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【はじめての】2021年更に大きな飛躍を遂げたボカロPの楽曲15選

この記事は、obscure.主催の、ボカロリスナーアドベントカレンダー2021の第二会場への参加記事となります。
様々な熱意あるボカロリスナーの、熱意ある記事が投稿されておりますので、ボカロに興味ある人は読んでみたり、気になった人のTwitterをフォローしたりしてみると、よりボカロ界隈を知れる、好きになるきっかけになるかもしれません。

また、このnoteは、こちらのnoteの続編となります。
このnoteを読んでいない方は、読んでくださると非常に嬉しいです。

はじめに

2021年、既に有名なボカロPの楽曲は上記の記事で紹介したが、2021年に有名になったボカロPにも、しっかりとスポットを当てなければならない。
勿論、ある程度の運も絡んでくるのは否定できないが、YouTube100万再生レベルで有名になるボカロPは、楽曲面・表現面・マーケティング面・ブランディング面で、その再生回数に至るだけの圧倒的な強度と理由があると私は思っている。ただ単純に流行りをなぞるだけでは到達できない、有象無象の中で、突き抜けなければ絶対に到達できない域であり、ボカロ界隈外にももっともっと知れ渡るべき存在であると私は思っている。
そして、個人個人での好み苦手はあれど、それぞれに個性が確立されており、それぞれの立場でそれぞれのポップに落とし込んでいる、というのは言うまでもないのだ。

また、「飛躍を遂げた」といっても、個人によって解釈度合いが違うと思われる。
ここでは、ボカロにそこまで詳しくないライトリスナーにも対象を向けた記事でもあるので、自身初のYouTube100万再生を筆頭とした再生回数、TwitterやYouTubeの登録者の増加数、そして個人的な楽曲の好み度や界隈内での人気度、シンパの多さ等の体感などによって、15人選出させて頂く。
また、今回は、紹介する曲は、既にサブスク配信がされてあるものに限定する。

ボカロ界隈に属して、ある程度詳しい人たちは今年の振り返りに、ボカロ界隈に多少は興味あるけど、誰から手をつけたらいいのか、誰が今キテるのか分からない…という人は、新しいボカロPの発掘に、如何だろうか。

そして、ボカロ界隈にそこまで詳しくない邦楽ファン、邦楽チャートファン、音楽関係者の方々は、ここで紹介するボカロPの15人全てが、2021年のボカロ界隈における超重要人物であると私は思っているので、その個人個人の楽曲の好み苦手は別問題として、できることなら全員を認知してほしい所だ。

なお、「可不」は、YAMAHAが開発・提供している合成音声ソフトであるVOCALOIDとは別の合成音声エンジンを使用したCeVIO AIであるので、厳密には、「可不」が歌っている曲は、「ボカロ曲」には分類されない。
だが、可不のボカロ界隈への影響力を鑑みて、ここでは、「ボカロPの楽曲」と題して、この中に加えるものとする。

01.マーシャル・マキシマイザー/柊マグネタイト

まず、今年最も大きく飛躍したボカロPと言えるのは、柊マグネタイトであろう。

楽曲時間は10分を超える衝撃のデビュー作「或世界消失」や「The VOCALOID Collection -2020 winter-」にて投稿され、ルーキーランキングで1位を獲得した楽曲「終焉逃避行」などで、界隈内での人気度・知名度はかなり高く、2021年始まる段階でも、かなりのブレイクが予想されていた柊マグネタイト。
2021年も順調に楽曲を投稿し、人気を集めていたが、2021年8月、初めて可不を起用した本楽曲「マーシャル・マキシマイザー」で、更に大きく飛躍する事となる。

幅広く、雑食に音楽をインプットし、中田ヤスタカや平沢進からの影響を公言している柊マグネタイト。
「マーシャル・マキシマイザー」は、語彙量が非常に豊富で、一聴しただけでは意味や意図が読み取く事が難しいものの、歌っていたり聴いていたりして気持ちの良く耳に残る響きのリリックやメロディが上手く使われており、その点もクセになる要因の一つであろう。
メロディや言葉の組み合わせ、韻の踏み方などによるサビでのキャッチーの作り方は、その音圧と合わさり、一度聴いたら忘れられない破壊力を持っている。特に、それぞれサビのキメの歌詞である「だがツマミは回る雁字搦MATE!」と「But a 眩みUnbalance 乖離Faraway!」の韻の踏み方や言葉のくっつけ方は、初見では意味こそ上手く読み解けないものの、聴いてて気持ちよい響きに仕上がっており、見事であると感じている。
また、Bメロの「食べてすぐ寝て丑になる 起きてまた寝て人でなし?」という言葉の組み合わせ方、メロの詰め込み度での緩急の付け方は、耳に残る非常に印象的なポイントだ。
また、音作りでも非常に作り込まれているのは言うまでもない。音圧と音の1つ1つの気持ちよさ、メロディセンスでは、近年活躍を見せ始めたボカロPの中でも頭1つ抜けていると私は感じている。

