マガジンのカバー画像

ショートショート

67
「こうだったらいいな」「ああなりたいなぁ」「もしもこうだったら怖いなぁ」たくさんの「もしも」の世界です。
運営しているクリエイター

#ショートショート

アイコンの罪(ショートショート)【音声と文章】

アイコンと 少しは違う 言ってたけど 見た目が違う 性が違うわ SNS上の文字だけの交流の「仲間」のA美さんは 髪が長く目がパッチリでグラマラスなアイコン。 私は活発な女子って感じのアイコン。 「私たち、なんか気が合うわね。」 何度もやり取りしているうちに意気投合し、初めて会うことになった。 「実は私、アイコンとは少し違うの。驚かないでね。」と、A美が言う。 誰だって理想の姿をアイコンにしているものよ。 だから、そのあたりは了解済み。 某月某日、A美とあの銅像の前で会った。 始めはA美を探せなかった。 でも、キョロキョロしている私に声を掛けてきた男性がいた。 なんとA美は男性だった! アイコンと少し違うって言ってたけれど まさか男性だとは! 勿論、相手も私のアイコンとの違いに少し驚いていたけれど。 なんだそうだったのか! だから同じ匂いを感じていたのか。 それから僕たちはもっと仲良しになった。 note毎日連続投稿1900日をコミット中!  1879日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む。 どちらでも数分で楽しめます。#ad アイコンの罪(ショートショート)

食習慣の違い(短歌もどき)【音声と文章】

あなたから ランチの誘い 何食べよ コーヒー一時間 そりゃないわ 合コンで知り合った彼から 「今度の休日、一緒にランチはどう?」と連絡が来て 喜んで待ち合わせの時間に行ったら そこは既に長蛇の列。 「予約を入れてなかったの?」と私は心の中で思った。 信じられない。 仕方なく、近くの喫茶店に入ったの。 「おなか空いたよねぇ。」と聞いたら 「僕はそれほどでもない。」って言ってコーヒーだけ頼んだの。 私は彼との食事を美味しく食べようとお腹を空かして待っていたのに。 仕方なく私はフラッペを頼んで中に入っていたフルーツをお腹の足しにしたの。 バナナとキーウィがこんなに美味しいと感じたことはなかったわ。 彼ったら、コーヒーだけで一時間、ご機嫌な様子で話をしていた。 そして 「じゃぁ、また今度。」って別れた。 これがランチなの? note毎日連続投稿1900日をコミット中!  1878日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む。 どちらでも数分で楽しめます。#ad 食習慣の違い(短歌もどき)

