば、「破滅を回避すること」でしょう。
 「破滅」というのは、前回述べましたよね。他者からの評価が正しくなることで自分の持ってきた寄る辺を失ってしまうことです。ここから逃げ出すことが彼女一人では不可能であるのが、円香がマジでめんどくさい女たる所以でした。
 つまり、「円香を救済する(=破滅を回避する)」というのは「樋口円香に何らかの方法で他者からの評価への対抗策を与える」ということになるはずです。これでは婉曲的すぎるのですが、それが「どのような救済なのか」を単純明快に説明する言葉を、残念なことに僕は持っていません。
 ですから、ここからまたクソ長い文字数を積んでそれを説明していければな、と思います。

 しかしその前に、円香を「救済」することができる存在というのはある程度絞ることができると僕は考えます。
 その条件とは、まず第一に円香に劣等感を抱かせず、円香に過度な期待を寄せない(=円香とある程度対等)こと。これは前回の文章から明白でしょう。彼女の上にいても下にいても、それは結果的に彼女を苦しめることになってしまいます。
 そして第二に、ある程度の信頼関係がある、つまりそれなりに円香と親密かつ彼女のことをそれなりに理解している人物であることです。これも当たり前と言えば当たり前でしょう。彼女が「自分のことを不理解な他者」の言葉に耳を傾けるのならば、このnoteはそもそも無意味ですね。
 以上二点を満たすことが最低限必要ではないかと思われます。

 さて、そう考えたときに我々がすべきことは、第二の条件に当てはまる人物から、第一の条件に当てはまる人物を探すことではないでしょうか。というのは、第一の条件は一見してわかるようなものではないからです。第二の条件の方がわりあい見つけやすいはずですね。
 というわけで、円香とそれなりに信頼関係がある人物は誰がいるでしょう。
 ノクチルの面々(透、小糸、雛菜)は入りますね。他にはプロデューサーも、もちろん入ります。そして最後に入れておきたいのは、【ギンコ・ビローバ】に始まりG.R.A.D.編でも円香に大いに影響を与える、「例の彼女」です。チェインで連絡をとっている、というのは結構信頼していそうです。
 もちろん他にも両親は入るに違いありませんし、クラスメイトにもいるのかもしれませんが、少なくとも我々の認知できる限りではこれで全員だという前提で話を進めます。

 それでは、このうち円香とある程度対等であれるのは誰なのか。とりあえず、ノクチルのメンバーを考えてみましょう。
 まず透は言わずもがな無理ですね。それができたら苦労しねえ。
 次に雛菜ですが、これは正直なところ未知数です。もしかしたらある程度は対等なのかもしれません。しかしそれよりも先に、雛菜にとって円香の内面的な問題は、直接的には「雛菜の幸せ」には関係ないので我関せずとなりそうなイメージがあります。
 というわけなので、とりあえず保留ということにしておきます。誰か答えを持っていたら教えて欲しいです。
 最後に小糸なのですが、W.I.N.G.編におけるセリフ(中身はネタバレになるので割愛します)などから、彼女は円香(延いては自分以外のノクチルメンバー)に少なからず劣等感を抱いている節があります。先述の通り、円香と「対等」でないかぎり円香の救済というのは難しい、というのが僕の考えなので、小糸には難しいのかな、と考えています。
 ……となると、もうお分かりですよね。僕が今回可能性を見出しているのは「名も無きアイドル」と「プロデューサー」の二人、ということになります。
 深読みをすれば、G.R.A.D.編でこの三人がエレベーターという密閉空間にいることが示唆的と言えばそうかもしれませんね。まずはこの二人が条件に一致するか、という観点から見ていきます。

1.可能性としての「名も無きアイドル」

〈大事な注記!〉
 この章以降、名無しの女性が多々出てくるため、その人のことを名も無きアイドル、または「彼女」と呼びます。読みにくいとは思いますが、ご容赦ください。

 「彼女」を抜きにして円香のことを語るのはいささか無理があります。
 それくらい、例の名も無きアイドルは大きな影響を円香に与えていると僕は考えます。そんな重要なキャラの初登場が限定SSRなのマジでなんなんだ。円香Pが試されてるってことなんでしょうか。
 というわけで、「彼女」のことをまずは見ていきましょう。

(『願いは叶う』『願い続けることが大事』……)

―――本当に迷惑かけてしまってすみません…… 私、頑張れそうです
素の自分で勝負しようと思います ありがとうございました……いってきます!