柊マグネタイトは、「マーシャル・マキシマイザー」でニコニコ・YouTube共に自身初の100万再生を記録。2021年12月22日時点でのYouTubeの再生回数は、270万再生を記録している。

また、柊マグネタイトは2021年12月15日に、『少年漫画GABULI』とコラボした新曲「ファブリック・フラワー」を、鏡音リンVer.と、歌い手であるウォルピスカーターVer.の両方で発表した。
映像面・楽曲面・歌詞面で、ここまでの柊マグネタイトからは少し変化したポップさ、オシャレさを増しつつも、ドラムやラスサビ前の音からなる柊マグネタイトらしさも存分に出している、新境地となる楽曲であると私は感じている。

昔ながらのボカロっぽさを受け継ぎながらも、新たな独自の時代を創っていくような存在であると私は確信している。

02.きゅうくらりん/いよわ

2021年は、いよわも人気ボカロPとしての地位を確立させたといって間違いないであろう。
かなり変則的だが、ポップスとして気持ちいいピアノなどの楽器の組み込み方や、楽曲だけでなくイラストや映像まで全てを1人で手掛けるからこそ産まれる世界観などが持ち味であるいよわ。
2019年投稿の「IMAWANOKIWA」や、2020年投稿の「1000年生きてる」などで、リスナー層・ボカロP層ともに、界隈内での評価はかなり高く、2021年に入ってからも、順調にその評価を高めていったいよわ。
その積み上げが重なり、更に何段階もの上のステップに飛んだと感じた作品が、2021年8月に投稿され、いよわにとって初めて可不を起用した作品である「きゅうくらりん」だ。

いよわの持ち味である、変則的で一見不協和的だが、ポップスとして気持ちいいピアノやシンセ等の楽器フレーズや組み込み方は、「きゅうくらりん」でも存分に活かされている。
そして、楽曲全体が持つ「可愛らしさ」と、その中でも何処となく襲ってくる「不安感」のバランス、対比の仕方は、唯一無二である。
そして、サビ入りでの「ああ 化石になってしまうよ」というフレーズのキャッチー性も、この曲が耳に残る要素の一つであろう。「きゅうくらりん」という、一度見たら忘れられない独特なタイトルの、ラストでの伏線回収も、この曲に引き込まれていく要因の一つだ。
そして、いよわ自身が作る、ループアニメーションを主軸とした動画面での作り込みも、可愛らしさと、その中でも何処か漂う不安感を上手く織り交ぜていて、見事である。

いよわの新たな代表曲の1つである「きゅうくらりん」のYouTubeの再生回数は、270万再生を記録している。

12月22日には、自身初となる全国流通版の2nd フルアルバム『わたしのヘリテージ』も発売された。
その中でも、2021年12月12日に投稿されたリード曲である「アプリコット」は、ピアノのフレーズや所々の心地よい不協和音からなる普段のいよわらしさも存分に出しつつも、曲が進むごとにどんどん変化していく初音ミクの声や、中盤の間奏での展開など、いよわにとっての新境地と呼べるギミックも幾つも兼ね揃えた楽曲である。
YouTubeの再生回数は早くも40万回を超え、更なる注目が期待される。

独自の、唯一無二のポップスを作り上げるいよわ。今後の活躍も楽しみである。

03.シャンティ/wotaku

1つのジャンルに収まらない幅広い音楽性と、その中でも徹底された世界観が強みであるwotaku。2020年以前も「ジェヘナ」「DOGMA」「マフィア」など、様々なジャンルの曲調と世界観を作り100万再生を超える代表作を持ち、2020年以前から界隈内での評価・人気ともにかなり高く、2021年も順調に様々なジャンルに分類される新曲を公開していった。その中でも、2021年9月に投稿された「シャンティ」で、ボカロPとして更に大きく飛躍・覚醒したと私は思っている。