あなたの余命知りたい?(ショートショート)【音声と文章】

20XX年。 政府はある無料サービスを始めた。 「あなたの余命を教えます」 生年月日 首が座った頃 ハイハイができた頃 予防接種の種類と罹った病気の内容 保育園のお遊戯会でどんなことをしたのか 小中高校の学校名と受けた教育の内容 生徒会や部活動の成績 大学の教科や卒業論文 社会に出てからは 会社名・部署名・仕事の内容 会社での賞罰・年収 食材・本・家電・家具などの購入品 飲食店での食事のカロリー数 一人ひとりに固有の番号が付され、 その人がどこで何を購入し、 どんな食事をしてどんな娯楽をしたのか。 その日の歩数 病歴と医療機関の受診内容 ありとあらゆる記録が 政府のある機関にビックデータとして存在していた。 そして、その人の余命は 何年何月何日何時何分まで分かるほど精密だ。 人は、いつかは死ぬと分かっていても、 「その時」はまだ先だと思って生きている。 だから「今」は「とりあえず生きている」こともある。 しかし、余命を知ることで「死ぬまでにこれだけはしたい」と思うようになる。 すると、その内旅行したいと思っている人が旅行をするようになった。 カヌーの乗り方を習う人・英会話を習う人、 「いつかしよう」と思っていることをする人が多くなって、市場が活発になり経済が大きく動き出した。 今まで眠っていた通帳の定期預金が減り、 その代わりお金が回り出した。 これは政府の狙い通りだった。 ある日、ある組織がそのデータをハッキングした。 そして、ボスが自分の関係者の余命を一覧表にするよう部下に命令した。 その関係者の個人番号を入力している横で彼は「まだか!」と怒鳴る。 言われた職員は急いで入力し、どこかのキーを間違って押し、ワンテンポずれてプリントアウトしてボスに手渡した。 ボスは重厚な椅子にふんぞり返りながらその一覧表を眺めた。 人の余命を知るのはどこか罪深く、 しかし、見たいという欲望には勝てない。 うむ、こいつはあと43年もあるのか。 むむ!こいつはあと12年しか生きられないのか。 少し太り過ぎだからなぁ。 余命が遅い順になっているその一覧表の一番下を見て彼は顔面蒼白になった。 俺が余命1年! そんなはずはない。 俺は他の奴らとは違い、高級なものを毎日お腹いっぱい食べている。 会社の金でゴルフもしている。 酒と煙草はしているが、健康診断で、 肝臓と腎臓、血圧、脂質が異常値なだけで、 普段の生活は至って普通だ。 こんなに健康な俺があと一年しか生きられないはずはない。 しかし、政府のデータに間違いはない。 彼は暗い部屋でじっとその用紙を眺めていた。 窓にポツポツと雨が当たり始めた。 一年後 紫陽花が映える季節がまたやってきた。 葬儀場には家族全員が笑顔でいる写真の中から 切り抜かれた嬉しそうな彼の遺影が飾られていた。 参列した人々は口々に言う。 「昔、彼は無茶なことばかりしていたのに一年位前から、まるで別人のように変わったよな。」 「そうだよな。酒・たばこ・ギャンブルは全てやめて、子どもたちの登下校時の緑のおじさんを自らかって出たというじゃないか。」 「そうそう。町内清掃や廃品回収も自主的に参加し、彼の会社が所有するトラックを無償提供しているというじゃないか。」 「あんなにワルだった彼を何がそうさせたのか。」 「どうやら、例の余命お知らせシステムを使ったらしいぜ。」 「以前とは比べものにならないくらい健康になり、真っ当な人生を歩むようになったのに、みどりのおじさんをしている時にネコが突然飛び出してきた。 とっさに彼が猫を助けたお陰で、彼は別世界へ旅立ってしまったなんて、皮肉なもんだね。」 彼の葬儀は盛大に行われた。 慈善活動をするようになった彼を悼む人々で式場はいっぱいになった。 その葬儀には当時、余命お知らせシステムを操作し、プリントアウトした従業員も参列していた。 実は、彼が入力している時にボスがあまりにもせかすのでボスの番号を入力したあとに、間違って、「END」キーを触ってしまったのだ。 そのキーは「余命」を強制的に「1年」と変えるキーだった。 しかし、彼はそのキーを押したことに気づかず、すぐにプリントアウトしてボスに渡したのであった。 だから、彼はその時のことを認識していない。 本当は「余命38年」だったが、それは誰も知らない。 自分の余命は1年。 それを知った彼は心を入れ替え慈善活動に専念した。 「自分はあと1年しか生きられない」 その潜在意識が彼の死を引き寄せたのかもしれない。 note毎日連続投稿1900日をコミット中!  1877日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む。 どちらでも数分で楽しめます。#ad あなたの余命知りたい?(ショートショート)

