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「お前さまの骨が好きじゃ」
何かの作品で見たとても艶っぽい言葉です。
骨まで愛して、とかどこかで聞いたことがありますね。
深い愛を感じさせる、そしてなんとなく手羽先を思わせる言葉です。

「ママにプレゼントだよ」
ある時息子が私に一つの小さな白い石を手渡しました。
石なんて拾ってくると幽霊が付いてくるとか、恐ろしげな話があります。
やだ、私怪談は苦手です。
これはどこで拾ってきた石なのでしょう?
「公園の、水の近くで拾ってきたの」
ん?これはグレーゾーンだな。
川なら一発アウト。明日には寺にでも行ってお祓いかと思っていました。なんならすぐにでも駆け込みたいです。
24h駆け込み寺はありますか?除霊とかの。

だけど水の近くということは川ではないし、噴水のあたりのことでしょうか。
しかし水の近くなので川と同じような効果があったり…?

内心怖くて怖くて今すぐ夫を呼んで腹の辺りに逃げ込みたい気分でいましたけど、
あいにくまだ仕事中なのでそういう時の夫に不用意にタックルすれば1週間散歩に連れて行ってもらえていない大きい犬かのようにギャンギャンと言われるでしょう。
昔近所にいましたそういう子。
散歩は大事だよ。

一旦深呼吸して石をもう一度よく見てみます。
乱視で夕方になると余計よく見えないのですけど。
白い。少し汚れてはいるけど白い。
こういうのです。こういうのなんですよ。
怪談で出てくる石ってのは。
先生、もう少し言ってやってくださいよ。
葉っぱやどんぐりは持って帰っていいけど石はダメだって。
石から始まる怖い話は多いんですよ。
しかもほん怖によると石系のおばけはタチが悪いんですよ。

「あれ」
形をよくよく見るとなんだか見覚えがあります。
あの車通りのまぁまぁある駅の近くのあの道。
あの道の中程に建っている見慣れたとある医院の看板の形によく似ています。
「これ、歯じゃない?」

それは小さな歯、おそらく乳歯でした。
「ええー!歯ー?ほんとうだ!歯だ!!」
おそらく噴水あたりでまた一つ大人への道のりを歩み始めた子がいたのでしょう。
可愛らしいものです。

しかしもうこの時点で私の頭の中はほん怖です。
もはや風が吹いても箸が転げてもなんらかの呪いと捉えるほど追い詰められています。
「キャー!歯!歯!歯だよううう」
「きゃ、きゃー!歯!?歯ァアアア!?」
怯えてパニックなる私と共に、なんだかわからないけれどつられてパニックになった息子が阿波踊りのような動きで騒ぎ立てます。

「君だけは、君だけは守るからね」
「ママー!ぼくもママを守ってあげるからね」
もう、ダメです。
この後訳のわからない恐ろしいものが来てすごいことに。

シクシク泣きながら抱き合っている私たちを尻目に、
あまりの騒がしさに一旦仕事の休憩に入った夫は一部始終を啜り泣く私たちから聞くと
その歯を無造作にゴミ箱に捨てようとしました。
が、
パニックになった私がこの世の終わりかというほど泣き、
「家族がどうなってもいいのか」とか「足の裏にビッタリ張り付いてきたらどうする」「黒い何かが」などと意味不明なことを喚くために
「煙草買ってくる」と一言告げると
その歯を持ちコンビニへと旅立っていきました。
「途中で捨ててきた。本当になんなんだ。歯くらいあるだろうよ」

それからしばらくの間私は「今部屋の前とかにいたら」「猛スピードで襲ってきたら」などと怯えていましたが、
その歯は2度と帰ってくることはなく今も平和に過ごしています。
あのひと時はなんだったのでしょう。
夜中にほん怖をぶっ続けで読むのはやはり良くないですね。
あれから禁止されています。

そうそう、歯も骨ですよね。
歯まで愛して、だとなんだか歯磨き週間なんかのポスターにありそうで色気はないのですが、
歯は80歳まで24本死守したいですね。

◯この話はバリッバリのフィクションです。虫はそこそこ拾ってきます。

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