KAITOをボーカルとして起用し、2020年に投稿された「マフィア」と地続きの世界観である「シャンティ」。
中華的なアレンジを携えた、トラップ系統の楽曲。お兄さん的なボイスであるVOCALOID、KAITOの声と見事に化学反応が合わさり、楽曲の世界観を何倍にも引き上げている。
効果音も、1つ1つが、聴いてて気持ちいい所に挟み込んでおり、聴いててクセになる楽曲だ。
また、ドロップでのキメのフレーズ「こっちに付いてきな」も、見事であり、KAITOボーカルの本家も素晴らしい事は大前提として、歌ってみたでも、歌う人によって個性が溢れ出てくる楽曲であろう。なお、「こっちに付いてきな」は「マフィア」でも登場した歌詞であり、そこでの繋がりも、ファンには堪らないポイントであろう。

現在での「シャンティ」のYouTube再生回数は、250万再生を突破している。2021年を代表する、またVOCALOIDのKAITOを代表する、新たな一曲となった事は間違いないであろう。

また、2021年12月24日に、初音ミク版と、歌い手の妃舞ゆにこ版で同時公開された新曲「ヨルムンガンド」は、「シャンティ」で見せたトラップ系統とは大きく変わり、疾走感のあるアニメのオープニングのようなロックサウンドの楽曲に仕上がっている。その中でも、リリックからはwotakuの織りなす味を感じる事ができる。トラップやロックをはじめ、様々なジャンルの楽曲をwotakuなりに再構築し、リスナーの期待を超え続けている。1つのジャンルに留まらない事で、次にどんな楽曲が出てくるか全く想像が付かない所も、wotakuの魅力であり強みである箇所であろう。

ここまで上げた柊マグネタイト、いよわ、wotakuは、それぞれ形や曲調、方向性は違えど、どれも独自の「ボカロっぽさ」や「音楽的な実験性」を確立させている。2020年以前から界隈内では人気はあったものの、2021年、ライトリスナーの域にまで、そのボカロPとしての地位を完全に確立した。今後どのような楽曲を投稿するか、或いはどのような方向性で活動するかは不明だが、2022年以降更なる驚きを音楽ファンに与えてくれるだろうと確信している。圧倒的な個性とキャッチー性、全ての面を確立させ、数字でも勢いを見せた3人は間違いなく、2021年の今の段階で、「ボカロP」としての最前線を走っている存在であろう。あわよくば、その先のステップへ踏める事を、私としては期待している。

04.毒して頂戴/なきそ

先述した「シャンティ」のようなトラップ系統の楽曲を作るボカロPで、今年頭一つ抜けたと感じているのが、なきそだ。
特に、2021年6月に投稿された「毒して頂戴」が大きく伸び、更に注目されるきっかけとなった。

ビリー・アイリッシュからの影響をインタビューなどで公言しているなきそ。
歌詞やサウンドから滲み出る、美しさと執着心の共存、繊細さと力強さの共存が、「毒して頂戴」からは読み取れる。
美しいピアノのフレーズが響いていると思ったら、おどろおどろしいベースが鳴り響くゾーンに入り、リスナーを驚かせている。予測の付かない楽曲展開や転調、メロディも、この曲の中毒性を高めている要素の一つであろう。楽曲全体で、美しさを感じつつも、何処となく不安定さを感じるのも、この曲が人を惹き寄せる要素の一つであると感じている。
かつ、ドロップ前の部分では、メロディとメロディの間や韻を上手く取り、最小限のリリックで最大限に世界観を表現している。その、言葉で情報を詰め込みすぎないというリリック量のバランス感覚も、なきその強みであると私は感じている。

「毒して頂戴」のYouTube再生回数は、130万再生を記録している。
また、2021年8月には、「自主」で人気を集め始めているシンガー、ロスをフィーチャーした楽曲「げのげ」を投稿。YouTubeでの再生回数は270万再生を超えている。
来年度以降も、更なる飛躍が期待できそうだ。

05.アブノーマリティ・ダンシンガール/ぐちり

ぐちりは、架空の妄想物語形式のリリック×ロックを武器に、2021年大きく飛躍を遂げたボカロPだ。
2020年投稿「オルソドクシア」が伸び始め、2021年更に飛躍するであろうボカロPとして注目していたが、2021年2月にリアレンジされて投稿された「アブノーマリティ・ダンシンガール」で更に注目を集める事となる。なお、本楽曲は、2019年に発表されたコンピアルバム『神々ノハコニワ』にて、初収録された楽曲だ。