水田に映し出される枝垂れ桜(ショートショート)【音声と文章】

「あっ。」 ピンクの蛍光ペンを落としてしまった。 カタカタと音が続き、前列の椅子の下で止まった。 リョウコは一瞬、どうしようかと迷った。 今は大学の講義中である。 段々になっているその教室は人気講師の授業ということもあり満席だった。 両端にたくさんの学生がいて、今、立ち上がることができない。 ほんの一瞬、躊躇していたら、前席の方が身体をかがめて蛍光ペンを探し出しくるりとリョウコの方を見て渡してくれた。 「あっ!」 リョウコは彼の顔を見て口に手をあてながら小声で言った。 彼は今朝、駅の改札口を出た辺りでリョウコが落としたピンクのハンカチを拾ってくださった方だった。 白い歯を見せて笑う彼にドキンとした。 彼の身体のまわりにだけぼんやり白い光が放たれているような気がしてリョウコは彼の後ろ姿を見ていた。 あれから20数年。 見事な枝垂れ桜が印象的なこの地を今年もあなたと訪れることができた。 今は子どもたちも自立し、二人だけの静かな生活に戻っていた。 水田に映し出される逆さの枝垂れ桜は、まるで上下で一つのように錯覚してしまう。 あなたと一緒になるのは必然だったと上下一対の桜が語っているようね。 note毎日連続投稿1900日をコミット中!  1875日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む。 どちらでも数分で楽しめます。#ad 水田に映し出される枝垂れ桜(ショートショート)

悪夢(ショートショート)【音声と文章】

大きな歯車が動いている。 そして歯車と歯車の間から大きな布団が出てきて私に覆いかぶさってくる。 ふわふわしているのにその布団はどっしりと重みがあり、私はその布団から逃れられない。 布団は何枚も現れ私の上に覆いかぶさる。 真綿で首を締められているようだ。 助けて。 誰か助けて。 そんな夢を見た。 小さい頃によく見た夢だ。 首の周りに汗をかき下着は汗で体にはりついていた。 隣であなたの寝息が聞こえる。 万歳の格好であなたは寝ていた。 あなたのわきの下に頭をつける。 あなたは手を下ろし私の頭を大きな掌でポンポン触る。 分かった、分かった。 大丈夫だ。 今は寝よう。 あなたの日に焼けた大きな手は私にそう語りかける。 フローラルアロマの匂いがするあなたのTシャツ。 私は子犬のようにTシャツに鼻を付けてその匂いの世界にグルグルと回りながら入って行った。 どんなことがあってもあなたがいれば怖くない。 私は安心しながら真っ白な世界へ入って行った。 そんな夢を見た。 ※note毎日連続投稿1900日をコミット中!  1863日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む。 どちらでも数分で楽しめます。#ad 悪夢(ショートショート)

