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~分岐点から逃げてばかり~ 【音声と文章】

山田ゆり
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やりたくもないのに無理やり多数決でクラス委員長をすることになったのり子は高校に入学して半年間、迷走しきっていた。

学活の時の議長の時は会の運行をうまくまわせなかった。
話をどう持って行って結論を出せばいいのか分からなかった。

もしかしたらそれを文章にして静かに考えていたらできたのかもしれない。

しかし、人と話をすることが苦手で、ましてや皆さんの前に出て話をしなければいけない状況で、脳内はグルグル回り出し、通常の判断ができない状態だった。

のり子を推薦した工藤さんやその取り巻き達はクラスの中で影響力が強くなっていた。だからドギマギしているのり子に救いの手を伸べてくれても良かったのに、逆にいつものり子を馬鹿にしたような目で見て助けてくれることはなかった。


そんなダメダメな半年が過ぎ、後期のクラス委員長を決めることになった。
なんと工藤さんの取り巻きの中の長尾さんが手を挙げた。
そして後期のクラス委員長はすんなりと決定した。


明るくみんなをまとめることができる長尾さんがクラス委員長になって、クラスの雰囲気ががらりと変わった。
何をするにも工藤さん達の取り巻きが盛り上げてくれクラスはまとまりのある感じに変わっていった。


その変わりようにのり子は傷ついた。
自分が困っていた時に助けてくれたらよかったのに。
のり子はクラス委員長を押し付けた工藤さん達をずっと恨んでいた。




大人になったのり子が金融機関の待合室で偶然、工藤さんに再開した。
のり子は彼女を見た瞬間、当時の苦い思い出が蘇り、嫌な人に会ってしまったと思った。

しかし彼女は
「わぁ~、山田さん、ひさしぶり~。元気だった~ぁ!」と、懐かしくて嬉しくて仕方ないという顔でのり子に話しかけてきた。

えっ!
あの時のことを覚えていないの?
私がクラス委員長は無理だと断ったのに結局工藤さんが押し付けた形になってクラス委員長をする羽目になったことを。

そして、やり方が分からずにオドオドしていた自分に手を差しのべることもなく、逆に馬鹿にしたような目でのり子をいつも見ていただけだったことを覚えていないの?


工藤さんはどうやら、忘れているようだった。
本人にとって些細なことは忘れるものだ。
のり子にとっては辛い半年間だったが、工藤さんにとっては思い出にも残らない些細なことだったのだと分かった時、傷口に塩を塗られた思いだった。


それでも大人ののり子は、口角をあげ、満面の笑みで工藤さんと一言二言話をして別れた。
はた目には久しぶりに会ったもと女子高のクラスメートだった。



いじめもこういうものだとのり子は感じた。


虐められている本人は、死にたいほどの苦しみを感じているのに、虐めている本人はその自覚がほとんどない。
そして時の経過とともに、その人は忘れてしまう。
虐められた人はずっとそれを心の中の傷として受けながら生きていくのに、虐めた本人は「無かったこと」に変換されてしまうのだ。





生理痛が酷くて毎月保健室で休むことが多くなったのり子は、授業についていけなくなった。


中学の時は友達がいなくて、休み時間を一人で過ごしていたのり子は、予習復習や宿題を休み時間と昼休み時間でやっていたが、
中学とは比にならない高校の高度な授業である。

1回授業を休んだだけでも挽回するには時間がかかったから、何度も授業を休んで保健室で寝ていたのり子は、完全に授業についていけないレベルになっていった。


あんなに大好きだった数学は、チンプンカンプンになってしまった。
だから、毎回の定期テストは赤点すれすれだった。


のり子は2年生に進級した。


その時の担任は体育の先生だった。
陸上競技の国体にも出場したことがある、高身長ですらりとした女先生だった。
思っていることをズバリ話される方でのり子とは全く違う人種だった。


その先生が校庭を走っている姿は「きりん」のようにのり子には映り、のり子はその先生を「きりん」と心の中で呼んでいた。

きりん先生は新学期早々、生徒たちと個人面談をした。


のり子はその時きりん先生にこう言われた。
「この学校に30番台で入学したあなたが1年生の最後のテストでは学年でビリから2番目になってしまったなんて、どうして?信じられない。」

だから話を聞こうという雰囲気ではなく、のり子にただ呆れているように見えた。


「あぁ、この人は強い人なんだ。弱い気持ちの人を理解できないんだ」
のり子はそう感じて、それからきりん先生には何も期待しなくなった。


自分と違う人種に出逢った時に、その人に関わってみるかそれとも回避してしまうか。
その人に係ることで新しい自分にもしかしたら変われるかもしれない。
それは分岐点かもしれない。


のり子が思っていることをきりん先生に話し、どうすればいいのかを聞いていたらもしかしたらその時点でのり子の人生はもっと明るい世界へ矢印がグイッと進んでいったかもしれない。

でものり子は自分で自分の心の扉を閉じてしまった。


友達もなくクラスで独りぼっちの場合、「不登校」になりやすいが、当時ののり子には「学校に行かない」という選択肢が頭には思い浮かばなかった。

「学校は休まずに行くもの」というガチガチの常識をのり子は持っていた。

そしてまた、「学校に入ったら部活動は必ずするもの。そして、絶対に卒業まで部活を続けるのが当たり前」と思っていたのり子は自分の「法律」を守り切った。


中学の時に吹奏楽部だったのり子は、高校でも吹奏楽部に入りたいと思っていた。
しかしのり子の高校に吹奏楽部は無かった。

仕方なく、同じ音楽である「合唱部」に入部したのである。歌を歌うのも小さい頃から好きだったからなんの抵抗もなかった。

その「合唱部」はタダの合唱部ではなく「合唱団」であることを入部してからのり子は初めて知った。





長くなりましたので、続きは次回にいたします。




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~分岐点から逃げてばかり~
未来を知るためにネガティブな過去を洗い出す 



※今回は、こちらのnoteの続きです。

https://note.com/tukuda/n/n71cf6256d59b?from=notice

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