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水田に映し出される枝垂れ桜(ショートショート)【音声と文章】

山田ゆり
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「あっ。」

ピンクの蛍光ペンを落としてしまった。
カタカタと音が続き、前列の椅子の下で止まった。


リョウコは一瞬、どうしようかと迷った。
今は大学の講義中である。

段々になっているその教室は人気講師の授業ということもあり満席だった。
両端にたくさんの学生がいて、今、立ち上がることができない。



ほんの一瞬、躊躇していたら、前席の方が身体をかがめて蛍光ペンを探し出しくるりとリョウコの方を見て渡してくれた。

「あっ!」
リョウコは彼の顔を見て口に手をあてながら小声で言った。


彼は今朝、駅の改札口を出た辺りでリョウコが落としたピンクのハンカチを拾ってくださった方だった。




白い歯を見せて笑う彼にドキンとした。


彼の身体のまわりにだけぼんやり白い光が放たれているような気がしてリョウコは彼の後ろ姿を見ていた。







あれから20数年。

見事な枝垂れ桜が印象的なこの地を今年もあなたと訪れることができた。



今は子どもたちも自立し、二人だけの静かな生活に戻っていた。

水田に映し出される逆さの枝垂れ桜は、まるで上下で一つのように錯覚してしまう。


あなたと一緒になるのは必然だったと上下一対の桜が語っているようね。





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水田に映し出される枝垂れ桜(ショートショート)

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