つまずきてんちょう

やっとのことで、生きてます。 一汁一菜、一日一メニューの小さな食堂の店長です。 好きな…

つまずきてんちょう

やっとのことで、生きてます。 一汁一菜、一日一メニューの小さな食堂の店長です。 好きな言葉は「たくみに平凡であること」。

最近の記事

孤独と連帯すること

通りに面した食堂のガラス窓にネットで見つけた「STOP GENOCIDE」のポスターを貼った。 その後、ジャーナリストの古居みずえさんが自身の作品であるガザの映画の自主上映会を呼びかけているのを知った。古居さんには大学時代につながりをいただいた。上映会にかかる費用は無料で、チケットの売り上げはガザに寄付してほしいということだった。 食堂が終わった後、最寄り駅のロータリー前に向かい、近くの教会を借りて上映するガザの映画会のチラシを配った。帰路につく人々が一斉に駅に向かって歩

    • 歩く人

      認知症の人は、よく歩く。 どうしてそんなに歩くのか。介護職だったとき、その後ろ姿を追いながらよく考えた。認知症介護を語るとき、この「歩く」ということを抜きにすることは難しい。介護の世界ではこの「歩く」には別の言葉が使われる。 「徘徊」という言葉が使われる。「歩く」というさわやかな言葉が、突然かなしい言葉に変わる。 わたしが以前働いていた施設では、10分刻みでスケジュールが決まっていて、一日の中からあらゆる無駄な時間が排除されていた。その中でも、付き添いが必要になる散歩は、人

      • 天使たちと食堂外交

        時刻はお昼の十二時すぎ。昼休みに入ったお客さんがいっせいに食堂にやってくる。 狭い店内は一気にごった返し、洗いもののお皿で溢れかえる。 「店長!お米も、お茶も、お茶碗もなくなったよ!」 スタッフは必死に接客をする。私はというと、完全にパニックに陥り、厨房の奥で空(くう)を見つめてフリーズしている。 そういうときに限って五名さまの入店。(店内は満席) 洗い物の山は、シンクからいまにも溢れ出しそうになっている。 (もう…ダメ!) 心の中で叫んだその時、レジの向こうか

        • いのちは関係の中に

          ついにこの日が来てしまった。 いつもなら学生たちで溢れ返る食堂前の通りには今朝、人けはない。 誰もいなくなった通りに立ちすくみ、天を見上げている店長のとなりで、ボランティアのコバヤシさんがつぶやく。 「あぁ~大学、春休みだね」 「なんだ~ハルマゲドンかと思ったよ~!」というのを飲み込んで、ホッとしたのもつかの間。その直後、新型コロナウイルスが世界的に感染拡大し、開店から三ヶ月後の二〇二〇年四月七日、日本では緊急事態宣言が発令された。大学は春休みに入ったままリモート授業

          ミーナの晩餐会

          当店では日替わりの一汁一菜の他に、二品のお好きな小鉢を選ぶことができます。本日の小鉢はスコッチドエッグに野菜たっぷりラタトゥユ、海老フライにブドウと生ハムのカルパッチョ、さらに季節の果物をふんだんに使ったフルーツタルトって……、「一汁一菜はどこ行ったーー!」とツッコミを入れてくださった読者の皆さま、落ち着いてください。確かにうちは和食を基本とした一汁一菜、粗食テイストの店なのですが、今日は違うんです。今日は…「ミーナさんの日」なんです。ミーナさんといえば食堂関係者の間では有名

          やさしさの引き出し

          「今日は、小鉢ひとつ追加したので650円です。おつりは350円です」。レジに立つお客さんの声がする。「あっ、自分でスタンプ押しますよ」。老眼のスタッフに代わって、お客さんがポイントカードに印を押す。"CLOSE"のままの看板に気がついて、「これじゃぁ、お客さん入って来ないんで」とひっくり返して〝OPEN〟にしてくれるのもお客さんである。 この食堂では、不思議な現象が起こる。お客さんが自分でお皿を下げてくれるよみようになり、スタッフの代わりにおつりを計算し、店内が込み合ってく

          やさしさの引き出し

          閉店時間のお客さん

          食堂には、ときどき営業時間以外にもお客さんが来ることがある。 人通りの多い日中が苦手なUさんは、早朝に朝ごはんを食べに来る。 朝ごはんといっても、まだ食事の支度はできていないので、食べるのは昨日の残りの冷凍ごはんとキムチ納豆である。それでもUさんは「今日も愛情をありがとう!」と言って帰っていく。彼の後ろ姿を見送りながら「料理は一手間が愛情ってあれ、嘘だな…」と思いながらも、さわやかな「ありがとう」に心が軽くなる。 Sさんは閉店後の夕暮れの時間にふらりと食堂にやってくる。音も

          閉店時間のお客さん