別に、私は優しくないので
願いは叶わない、適当に生きるのが楽……
そう教えてあげなかっただけです
……そうか
……
……無理だと思いますよ、あの子は
ん……?
言いたいんでしょ 願いは叶うこともあるって
      【ギンコ・ビローバ】「偽」より

 これが(我々の観測できる)「彼女」と円香の最初の接触ですね。もちろん初対面の人に厳しいのは非常識だからというのはあるのだとは思いますが。

画像1

【カラカラカラ】「エンジン」より

 まず、この箇所で個人的に面白いのは、円香の言葉が自分の理想を「彼女」に仮託しているように聞こえる、という点にあります。
 つまり、円香自身が怖くてできない「(素の)自分を他者に評価してもらうこと」そして、「願いが叶うまで願い続けること」を目指す方向に「彼女」を誘導しているように見受けられます(まぁ、それで「無理だと思う」と切り捨ててしまうことは少々残酷ではあると思うのですが)。
 そして、ここから円香と「彼女」は方向性よく似ていることがわかります。円香は「透」という届かない存在を追うことがやめられず、(円香から見れば)「彼女」は「(一定の評価を得られる)アイドル」という(結果を見れば)届かない存在を追っている、というのは構造的には大分近しいと言えるでしょう。
 ここに、僕は円香との「同質性」を見ることができる、と僕は捉えます。ゆえに、「彼女」は救済の可能性があるはずです。
 しかしながら、ここで大事なことは円香が「彼女」に言っていることは必ずしも「本当に言いたいこと」ではない、ということです。言い換えれば、「彼女」になんとなくの同質性を感じていながら、それでも円香は取り繕って接しているように僕は感じます。

 さて、そんな「彼女」ですが、なんとびっくりG.R.A.D.編で再登場しますね。しかも、割と物語の中心を担っていると言っても過言ではありません。

G.R.A.D.編「脈を打て」より

 めちゃくちゃ【ギンコ・ビローバ】ですね……。ということで、これは確信犯でいいでしょう。
 ここで付記しておきたいことは、「どこまでが「彼女」の言葉なのか」ということです。「脈を打て」における背景がライムグリーン(?)の台詞は、全て「彼女」が言っていると考えるべきなのではないでしょうか。とすると、我々が注目すべき箇所がいくつか増えるように思えます。

G.R.A.D.編「脈を打て」より

 前者がその直後に言及される、「彼女」の「G.R.A.D.」のPR動画であることはG.R.A.D編「敗者復活前コミュ」で語られます。
 後者については次のコミュ「空は晴れている」のおいて同様の台詞を別人(営業の人)が言うため、正直なところ「彼女」が言ったのかどうかわからないところではありますが、「脈を打て」で、それまでの台詞を全て言っていたとすると、最後だけそうでないのは少し妙でもあります。なので、一応「「彼女」が言った」ということにしておきましょう。
 さらにこんなことも言いますね。

G.R.A.D.編「脈を打て」より

 これらのところで見ておきたいことは、「彼女」が「いつか来る終わり」は自分で決めるべきなのだ、と主張していることにあります。なぜなら、前回記事に示した通り、円香は「明日ではない未来に来る破滅」を恐れ、停滞に甘んじているからです。自分と精神構造が似ている相手の行きついた場所がそこ、というのは円香にとって恐ろしい話でしょう。