ボカロシーンのアーティストでは、Neru、まふまふ、トーマ等に影響を受け、「特に2011~2013年頃の、ボーカロイドがストーリーテラーのように歌によって物語を紡ぐタイプの世界観と、テンポの速いロックの融合がとても好き」だとインタビューで公言しているぐちり。
その先人たちのルーツを受け継ぎ、楽曲毎に異なったボーカルを起用し、独自の架空の妄想物語音楽を展開していく。

代表曲である「アブノーマリティ・ダンシンガール」も、その速いBPMと、Bメロやサビでのメロディの畳み掛け、そしてイラスト担当である、暇と、動画担当である、藍瀬まなみが手掛ける映像面の相乗効果も合わさった疾走感で、驚異的な中毒性を得ている。なお、藍瀬まなみは、Ado「踊」などの映像も手掛けている、人気動画師だ。
そして、その楽曲全体で作られる「「異常」に恋する女の子」という物語性も、この曲の魅力的な要素を引き上げている。「普通に染まりたくない」という人には、共感できる歌詞であると私は思っている。
他の様々な楽曲とは異なった独特なflowerの歌声も、この楽曲の魅力を引き上げている要因の一つであろう。
また、楽曲のラストでの、Bメロのメロを引用した最後の追い込みは、最後の最後までリスナー離さないという強さを感じている。

「アブノーマリティ・ダンシンガール」の再生回数は、250万再生に届こうとしている。今後もぐちりは、独自の妄想物語音楽を展開し、リスナーを魅力し続けていくだろう。

06.ハツコイソウ/FLG4

FLG4も、2020年以前から「ノーペイン」「イミテーション」などで注目されていたが、2021年、更に大きく飛躍を遂げたボカロPと言えるだろう。
2021年4月、ボカコレ2021春に投稿され、ルーキーランキングで12位を記録した「ハツコイソウ」。MVは、これまでのFLG4の代表作品である2019年投稿「イミテーション」も担当した、くろうめが担当している。なお、くろうめは、現在では、syudou「キュートなカノジョ」などのイラストも担当している、人気絵師である。

音楽ジャンル的には、ボカロ文脈のエレクトロスウィングに分類される「ハツコイソウ」。シンセやサックスなど、様々な楽器を使い複雑に絡み合うイントロなどで、驚異的な中毒性を獲得。
また、1番とは変化が加わった2番Bメロでの盛り上がりや、新たなフレーズが登場するアウトロ、楽曲内で1番盛り上がらせて突如終わらせる曲の終わり方と、曲の2番に向けて何個も魅せ場がある事も、この曲を繰り返し聴きたくなる要因の1つだ。
また、ピンク色を主軸とした映像面では何処を切り取っても非常に魅力的であり、絵師である、くろうめのセンスが感じられる。ハツコイソウの花言葉を落とし込んだ、楽曲や映像面で見せる物語性も、注目ポイントである。

YouTubeでの再生回数は230万再生を記録している。また、TikTokでは、版権モノの二次創作イラスト動画での使用も見られ、幅広くこの楽曲が広まっている。
「ハツコイソウ」のようなエレクトロスウィングに留まらず、幅広いジャンルの楽曲で驚きを与えてくれるFLG4。2022年の活躍にも、期待したい。

07.Cazino/Azari

2021年にデビューしたボカロPで、最も大きな飛躍を遂げた、かつボカロ界隈に衝撃を与えたといっても過言ではないのが、Azariであろう。
2021年6月に活動を開始したAzari。「Casino」は、Azariの初投稿作品だ。Twitterでは音楽面・映像面の圧倒的な強度、YouTubeやニコニコ動画では、それに加えてチャンネル名や曲名を表示しないというミステリアス性で、たちまち話題を集めた。

Azariの音楽経歴は不明なものの、 HipHopやK-Pop的なエッセンスも取り入れられているように思える「Casino」。
効果音的な音の組み込み方やその引き出しの多さ、そしてベース音を始めとする音の1つ1つの気持ち良さでは、近年活動を開始したボカロPの中でも頭一つ抜けている。効果音的な音の引き出しという意味では、楽曲のラストに突如加えられるシャッター音、そこに驚かされたリスナーも多いであろう。
そして、聴いて一発で覚えられる、キャッチーでシンプルなメロディを用い、かつ歌詞でも韻を踏みつつ、独自の物語を展開している。
楽曲の時間としても、2分25秒と、無駄がなく、続々と変化する展開や圧倒的な音圧などで、曲が始まってから終わるまでリスナーを圧倒し続け、音だけでも「何度も聴きたい!」と思わせるような要素が詰め込まれている。
そこに、「YouTubeやニコニコのタイトルからは、曲名やアーティスト名が見えない」という謎に包まれた要素も加わり、その「何度も聴きたい!」と思わせるパワーは圧倒的であろう。

