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雑・ブラックスワン

映画『ブラック・スワン』についての私の感想です。
公開はもう随分前になりますね。大好きな映画です。

Tone.さんが触れていたので思い出しまた鑑賞しました。倍速で。便利な時代だ。
【一行詩】ブラックスワン

◯以下はつむの素直な感想であり考察でもなんでもありません。

この映画、描写がすごく良いんですよね。
キャラクター設定がまた素晴らしい。

脆弱で繊細、努力家な清純で堅いニナ。
白鳥ですね。
ニナとは正反対の不真面目で奔放で柔軟なリリー。
黒鳥です。

ニナが白鳥のように清純であるのは母親の過保護によるものです。
母は娘を深く愛していますが自分の夢を子供のために諦めざるを得なかったと思っており、
ニナはそれに反発を持ちながらも罪悪感を感じているので従ってしまうという母子癒着。
友達と遊ぶことも彼氏を作ることも制限されてきたニナは欲望を押さえ込む臆病でお堅い良い子なので、
清純な白鳥オデットはピッタリだけど真逆の魔性の黒鳥オディールを踊ることが難しい。
高難易度の振り付けな上に誘惑的で威圧的な様子を表現しなければいけない。
プレッシャーによって背中を引っ掻く癖が再発して傷が出来てしまい「衣装が着られなくなる!」と母親から指摘されています。
だけどどうしても役が欲しいニナは演出家に色仕掛けしてでも主役にしてもらおうと考えます。
この時のニナは化粧も態度もぎこちなく、誘惑には程遠いです。来ただけって感じ。
結局キスの途中に演出家の唇を噛んで逃げてしまいます。(超痛そう)

そこにリリーが現れる。
背中に黒い羽根のタトゥーがあり、みんなが髪を結い上げている中下ろした髪を振り乱し黒のタイツで伸びやかに踊っている。
「あの動きを見てみろ。予測不可能で、官能的だ。演技ではない」
踊るリリーが男性ダンサーの胸に飛び込むように当たってしまうと、笑って更にボディタッチしている。
これがまたエロい。ついニヤッとしてしまいそうですね。
黒鳥そのもののようなリリーにニナは不安を煽られる。

この対比がいいですね。
良い子ちゃんなニナは「完璧に踊る」ために自分を押さえつける。
対してリリーは「思いのままに踊る」人であり自由。

どうしても堅い踊りをしてしまうニナ は演出家から「不感症の踊り」と言われて詰められてしまいます。セクハラだ。

この「不感症」の感じはその後のリリーとの夜遊びのシーンでもわかりやすく表現されてます。
2人の男が「ねえ君たち姉妹?」と問いかけると、
リリーは「そうよ」と答え、ニナは「いいえ」と答えます。
リリーは慣れているので元々男達に本当のことを言うつもりは毛頭ないのです。
おそらくフレンドリーな性質も相まって我ら義姉妹だぜ!くらいになっていたのかも。
また男達が何を目的にしているかリリーにはわかっていて、リリーもまた「一晩遊べるかな」くらいの気持ちです。
そういう場所で素性を知られることはリスキー。
だけどニナは違います。
ニナは男達に対してそんな風には考えません。
お堅く正直に答えてしまうし、そのリスクを理解していません。

バレリーナだと明かした時の会話もまた象徴的。
男「へえ、バレエって正直つまんないよな」
ニナ 「そんなことない!」
リリー「そういう人もいるよね〜」

ニナにとってその世界は自分の全てで、それを理解しない人は異端なのでしょう。
だけどリリーにとってはまたも違います。
リリーの中でもバレエはおそらくとても大きなものだけど、他人は他人。
というか若い男の子にバレエとか言っても興味ないよね〜とかそういう感じですかね。
年相応に世慣れして遊び方がわかっているんですね。
外の世界との付き合い方にも大きな差異があります。

ニナの視点で描かれているので感情移入しやすくはありますが、
引いて見るとかなり神経症的な性質を抱えているように見えますね。
世界の広がりを制限されてきた上に本人もバレエ一筋なので精神的に閉ざされていて視野が狭いことを感じさせます。
その分執着の全てがバレエに向く。

リリーはアウトロー的だけど、精神が安定していて柔軟性があります。
最後の方の黒鳥の踊りの後でニナに「今夜のあなたは本当に最高だったわ!」と大きな賛辞を送っています。
ここまでまるで悪女のように描かれていた彼女が別人のように満面の笑みで尊敬を表します。
健全なライバルで友人です。
多分柔軟性がありフレンドリーなのが彼女の本質なんでしょうね。
リリーは黒鳥のようにニナを追い込んでいきますが、その姿はニナ自身が作り出していたのでしょう。
もしかすると背中のタトゥーや奔放な様子と演出家の言葉によってニナが勝手に黒鳥にしてしまったのかもしれない。
そんな自分に無いものを持つリリーへの憧れは劇中に鮮烈に出てきます。

ニナは女だらけの世界で母親とだけ密接に関わっていて、臆病でもあるので少し同性に愛着を強く持つ傾向があるのかも。
拗らせている感がある。危うい。

そんなニナの最後の方での変貌っぷりもいいですね。

「私は白鳥の女王よ!」

そう言って母親の庇護を離れるシーン。
母の胸に抱かれて良い子ちゃんにしていたニナ はおらず、
荒々しく自分のプライドをかけて女王として舞台に向かう姿は危ういながらも大人として歩き出したように見えます。

この映画、基本男性が出てくるはくるものの不在です。
ダンサーとしてのプライド、執着と葛藤、才能への嫉妬と羨望なんかが焦点になっています。
ニナが演出家のトマにほんのりと恋心のようなものは見せますが、
「私を認めさせる」というトロフィーとしての憧れのようなもので愛ではなさそうです。

バレエに心の全てを持っていかれた激しい女の情念が渦巻いた、
ある意味バトルものですね!
胸熱!

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