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乾いた拍手はいらない(ショートショート)【音声と文章】

山田ゆり
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パン、パン、パン。


乾いた拍手の音が会議室に響く。


それはドアの向こうにも聞こえるように
わざと大きく掌を広げて叩いているように聞こえる。

普通よりも手を打つ間隔が長く、しかも、3回叩いて終わる。


その音は
「私が君たちを褒めてやっているんだ。どうだ、嬉しいだろう。」とも聞こえる。


ここはどこの国なのかと、皮肉の一つも言いたくなる。




心のこもった拍手は
もっと細かく叩き、
なかなか止まらないものだ。


打つ間隔が広く、3つ目で必ず終わる彼の拍手は
威圧感しかなく、聞きたくもない。





僕は、あの熱い拍手が忘れられない。

進学のために僕はピアノを辞めることになり、その直前のピアノ発表会に出場した時を思い出す。


僕はあの頃、ピアノを弾くのが楽しくてたまらなかった。
思考するより先に指先が鍵盤の上を踊る。

僕はラストに向かって全力を注いだ。


演奏が終わり会場は一瞬静まり返り、そして、鍵盤から手を離した瞬間
会場は小刻みに力強く叩く拍手でいっぱいになった。
それはまるで拍手のシャワーを浴びているようだった。


僅か100席くらいの、小さなホールだったが
やり切った感があった。


お母さんもお姉ちゃんも
おじいちゃん、おばあちゃんも
みんな、手が痛くなるくらい拍手をしていた。

おじいちゃんなんか、眼鏡を外して隣に座っているおばあちゃんから差し出されたハンカチで目頭を押さえていた。


僕はあの心のこもった拍手を今でも忘れられない。
あの光景はずっと僕の心の奥にあり
挫けそうになった時は、あの光景を思い出す。





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乾いた拍手はいらない(ショートショート)
#66日ライラン

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