精米は自分で(ショートショート)【音声と文章】

「いらっしゃいませ!」 自動ドアが開きいつものお客様がお見えになった。 彼女は棚に置かれたお米を眺め、お米の特徴や生産農家の紹介欄をひとつひとつ読みながら歩いていた。 やがてその中の一つを選び、それをカートに乗せてレジに持って来た。 小学校低学年くらいの女の子がそのカートを嬉しそうに押していた。 今どきは自動精算のレジが主流だが私の方針でそれは自動化していない。 「みっちゃん、いらっしゃい。お母さんのお手伝い、偉いわねぇ。」 女の子は小さく「うん」と言って鼻穴を大きく開けて、ニーッと笑った。 「佐々木様、いつもありがとうございます。 先日の 夜のしずく はどうでしたか?」 「そうそう、あのお米は、ひと粒ひと粒がはっきりしていて、少しもっちり感があり、家族にはとても好評だったのよ。」 「そうなんですね。それはよかったです。」 「今日はこの、里のやすらぎ にしてみるわ。いろいろ、試してみたいし。」 「精米はこちらでしてよろしいでしょうか?それとも佐々木様がされますか?」 「勿論私たちがします!それが楽しみでこのお店に来ているから。」 「かしこまりました。ではどうぞ、お楽しみください。」 私は佐々木様にお釣りとレシート、そしてお米と専用のコインをお渡しした。 私のお店はお米の専門店だ。 全国各地のお米農家と契約をしていて直接お米農家から仕入れをしている。 だから品質は保証済みである。 そして私のお店の特徴は玄米のままで販売していることだ。 そして、購入直後に精米をしてお客様にお渡しをしている。 その精米は、お客様でもすることができるようにしている。 精米は面倒なことでお店に全てお任せするのが当たり前と思っていた。 しかし、小学校の「お店体験隊」がやってきた時に子どもたちは精米後のお米しか見たことが無いのを知った。 そこで、お米はもみ殻に包まれていることやそのもみ殻を取ったのが「玄米」で、更に「ぬか」と「胚芽」を取ったのが「白米」だと説明した。 玄米にはビタミンやミネラルが豊富だから、精米の度合いで同じお米から得られる栄養素が違ってくることを子どもたちに説明した。 「精米?何それ?やってみたい!」という子がほとんどで、精米の様子を実演したらとても喜ばれた。 それがきっかけで、子どもたちの話を聞いた親御さんが来店され、自分で精米したいとのご要望が多く出た。 そこでそれまで精米機はカウンターの奥に設置していたが、お店の中に数台置き、お客様が自由に精米できるようにした。 玄米を購入して、精米の「分」を自分で選べて精米できるお店」としてSNSで紹介されあっという間に来店されるお客様が年々増えるようになっていった。 佐々木様も今、精米機の前で袋を開け、精米機の中にお米を投じていた。 隣に立っているお嬢様も一緒に袋を持ち、そして長い棒がグルグルまわりながらお米が下に吸い込まれていくのを不思議そうに見ていた。 次にどのくらいの精米にするのか「分」を選択し、精米がスタートした。 ゴー、ザラザラザラ お米が回る音がし、やがて下の方にお米がパラパラと落ちるのがガラス越しに見える。 薄茶色の二重になった頑丈な紙袋にお米が落ちていく。 やがて精米が終わり、紙袋に設置されている紙の紐で上を縛る。 袋には今日の日にちが刻印されている。 その日付は、堂々としていて精米を自分がしたという、ある意味、王冠のようだ。 佐々木様親子は軽く会釈をしてお店を出られた。 私のお店は、自分のお店から購入したお米だけではなく、他店でご購入された玄米をお持ちになり精米することができるコーナーもある。 田舎のご両親から送られてきた玄米を精米しにやってくる方もいらっしゃる。 その場合は、重さによって手数料を精米機のお金投入口に入れる。 精米したてのお米がとても美味しいことをたくさんの人に知ってほしいと私は思っている。 「あなた、ご飯の支度ができましたよ。」 妻が奥の方から顔を出した。 私は従業員にお任せして、 香ばしい鮭の匂いがするダイニングに入って行った。 ※note毎日連続投稿1900日をコミット中!  1863日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む。 どちらでも数分で楽しめます。#ad 精米は自分で(ショートショート)

