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精米は自分で(ショートショート)【音声と文章】

山田ゆり
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「いらっしゃいませ!」

自動ドアが開きいつものお客様がお見えになった。

彼女は棚に置かれたお米を眺め、お米の特徴や生産農家の紹介欄をひとつひとつ読みながら歩いていた。
やがてその中の一つを選び、それをカートに乗せてレジに持って来た。

小学校低学年くらいの女の子がそのカートを嬉しそうに押していた。

今どきは自動精算のレジが主流だが私の方針でそれは自動化していない。



「みっちゃん、いらっしゃい。お母さんのお手伝い、偉いわねぇ。」
女の子は小さく「うん」と言って鼻穴を大きく開けて、ニーッと笑った。


「佐々木様、いつもありがとうございます。
先日の 夜のしずく はどうでしたか?」

「そうそう、あのお米は、ひと粒ひと粒がはっきりしていて、少しもっちり感があり、家族にはとても好評だったのよ。」

「そうなんですね。それはよかったです。」
「今日はこの、里のやすらぎ にしてみるわ。いろいろ、試してみたいし。」

「精米はこちらでしてよろしいでしょうか?それとも佐々木様がされますか?」

「勿論私たちがします!それが楽しみでこのお店に来ているから。」
「かしこまりました。ではどうぞ、お楽しみください。」

私は佐々木様にお釣りとレシート、そしてお米と専用のコインをお渡しした。




私のお店はお米の専門店だ。
全国各地のお米農家と契約をしていて直接お米農家から仕入れをしている。
だから品質は保証済みである。


そして私のお店の特徴は玄米のままで販売していることだ。
そして、購入直後に精米をしてお客様にお渡しをしている。

その精米は、お客様でもすることができるようにしている。



精米は面倒なことでお店に全てお任せするのが当たり前と思っていた。


しかし、小学校の「お店体験隊」がやってきた時に子どもたちは精米後のお米しか見たことが無いのを知った。

そこで、お米はもみ殻に包まれていることやそのもみ殻を取ったのが「玄米」で、更に「ぬか」と「胚芽」を取ったのが「白米」だと説明した。

玄米にはビタミンやミネラルが豊富だから、精米の度合いで同じお米から得られる栄養素が違ってくることを子どもたちに説明した。



「精米?何それ?やってみたい!」という子がほとんどで、精米の様子を実演したらとても喜ばれた。
それがきっかけで、子どもたちの話を聞いた親御さんが来店され、自分で精米したいとのご要望が多く出た。

そこでそれまで精米機はカウンターの奥に設置していたが、お店の中に数台置き、お客様が自由に精米できるようにした。

玄米を購入して、精米の「分」を自分で選べて精米できるお店」としてSNSで紹介されあっという間に来店されるお客様が年々増えるようになっていった。




佐々木様も今、精米機の前で袋を開け、精米機の中にお米を投じていた。
隣に立っているお嬢様も一緒に袋を持ち、そして長い棒がグルグルまわりながらお米が下に吸い込まれていくのを不思議そうに見ていた。



次にどのくらいの精米にするのか「分」を選択し、精米がスタートした。

ゴー、ザラザラザラ

お米が回る音がし、やがて下の方にお米がパラパラと落ちるのがガラス越しに見える。

薄茶色の二重になった頑丈な紙袋にお米が落ちていく。


やがて精米が終わり、紙袋に設置されている紙の紐で上を縛る。
袋には今日の日にちが刻印されている。
その日付は、堂々としていて精米を自分がしたという、ある意味、王冠のようだ。

佐々木様親子は軽く会釈をしてお店を出られた。





私のお店は、自分のお店から購入したお米だけではなく、他店でご購入された玄米をお持ちになり精米することができるコーナーもある。

田舎のご両親から送られてきた玄米を精米しにやってくる方もいらっしゃる。


その場合は、重さによって手数料を精米機のお金投入口に入れる。


精米したてのお米がとても美味しいことをたくさんの人に知ってほしいと私は思っている。





「あなた、ご飯の支度ができましたよ。」
妻が奥の方から顔を出した。

私は従業員にお任せして、
香ばしい鮭の匂いがするダイニングに入って行った。





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精米は自分で(ショートショート)

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