『何もしなくても時計の針は回る』―――
―――例のあの子のPR動画か
はい
……何もしなくても回るなら、なんでわざわざ回すんでしょうね
なんだろう、衝動みたいなものかな
衝動……
   G.R.A.D編「敗者復活前コミュ」より

 このようにそれとなく似ている二人だったのですが、G.R.A.D.編ではその後大事件が発生しますね。

『ほんっと私って何やってもダメで!』
『その私の起死回生の策がこれ!』
『無能系アイドル!』
『ははは……! アイドルとしてそれはダメでしょ!』『いやインパクトはあるけど!』『あはは……!』
『いやもうそのインパクトが大切なんですって!』
『あれ……あれ? どうしました、樋口さーん?』
『なんか真顔? 怒ってます?』『アハハ、どうしちゃったのかな~』
『……』
『……無理です、笑えない』
『他の人にも笑って欲しくない』
『あなたは、あなたのままで、間違っていない』
      G.R.A.D.編「無機質な廊下」より

 というわけで、円香は彼女が自分を変な風に取り繕うことを是とせず、(よりにもよって)本番中に不必要なことを言ってしまいます。
 しかし番組としては明らかに不必要であった一方、これが円香の「本当に言いたかったこと」なのではないか、と僕には思われます。要するに、円香はここで始めて「彼女」に対して取り繕うことをやめた、とも言えます。

ここでたくさんの人が落ちると思いますが
10年後、20年後…… 何人が『あの頃は無謀な夢を見た』と言うのでしょうね
必死に針を回したのに、そんな過去の自分を笑って
きっと乗り越えた顔をする
   G.R.A.D編「敗者復活前コミュ」より

 さらに番組の後、二人の会話は続きます。

樋口さんと共演したいと思っていたから、今日はとても嬉しかった
だけど……
どうして私を、台本通りに笑ってくれなかったんですか?
…………

ごめんなさい
い、いえ、樋口さんに悪気がないことはわかってて……
だけど……なんて言ったらいいのかな……
…………
もしかしてなんですが、樋口さんはずっと私のことを―――
哀れんでいました?

『はい』
      G.R.A.D.編「無機質な廊下」より

 ……はい。恐ろしいコミュです。
 ここの『はい』は文脈から考えて、本来ならプロデューサーとの連絡中の返信なのでしょう。とはいえ、流石にそれ以外の意味を持たないでここに『はい』という返事を入れるのは悪意がありすぎます。
 この『はい』には、直前の「彼女」の質問に対する答えも含意されていると考えた方が自然なように思えます。
 しかしながら、円香は本当に「彼女」だけを憐れんでいたのでしょうか。もちろん、「彼女」のこと「も」憐れんでいたのでしょうが、本当に憐れんでいたのは「彼女」を通して見ていた円香自身だったのではないか、と自分には思えます。
 また、ここでの彼女の拒絶というのは、転じて円香の本心が拒絶されたことにもなるのではないでしょうか。それは円香の「あなたはあなたのままで間違っていない」という言葉が、心からの言葉であったように僕には思えるからです。
 さて、このようにして仲違いのような形になってしまった二人はどうなるのか、それはこれから書くプロデューサーと円香の対話と密接不可分です。なので、一旦プロデューサーの話に移りましょう。

2.可能性としてのプロデューサー

 樋口円香の話をする上で、この男も欠くことはできないでしょう。
 僕はこれまでのアイドルマスターにあまり詳しくないのですが、アイマスのPといえば艦これの提督、最近ではウマ娘のトレーナーと共に顔面の全てを捨象され、PとTとトになるどころか職業が名前になってしまう、という実存主義文学も裸足で逃げ出すレベルの理不尽な仕打ちを受けているイメージです(違ったらすいません)。
 それに比べるとシャニマスのPは、まぁよくしゃべります。なんなら顔面がPでないことやなかなか高身長であることも、P-SSRの演出で分かったりします。ギンコ・ビローバにも足元が映っていますよね。