月額五千円って、小さな額だけれど【音声と文章】ショートショート

君が生まれて 学資保険とは別に 君のお母さんは毎月五千円の積み立てをすることにした 月に五千円なんて 一年にすると6万円にしかならない 10年後は60万円 20年後は120万円 そんな少ない金額、何になる 月に1万円にしたら 一年で12万円 10年後は120万円 20年後は240万円になる その方がいいかなと君のお母さんは思った でも少ないお給料からは 出せる金額にも限度があった ごちゃごちゃ考えていたら始められなくなるから とりあえず毎月5千円を積み立てることに君のお母さんは決めたんだ そのお金はあってないようなもの でも全く気にせずにいたと言うと嘘になる その定期積立は 毎月数円~数十円の利息が付く優れもなのだ。 今は普通預金で100万円あっても利息は年に数円しかつかない それに比べてこの積立は、毎月利息がつくから通帳を見ているだけで希望が湧く 君のお母さんは時々その通帳を広げ微笑んでいた その利息の印字が 「今月も娘が無事に過ごせました」と言っているようだった コツコツ、コツコツ 通帳を開くとそんな音が聞こえるね 僕はけっして貯蓄を推奨しているわけではない 必要な事にはお金を使うべきだと思っているし、実際、お母さんはこれまでもそうしてきた 君のお母さんは月額五千円は少ないかもしれないとずっと気にしていた 金銭的に余裕ができたら 月額五千円から1万円などに増額しよう そう思って始めたんだ でもその後、二人目、三人目が産まれ その子達にも同じ定期積立を始めたから 結局、五千円のままになっている やがて、いつの間にかそれが積みあがって全くあてにしていなかったお金を生かせる時が来た 君が高校を卒業して都会の学校に行くことになった 君のお父さんもお母さんも高卒だから、上の学校に上がる時に どれほどのお金がかかるか知らなかった そして、現実が目の前に現れ、想像以上のお金がかかると知った そしてこれまでの積み立てを一部下ろし、君の進学費用にあてることにしたんだ これまで積みあがってきたこのお金が役にたったということだ 月額五千円って、小さな額だけれど その積み重ねが君の進学に役立った 良かったね この定期積立は今でも積みあがっている 次の出番はいつだろう 小さなことでも それが積み重なったら大きな力になる これは継続したら分かることだ 月額五千円って、小さな額だけれど この五千円のように 淡々と人生を積み重ねていこう 僕が解約されないかぎり 僕も君を見守っているから ※note毎日連続投稿1800日をコミット中! 1789日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む。 どちらでも数分で楽しめます。#ad  月額五千円って、小さな額だけれど

やってみないと分からない(ショートショート)

高橋「部長、僕は今のプロジェクトをうまく成功させることができるのか心配で、それを考えると夜も眠れません。」 高橋はそう言いながら、大根に箸を刺した。 真ん中に突き抜けるように刺した大根の丸い穴は中まで醤油の色だった。 高橋はふーっふーっとして、歯並びの良い口を開け、豪快に一口で口の中に運んだ。 高橋「これまで何度かお客様のA様と電話やメールなどでやりとりをさせていただきました。 その数回のやり取りでA様はとても繊細な感覚をお持ちだということを感じています。 僕はA様のご要望にそえる様に精いっぱい対応させていただいているつもりですが、僕はもう駄目かもしれません。」 部長はネクタイを軽く緩めて言った。 部長「君はとても一生懸命なのは毎日の行いから分かっている。私から見ても君は立派に業務を遂行している。何がもう駄目なのかな?」 高橋「はい。来週の火曜日に、A様との二度目の面談があります。 僕はこの会社に転職してきて3年になります。 これまでたくさんの仕事をさせていただきましたが、今回のような大きな案件は初めてです。 何をどのように事を進めればよいのか、毎日手探り状態です。 自分なりに過去の似たような記録を見たりしていますが、イマイチ、ピンときません。 次回の面談の時に、どんなご要望やご質問が出るか予想もつきません。 面談中にA様からのご質問に対して的確にお答えできる自信が全くありません。僕は駄目な人間です。」 部長「君がA様の質問に的確にお答えできなかった場合、何が起こると思うかな?」 高橋「はい。A様からのご質問に対してうまくお応えできず、しどろもどろな対応をしてしまうのではないかと思います。 そしてそれが呼び水となって、その後のご質問に対しての回答も満足のいく内容にならない気がします。 すると、きっとA様は僕に、いや、この会社に対して不信感を抱かれると思います。 僕は駄目な人間です。 小さなことですぐに落ち込んでしまう小心者なんです。 僕は社会人としての覚悟がないんです。 何をやっても楽しくないんです。 僕は意気地なしで、すぐにへたれて、これでは駄目だと思います。 仕事を通して自分が幸せになれる将来なんて、想像できないです。」 高橋は自分の思いを一気に話した。 部長は時々頷きながら静かに聞いていた。 そして高橋に質問した。 部長「A様が君に対して不信感を抱かれるのは、いきなり不信感を抱かれるのかな?」 高橋は天井を見上げて少し考えた。 その時初めて周りのざわめきが耳に入ってきたように感じた。 これまで自分のことしか見えていなかったことに高橋は気が付いた。 高橋「いいえ、1回目で少し不信感を抱かれ、それが何度か重なって、決定的なものに変わる、ってところでしょうか。」 部長「1回目で不信感を抱かれて、それが何度か重なり決定的な不信感になるということ? 君のその言葉で、何か気づいたことはないかな?」 高橋はお皿の中のゆで卵を箸でころころ転がしながら考えた。 しばしの沈黙があった。 高橋「んーん。」 そして、卵に箸を刺して高橋は今までとは違い、ニヤリとしながら元気に言った。 高橋「やってみないと分からないです!」

