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紡ちひろ
2024年5月17日 16:24
男は夜の森を彷徨っていた。 月明かりの中、空まで届くような杉の木の間を這うように進む。ぬかるんだ地面は男の足どりを重くさせた。いつのまにか辺りは霧に包まれ、男は途方に暮れた。 はたと、霧の奥のオレンジ色の灯りに気付く。そこには、一軒の古い小屋が建っていた。黒い瓦屋根で立派な門構えだ。竹林が小屋の裏の敷地を囲み隠している。小屋の裏からは濃い霧が立ち上っていた。 霧じゃない。湯気だ。 男