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私は愛されています【音声と文章】(ショートショート)

山田ゆり
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私は愛されています。
大きな愛で包まれています。

失敗してもご迷惑をおかけしても
どんな時でも愛されています。





「真面目ね。」
学生の頃からそう言われていた。

その度に「そんなことないわ。」と言い返していた。


のり子はそれを
「あなたは四角四面な感じで面白く無い人ね。」と脳内で変換していたから
その言葉を言われる度に
勝手に傷ついていた。

「真面目と言われないようにしよう。」



のり子は革靴を毎日磨くのが習慣だった。
お気に入りのローファーの汚れを落としてクリームで靴を磨くのが好きだった。

靴が綺麗だと心が落ち着くのだ。

でも、のり子の周りの女の子で、ピカピカに磨いている靴を履いている人はいなかった。

「もしかして、私の靴がいけないのかしら。
靴を磨かないようにしよう。そうしたら真面目と言われないかもしれない。」




次の日からのり子は靴を磨かないことにした。
少し埃がかかり白っぽくなった。途端に靴を拭こうとしたが我慢した。

これでみんなと同じになれた。




のり子のヘアスタイルはいつも決まっていた。
ショートヘアで櫛はいつも左胸のポケットに入っていた。
お手洗いに行ったら必ず髪を整えていた。

「もしかして、この、ヘアスタイルが真面目だと思われているのかしら。」


次の日からのり子は、なるべく髪を櫛で溶かさないようにした。
のり子の髪はぼさぼさになって行った。


これでみんなと同じになれる。これで真面目だと言われなくなる。




その後、のり子は「真面目だ」と言われなくなった。
彼女の思い通りになったから喜んでいいこと。


でも、のり子の心はグレーの渦が胸のあたりに留まるようになっていった。



ある日、のり子はショーウインドウに映る自分の姿を見た。
これが私?

私はこんなんじゃない。




素直になろう

自分がいいと思ったことはそうしよう。


それからのり子はまた靴をピカピカに磨くようになった。

髪も櫛でとかしてすっきりするようになった。


するとまた周りから言われるようになった。


「真面目ね。」

のり子は明るく答えた。
「ありがとう。私もそう思うの。」
のり子の胸の中にあったグレーの渦は消え去り、小さなだいだい色の明かりが灯り始めた。


素直になろう。
自分は愛されていると受け入れよう。

のり子は胸を張って大股に歩き始めた。





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私は愛されています

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