重なった偶然(ショートショート)【音声と文章】

『今日は何が食べられるかなぁ。 どんなところかな。楽しみ~。』 より子は歩く姿をショーウインドウでチラ見しながら足早に歩いた。 今日の為に美容院で髪の手入れをした。 ネイルも綺麗に施されている。 『今日も綺麗だね、私。』 心の中でつぶやく。 予定の時間まであと3分。 ふぅ~、間に合った。 『遅くなりました。今、約束の場所に着きました。グレーのバッグに紺色の傘をもっています。』 より子はラインを送り待ち合わせの銅像の前に立った。 『私はもう少しでそちらに着きます。』 すぐに相手から返事が届いた。 その返信の早さにより子は誠実さを感じた。 今日は『一緒にお食事をする』というアプリで知り合った人と昼食をとる約束になっていた。 お互い顔は知らない。 何度かのやり取りをしてなんとなく気が合いそうだったから今日、お会いすることになったのだ。 これまで数回のやりとりの中で、より子がどんな女性なのかを知らせていた。 身長は165㎝くらいで学生時代は運動部に所属していたから中肉中背、髪はロング。 20代前半。金融機関に勤めている。 一方、相手は30代前半、身長175㎝くらいの海上自衛隊員。 左の腕を内側にねじって腕時計を見る。 約束の時間になったが彼らしき人はまだ来ない。 より子は目にゴミが入ったようで目がゴロゴロしてきた。 公衆の面前で鏡を見ることははしたないので、より子はその銅像の後ろへ少しの間隠れることにした。 後へ移動する際、少し小太りの40代くらいの女性とすれ違った。 より子が銅像の陰で目のあたりを見ていると彼からラインが届いた。 『君がそんな嘘つきだとは思わなかった。今日のことはなかったことにしたい!さよなら』 えっ! どういうこと? より子は鏡をバッグに収め、銅像の陰から出てあたりを見回した。 あぁ、そうか。 より子は全てを把握した。 より子が銅像の前から移動した時にすれ違った40代くらいの小太りの女性が銅像の前に立っていた。 彼女の持っているバッグと傘の色が、より子と同じ色だったのだ。 より子と同色ではあったが、より子は無地のバッグでその女性はいかにもブランド品を主張するバッグだった。 ブランド品のバッグは残念ながら彼女の服装とうまく調和していなかった。 より子はブランド品にはこだわりはない。それよりも自分に合っているかを基準にしている。 その女性はただ髪が長ければいいというような感じで、手入れが行き届いていないロングヘアだった。 たまたま、似たような格好の女性二人の場所が入れ替わっただけ。 そんな彼女を遠目で見た相手が、顔が見えないアプリを悪用して、都合の良い嘘をこれまでより子がついていたと相手は勘違いしたのだろう。 ただ、いろいろな偶然が重なっただけ。 その女性がどんな格好をしていようがより子には関係のないことだった。 より子は一瞬、事の次第を話そうと思ったが あえてそれをしなかった。 これはお互い縁がなかったこと。 追いかけるほどの縁ではないのだ。 それだけのこと。 「さぁ、何食べようかな。」 枯れ葉がより子の傘に飛んできた。 今の気持ちを暗示するようにより子はその葉を傘の先で振り払った。 先ほどまでのジトッとまとわりつくような空気はなくなり、サラリとした風が頬を撫でる。 ロングヘアの先が肩より後ろでなびきながら、より子は雨上がりの歩道を大股に歩き始めた。 ※note毎日連続投稿1800日をコミット中! 1731日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む。 どちらでも数分で楽しめます。#ad 