画像2

市川雛菜P-SSR【HAPPY-!NG】演出より

 雛菜が165なの考えると多少遠近法とか入れても180くらいあるくないですか?しかもW.I.N.G.とかG.R.A.D.で自分がプロデュースしたアイドルを優勝に導くくらいだし結構優秀です。これが3Kってやつか。
 それくらい、他のソシャゲと比較してこのシャニマスというゲームの中での「プロデューサー」という人物の人格は、解像度が高いです。
 そして、だからこそプロデューサーの人格というのはアイドルに深く関わってくることになります。ですので、彼の人格というものを考えていきながら円香との関係性を見ていくのが妥当でしょう。

  その前に前提として、僕はプロデューサーの言葉(というかカッコで書かれているような心中描写)を疑っていないことを一応付記しておきます。彼の一人語りを疑ってしまうと、そもそも信じられるものが消滅して無限後退に陥ってしまうからです。我思う、ゆえに我ありということです。
 渡された文献を懐疑をし続けるのは、研究ならまだしもこの手の解釈・考察では流石に無意味でしょう。デカルトも泣きます。

 さてさて、そんなプロデューサーですが、特に円香との会話ではびっくりするくらい自己開示が多いです。お前人格あったんやな……と思ってしまうくらい。具体的には、みんな大好き例のあのコミュです。
 ……というわけで皆さんお待ちかね、【ギンコ・ビローバ】のお話です。待ってなかったらゴメン。
 他の話も全然しますが、やはり【ギンコ・ビローバ】抜きに円香とプロデューサーの話はできないと断言できます。それはプロデューサーの内面、つまり「誰かに対してのプロデューサーとしての姿勢」ではなく、「彼自身の考えていること」があらわれているからです。

あなたは欠点も愛嬌に変えて、結果『いい人』『すごい人』にしか見せないですよね
本当に、信用ならない
ん…………
はは、その評価は少しだけ嬉しいけど…… かいかぶりすぎなんじゃないかな
身の丈に合わないところまで精一杯…… 『プロデューサー』でありたいって努めているだけだよ
……
立派な肩書きをもらっても……形だけだから、結局、何をするかでしか語れないんだ

―――だから、俺は頑張るしかないんだよ
スーツを脱いだら、そんなにできた人間じゃないからさ
      【ギンコ・ビローバ】「銀」より

 かつてこれほどまでに人格を持ったソシャゲ主人公がいただろうか。いやない(断言)。 
 ここからわかることは結構大事です。それは(円香から見て、そして実際に)プロデューサーは「自分を偽って」生きている、ということです。
 ……どっかで聞いた文言ですね。このプロデューサー、もしかして自分を取り繕って他人から誤った評価を受けてる???
 受けてますね。例えばついさっき、僕自身も彼に対して「これが3Kか」などと宣いました。ごめんな。
 さらに、これは【ギンコ・ビローバ】に限らず、本人の自己評価からも垣間見えます。

【カラカラカラ】「掴もうとして」より

 このように自己評価と他者評価の乖離するプロデューサーも、円香との「同質性」が感じられます。よって彼も救済できる可能性があるわけです。
 さて、これに対して円香はどう思ったのでしょう。

【ギンコ・ビローバ】「銀」より

 ……恐怖体験ですね。
 まぁ怖いのはさておき。これを見るに、円香はプロデューサーが内面を見せないことに不服なようですね。「信用ならない」と言っていますし。本当のお前を曝け出して(=スーツをぐちゃぐちゃに引き裂いて)私と対話しろ、そう言っているわけです。

へえ! そいつはすごい、驚いた…… 円香は才能があるんだなあ……
安っぽい言葉 そういうの、嫌いです
私の心を開こうとしているのが見え透くので

はは……
そうやってすぐ笑う 余裕ぶって
そういうつもりじゃ……
……いや、でも余裕は欲しいかな
円香と対等に話したいと思っているからさ
    【カラカラカラ】「手すりの錆」より

