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シフトドア(妄想の世界)【音声と文章】

山田ゆり
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小さなダイヤが光るピアスをしたエリは家の戸締りを確認した。

戸締りと言っても全て機械化されている。
家の中にいながらしかも今の場所にいながら全ての窓やドアの戸締りをすることができる。

火の元もチェックされるのだが、エリは自分の目でも確かめる。


今日は月一の会社に出勤する日。
エリの仕事はほぼリモートで済む職種だが、月に一回、自分の都合に合わせて出社することに決まっている。


社内の打ち合わせや会議も全てリモートで済むから会社に行く必要がない。
お客様との打ち合わせもリモートで済ませるのが今は常識になっている。

昔は、普段リモートで済ませても大事なお客様との商談は直接お会いしなければ失礼に当たるという常識があったと、エリはおばあちゃんから聞いたことがある。
今はお互いの時間を有効に使うためにも「会わない」ことが常識になっている。

それでも月に1回は会社に出勤して機械では感じ取れないお互いの情感を揺らして、仲間意識をはぐくむ工夫がされている。



支度が整ったエリは瞬きを2回半した。
目の前に「シフトドア」が現れる。
エリが行き先を告げる。
するとその建物の付近の映像が出てくる。
「オッケー!」エリが言うと、シフトドアの確認ボタンが現れ、それを人差し指でタッチする。


たちまち、会社の建物の前についた。

おばあちゃんが独身の頃は、「デンシャ」という乗り物があったそうだ。
その中に人がぎゅうぎゅう詰めにされて乗り、降りる駅につくとドアから人が吐き出されるように出てきたそうだ。

蒸し暑い梅雨の時期は、隣の人の傘が自分の足元にあたり、傘のしずくがパンプスの中にポタリポタリと落ちてきても、自分は動くこともできない。

そんな嫌な思いをして毎日通勤していたとおばあちゃんから聞いたことがある。


今は「シフトドア」で簡単にすぐに目的地へ瞬間移動できる。
だから「デンシャ」というものに乗らなくてもよくなった。

「デンシャ」が無くなったから、その通り道である「センロ」がなくなり、今は緑の多い景観に変わったのだとおばあちゃんが言っていた。



国内は勿論、海外のどこへでも瞬時に移動することができるのが「シフトドア」の良いところだ。


ただ、セキュリティの観点から、移動先は「外」に限られている。

つまり、例えば、瞬間移動した先が突然、○○さんの居間になったりはしないようにプログラミングされている。

直接、目的地の部屋の中に入ることは技術的には不可能ではないのだが、国や世界の法律で、「移動先は目的地の屋外」と決められている。




「やぁ、おはよう!」
会社の建物の前に立ったエリにナリタ部長が手を挙げて近寄ってきた。
紺のストライプのネクタイが爽やかな部長にお似合いだ。

一か月振りにお会いしたが、いつも素敵で心がときめく。

軽くウエーブがかかった髪を何気なくかき上げる仕草。カジュアルではあるが品を保っているブレザー。
ほのかに香るヘアコロン。


PCでは得られない五感。


エリは部長と並んで話をしながら会社の建物に入って行った。


エリの会社の入り口のドアが部長の顔認証で開いた。
部長の後に続いてエリが社内に入った。
ふと、エリはうしろに違和感を感じ振り向こうとしたが、同時にエリは鈍器で後頭部を殴られ、突然、真っ白な世界に落ちていった。

ピアスのダイヤが一つ外れて床に転がったがエリはそれを見ることはできなかった。



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シフトドア(妄想の世界)


※続きはこちらになります。

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