自らを律することを求められる身内の入社(ショートショート)【音声と文章】

※note毎日連続投稿1700日をコミット中! 1661日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、 どちらでも数分で楽しめます。 おはようございます。 山田ゆりです。 今回は 自らを律することを求められる身内の入社(ショートショート) をお伝えいたします。 彼がトイレに立った。 彼がいないそこは、椅子の背もたれが左に45度くらい傾いている。 彼はいつも会社で居眠りをしていた。 その重そうな体全体を安っぽい事務用の椅子の背もたれに全体重を掛けて居眠りをするのだ。 その背もたれはそのたびに崩れるように傾いた彼の身体を支えていたから、そのうち、背もたれは少しずつ左側に傾くようになった。 背もたれの悲鳴が聞こえてきそうである。 どうしてそんなに曲がってしまったの?と聞きたくなるほど背もたれは異様に曲がってしまった。 彼が戻ってきてPCに向かう。 しかし、壁掛けの丸い時計が午後2時を指す頃、彼は恒例の居眠りを始めた。 周りの従業員はその姿を苦々しく思いながら、なるべく見ないようにしていた。 すると、代表取締役が彼の後ろに立ち、左の胸ポケットから平たい櫛を出し、居眠りをしている彼のボサボサの髪をすいた。 そして、彼の肩のほこりを手で払いながら特に誰に向けるともなく 「今飲んでいる薬は眠くなると言ってたなぁ」とぼそりと言った。 一日の内で彼が仕事らしきことをしているのは半分くらいで、残りの半分は居眠りをしている。 居眠りをしていても給料はもらえる。 しかも彼は大卒だから、彼よりも何年も前に入った女性社員よりもお給料が高い。 男性で、大卒だというだけで初任給が自分の給料よりも毎日居眠りしている人の方が高いなんて馬鹿げている。 その状態に耐えかねたベテランの女性社員は、一人また一人とその会社から去っていった。 外に厳しく内に甘い。 その体質が業績に影響しないことを願う。 代表者の身内を社内にいれる場合 普通の人以上にその人を見る周りの目は厳しいもの。 代表者の身内が社内にいることで、本来、言うべきことも言いづらくなり、それは企業の衰退につながる。 だから、縁故入社は好ましくない。 縁故入社に対して、本人は勿論 代表者自ら、自分の行いを律する必要がある。 今回は 自らを律することを求められる身内の入社(ショートショート) をお伝えいたしました。 本日も、最後までお聴きくださり ありがとうございました。  ちょっとした勇気が世界を変えます。 今日も素敵な一日をお過ごし下さい。 山田ゆりでした。 ◆◆ アファメーション ◆◆ .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。 私は愛されています 大きな愛で包まれています 失敗しても ご迷惑をおかけしても どんな時でも 愛されています .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。゚+..。*゚+

俺のせいではない(ショートショート)②

前回までの物語はこちらです。 ↓ 俺のせいではない(ショートショート)① https://note.com/tukuda/n/nc54afe680490?from=notice 数日後、彼女が亡くなったと人づてに聞いた。 残業中に誤って転び、打ち所が悪くて亡くなったということだった。彼女の死は、単なる本人の不注意で転んだということになっていた。 まさか亡くなるなんて思ってもみなかった。彼女は確か二人のお子さんをもつシングルマザーなはず。上のお嬢さんは社会人になったば