 とまぁ、円香は余裕ぶって自分をうまく取り繕うプロデューサーを信頼しません。この時点では「信用ならない他者」に過ぎないのでしょう。
 そして、G.R.A.D.編にも自己開示があったことを忘れてはいけません。

283さんってまだお若いですよね? ああいえ―――とてもしっかりしていらっしゃるなあと
いつもすぐに連絡くださいますし、さまざまなご提案もいただけるので助かってます
(そりゃ……だって、そうでないと……)

(今回の宣材写真も本当によく撮れている)
(俺がこれに見合う働きができなくてどうする―――)

(円香はさまざまな才能に恵まれている)
(そして聡い。いつも物事の奥を見ようとする)
(だから気を抜かずにしっかりしないと)
(安心して頼ってもらえるように―――)
      G.R.A.D.編「息遣いを聞く」より

 ここも少し面白いですね。さっきの円香の「素を見せろ」とは真逆の考えであることがよくわかります。
 ところでこの後のシーン、冒頭で電気ついてないことがめちゃくちゃ大事だと思うんですよね。円香は敢えてそこに入り込むことで、電気のついていない事務所(=プロデューサーではない状態)において、「スーツを脱いだ状態」の、プロデューサーに接近したいのだと僕は思っています。流石に深読みかもしれませんが。
 G.R.A.D.編にはまだまだあります。

え?!断る……ってことですか? 絶対に売れる番組なんですけどぉ……
申し訳ございません せっかく声をかけてくださったのに……
……いやまぁ、いいならいいんですよ 他の事務所を当たりますから
でもチャンスを選んでいる場合じゃないと思いますけどね アイドルに深入りするのも結構ですがビジネスなんですから
……精進いたします
いえいえ 今回は残念ですがそのうちまたお願いしますね
まぁ老婆心で一言添えるなら…… 青臭いと言われないようにご注意を
ハハハ……それではまた!
…………
(溜息はつくな……大丈夫だ)
(売れることがすべてじゃない……これで間違っていない)
      G.R.A.D.編「無機質な廊下」より

 僕はここがものすごく重要だと考えています。
 というのは、円香→名も無きアイドルの構造がプロデューサー→円香と同じであることが垣間見えるからです。
 つまり、円香は自分を偽ろうとした(誤った評価を他人にさせる)「彼女」を止めるし、プロデューサーは(強い言葉を使えば)誤った円香の印象(=評価)を他人に促しかねない番組を断る。これは構造的に同じであるように思います。
 さらに、円香は普段プロデューサーが彼女にしているように、「彼女」に対して(番組の前までは)自分の本心を曝け出そうとはしていませんでした。
 であるならば、ここで少し面白いことが見えてきますね。
 『円香→「彼女」』⇔『プロデューサー→円香』
 という式が成り立つとき、プロデューサーが円香にかける言葉が円香の納得するものでであるなら、それは円香と同質性のある「彼女」にかけるべき言葉でもあるのではないか、そしてそれはプロデューサー、さらには円香、そして「彼女」といった「自分を偽っている人間」の心の叫びである、と捉えることができるのではないかと僕は考えています。

今から言うことは俺の独り言だと思って、聞き流してもらえたら
…………
どれだけの価値があるだろう
利口になることに
そのせいで見えなくなってしまうものだってある
……それは、未熟を肯定する言い訳
はは、そうかもしれないな。でも……
寂しさ、苦しさ、もどかしさ…… そういうのも全部、未熟ゆえのほころびなんだろうか
……俺は、今の円香が感じたことを否定したくない
…………
詭弁
    G.R.A.D.編「椅子の背もたれに」より

 震えますね。いいこと言うじゃんプロデューサー。
 先ほどの持論を用いるならば、このプロデューサーの述べた言葉は、円香を納得させたものであり、かつ「彼女」に円香がかけるべき言葉にもなり得ます。
 そして、その後の会話はどうだったでしょうか。

