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厳しい冬を乗り越えて(東京都写真美術館にて)

星野道夫さん、というと私が思い出すのが現代国語の教科書だ。内容はあまり覚えていないが、当時私が読んでいた国語の教科書に星野道夫さんの文章が掲載されていた。教科書のプロフィールに記載されていた、彼が数多くの動物や自然の写真を撮っていたこと、そして取材中にヒグマに襲われ、急逝されたことを覚えている。

当時の私にとっては、国語の教科書は癒しだった。幼い頃からたくさん本を読んできたからか、国語は得意でどんな授業よりも好きだった。こっそり勝手に教科書を読み進めたり、続きが気になって本を買いたいな、などと思っていた。

あれからもう何年だろうか。時は流れて、私は初めて星野道夫さんの写真を見ることになる。

偶然、Twitterで見かけたこの展示がとても良さそうで、ちょうど会う約束をしていた友人を誘って行くことにした。

今でこそ定期的に友人と美術館に行くことができているし、お互いの好みを把握しているので、誘いやすいのだけれど、学生の頃はあまり趣味の合う友人が周りにおらず、よく一人で美術館に行っていた。

一人で行く美術館も楽しいのだけれど、やっぱり誰かと感動を共有できるは幸せだと思う。いつも付き合ってくれる友人たちには本当に感謝。

今回の展示は、恵比寿の東京都写真美術館にて。

私はあまり写真に詳しくない(見るのは好き)のだけれど、写真の美術館ってあまり聞いたことがないな、と思っていたらやはり日本で初めての写真と映像に関する総合的な美術館とのこと。

たしかこの美術館のことを教えてくれたのは、前職の同僚だった。恵比寿に良い美術館があるよ、と。その同僚は、色んな知識がバランスよくある人で、アートや映画が大好きな私はよくおすすめの映画や美術館を教えてもらっていた。

それももうかなり前のことなのだけれど、ようやく足を運ぶことができて嬉しかった。

星野道夫展で一番印象に残った写真は、やはり会場入り口に大きくパネル展示がされている「ホッキョックグマ」だろうか。

星野道夫さんが撮る動物の写真の中には、かなりの至近距離からの撮影(に見える)ものがあり、これもその一つである。それなのに、動物たちの表情はとてもリラックスしていて、「動物もこんな表情を見せるんだ」と驚きを隠せなかった。

このホッキョックグマもとてもリラックスしていて、美しい表情をしている。

他にもじゃれあうホッキョックグマたちの様子など、なかなか見ることのできない貴重な瞬間を撮影したものを見ることができる。

星野道夫さんの経歴で一番驚いたのは、19歳のときに古書店で見つけた海外の写真集に載っていたエスキモーの村の航空写真に魅せられ、住所も分からない村の村長あてに手紙を書き、実際にその村でひと夏を過ごしたということである。この村での経験をきっかけに写真家の道を選んだんだそう。

人生の選択はいつ、どこにあるか分からないものだな、と思う。

もし、星野道夫さんがこの日この書店に行っていなかったら、この写真集を手に取っていなかったら、もしこの手紙を書いていなかったら、違う未来になっていたかもしれない。

日々、人がどれくらいの選択をしているかというと、とある研究によれば1日に最大で3万5000回もの選択をしているらしい。

勇気を出して、自信をもって人生の選択をできる人間になりたいと思う。

星野道夫さんは、動物の写真のイメージが強かったのだけれど、風景や植物などの写真もとても魅力的だった。

アラスカはなんと1年の半分が冬で、氷点下50度にもなるという。そんな過酷な季節にも関わらず、星野道夫さんは冬が一番好きな季節なんだそう。ワイルドストロベリーの葉に霜が降りた写真は、星野道夫さんの繊細で豊かな感受性が伝わってくる作品で、とても美しかった。

私は、この1,2月の寒さが厳しくなる頃がとても苦手だったのだけれど、たしかに星野道夫さんの言う通り、厳しい寒さがあるからこそ、春がとても嬉しく、とてもドラマチックに感じることができるよなぁと思う。

先日、ふと木々を見上げたら少しずつ、梅の花が咲いており、少しずつ春の訪れを噛みしめた。

これから冬の寒さに身を震わせるたびに、星野道夫さんの写真を見たことを思い出すだろう。

星野道夫展は、1月22日まで東京都写真美術館にて開催中。

※写真は全て筆者撮影



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