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あの人は今・・・

芸能人が昔好きだった人とか、密かにライバルだと思っていたクラスメイトだとかを、番組で探し出してメッセージを伝え合う、といったようなバラエティ番組を観たことがある。今も似たような番組はあるのかもしれない。長い年月は思わぬ方向に人を変えて行くものだから、アルバムの中の幼かった彼や彼女は10年とか20年という時が流れる中で全く意外な場所で思いもかけない人生を歩んでいたりして、おもしろい。
子育てで一生懸命だった時は考えもしなかったけれど、私にも会ってみたい人がいるなぁと思った。
小学校5年生から中学生の頃まで文通していた「よしえちゃん」彼女は今どうしているのだろう。

子どもの頃読んでいた雑誌には巻末に文通相手募集のコーナーがあって、小学生の私は遠いところに住む人と文通する、というのにとても憧れていた。でも、雑誌の募集をいくら眺めても、その中から1人を選んで手紙を出すという勇気は出てこなかった。
そんな、小学校5年生の時、春の宿泊学習という行事があった。自然豊かな宿泊施設に泊まって、飯盒炊さんをしたりキャンプファイヤーをするという、楽しい行事だった。泊まった公立の施設には同じ日に泊まっている別の小学校があって、朝と夕方の集会にはみんな揃ってあいさつをしたり一緒に歌を歌ったりした。その時の進行をそれぞれの学校のクラス役員がしていて、そこによしえちゃんがいた。どうやって住所を教えあったのかも忘れてしまったけれど、何人かとはじめた文通が長く続いたのはよしえちゃんだけだった。
文通内容はどんなものだったのだろう、運動が終わったとか、マラソン大会があったとか、互いの近況を手紙に書いていたような気がする。何しろ、一度会ったことがあるとはいえ、よしえちゃんの顔がどんなだったのかも、ぼんやりとしているのだ。そんなこともあって、6年生になった時、修学旅行から帰って来たらお互い写真を送ろうということになった。私は友達と撮った写真の中から1番写りのいいのを選んでよしえちゃんに送った。よしえちゃんからも写真が送られて来た。明るい色のトレーナーを着て遊園地で笑っているよしえちゃんは、私がイメージしていたよりずっと元気で明るい女の子に見えて驚いた。私の制服みたいなデザインのスカートとブラウスはちょっと真面目すぎたかもしれないと思った。
中学校に進学する時、よしえちゃんが私立の一貫校に進むと聞いて驚いた。ちょっと世界が遠く感じてしまった。実際、中学校でバレーボール部に、入って休みも少なくなった私はよしえちゃんからの手紙に返事を書くのも途切れがちになってしまった。そして、中学2年の時によしえちゃんとの文通は終わった。

数年前、通っていた読書会の会場から駐車場に向かう住宅街で、見覚えのある苗字を見かけた。周囲を塀でぐるっと囲んだ中に、白い壁の二階建ての大きな家が見えた。そういえば、この辺りはよしえちゃんの家があるところだった。近くに大学がある静かな住宅街。私はしばらくその家の前に立っていた。
よしえちゃんは、今もここにいるのだろうか、それともどこか別のところで暮らしているのだろうか。私のことを覚えているのかな。

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