G.R.A.D.編「椅子の背もたれに」より

 まさかプロデューサーとしての言葉を、彼が聞き流してくれとは言わないでしょう。ですから、先ほどの一連の流れは「あなた自身」の言葉であることがわかります。
 ……そうですね。その通りです。「彼自身の言葉」というのはすなわちスーツを脱いだ、「素の姿」であり、円香がプロデューサーに対して望み続けてきた姿勢なわけです。
 もちろん、プロデューサーがそういった円香の心を察して「自分の内面」を見せたかどうかはわかりません。なんなら、恐らくそんなことは考えずにいたでしょう。しかしながら、彼が意図的かどうかは大して問題にはなりません。「内面を見せた」という行為が肝要です。
 円香は当初、プロデューサーを大多数の他人と同じような、自分を正しく評価しない「他者」であるという風に捉えているように僕は感じられます。しかしながらこのように長い時間をかけ、互いの「内面」にほんの少しだけ触れてみることによって、ようやく彼は円香に信頼される第一歩を勝ち取ったのではないでしょうか。

 彼一方で(彼女)らの相互信頼、というものはプロデューサー→円香への信頼は言わずもがなですが、円香→プロデューサーの構図は変遷が若干わかりにくいようにも思います。
 この信頼の変化をより分かりやすく、かつ示唆的に表しているのが、「円香がプロデューサーからの施し(言い方が悪い!)を受けるかどうか」というところなのではないかと僕は考えます。

ちょっとコンビニ行ってくるよ
円香の欲しい物とかあったら ついでに買―――
無いです
(即答だ……)
飲み物とか
あるので大丈夫です
お構いなく
          共通「Morning③」より
はあ、今日の打ち合わせは長引いたなあ
腹減らないか、どこかで何か食べて―――
経費の無駄遣い
いやいや、ここはお疲れさまってことで俺が―――
結構です やっとあなたと離れられるのになんでわざわざ?
お気持ちだけありがたく ……お疲れ様です
   【カラカラカラ】「掴もうとして」より
いくらでしたか 800円くらい?
ああ、気にしないでくれ これは差し入れだからさ
ありがとうございます でも、余計な気遣い無しで
気持ちとして
取引として
うぐ……
……もうどっちでもいいですけど 手間の分も上乗せで払いますので
わかった、受け取る でも手間賃は無しだ
……強情 じゃあ、それで
交渉成立……! すまん、ありがとうな
…… あなたが謝る理由もありませんが
気持ちを押し付けられても、私は返す気がないので
なるべく受け取りたくない それだけです
なるほど…… 受け取る理由があったら違うのか?
……まぁ、場合により
     ファン感謝祭編「然るに受信」より
……ふうん
それなら申し訳ありません しっかりと聞いてしまいました
え? そうか…… それは困ったな
……じゃあ、ここの食事代は俺持ちで、口止め料ということにさせてもらおうか
…………
……でしたら
ホットのレモンティーを追加で
    G.R.A.D.編「椅子の背もたれに」より

 他人からの施し、というのは善意に他ならず(事務所の経費なのでしょうが、それでも善意であると僕は思います)、円香が評価されているということに繋がり得ます。つまり、信頼を勝ち得ていない時点のプロデューサーは受け入れてもらえず、逆に最後の最後で彼女は「ホットのレモンティーを追加で」という(だいぶ捻くれた)返答で施しを受け入れることになります。
 そしてそれは、彼女なりの信頼の証とも言える……と僕は思います。
 完全に余談ですが、これを考えればコーヒーというのは実はいろいろな比喩なのかもですね。透と雛菜のコミュに関しては割愛しますが、少なくとも円香とプロデューサーの間柄において、コーヒーはプロデューサーの内面、レモンティーは円香の内面の比喩なのかもしれません。まぁ、根拠のない深読みですが。

お詫びという名の次回予告

 ……とここまで書いておいてなんですが、この時点で前回の字数を越えてしまいました。なので、読みやすさを考慮して追伸を二つに分けようと思います。ほんとすいません。よろしければ最後までお付き合いください。
 後編↓

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?