現在、「Cazino」のYouTube再生回数は360万再生を超えている。また、続く2作品目である「Shadow Shadow」の再生回数は、350万再生を越え、YouTube登録者の面では26万人を超えている。海外層でのファンも非常に多い。
自分の楽曲の投稿以外の事について、メディアやSNSなどでは、ほぼ一切語らないスタイルである為、今後どのように活動していくかは、分からないし予想が付かない。ただ、今後もAzariの思う最強の音楽を魅せつけて欲しい。

08.偽物人間40号/¿?

また、圧倒的な音圧や楽曲の強度で捩じ伏せ、大きく飛躍を遂げたボカロPとして、¿?(読み・シモン)も挙げられる。初めて見たら衝撃を受けるであろう特徴的なボカロP名は、自分自身の疑問と向き合うという意味で付けたようだ。
そんな¿?は、人気絵師であるヤスタツをイラストに起用し、2021年6月に投稿された作品「偽物人間40号」にて、大きく注目を浴びる事となる。

¿?の音楽遍歴は不明なものの、ロック・エレクトロ・HipHopと、様々なジャンルへのルーツが見て取れる¿?。
まず再生して驚くのは、そのflowerの歌声と、ベース・ドラムなどの重低音が大きく主張する事で産まれるであろう音圧の大きさだろう。ヤスタツのイラストも相まって、再生してすぐに楽曲の世界観へと誘っていく。
そして、その楽曲内で用いられるベースやドラムのパターンの幅広さに、圧倒されていく。サビでは、イントロのドラムの跳ねるテンポを倍にして、大きく疾走感を付け、楽曲の世界に更に引き込んで、捻じ伏せていく。
音圧やベース音の気持ちよさという面では、近年登場したボカロPの中でもかなり抜き出て良いと感じている。
また、リリック面のネガティブな感情を描いている物語性でも、物語全体での分かりやすさや普遍性を保ちつつ、例え方などによる表現力の高さに驚かされるばかりだ。サビでは、メロディーのリフレインも多用し、キャッチー性を一気に保っていく。

また、原曲とは異なったアレンジなどを加え、セルフカバーでも圧倒的な存在感を見せる¿?。「偽物人間40号」のYouTubeでの再生回数は、VOCALOID版は110万再生、セルフカバーでは200万再生を突破している。また、チャンネル登録者は12万人を超えている。

なお、「偽物人間40号」は、楽曲が投稿された6月に、天月による歌ってみたが公開された。10月には、「CITRUS」などで知られるDa-iCEのボーカル、花村想太と、「小悪魔だってかまわない!」「メビウス」などで知られる、めいちゃんの2人によるコラボカバーも投稿されている。勿論楽曲や映像の力あってこそだが、人気歌い手による歌ってみたにより、楽曲人気が更に底上げされた形でもあるだろう。

09.ハイドレンジア/LonePi

LonePiも、2021年、かなり大きく飛躍を遂げたボカロPの1人である。
音楽だけではなく、イラストや映像も1人で手掛けており、一次創作的な物語音楽を投稿し、2020年以前からコアなファン界隈内では注目を集めていたLonePi。
2021年3月に投稿した「ハイドレンジア」が、2021年6月頃からYouTubeやTikTokを中心に大きく注目を浴びる事となる。LonePi自身も、「ハイドレンジア」の楽曲に合わせて、「ハイドレンジア」に登場するキャラクターのイラストを描いてみた動画をアップし、その動画が大きくバズった事も、再生数が伸びた要因の1つとして挙げられるだろう。

リリースカットピアノなどを用いたり、歌詞の韻の踏み方などによったりして、直感なども用いながら独自のポップスを展開していくLonePi。
代表曲「ハイドレンジア」のAメロでは、繰り返し休む間もなく続くメロディ、そして韻の踏み方や外し方によって、リリックとメロディが楽曲を引っ張っていく。
そしてサビでは、LonePiの強みであるリリックでの韻の踏み方や外し方は勿論の事、サビ始めでの「あのね お話聞いて」の箇所に代表される、マイナースケール外の音もメロディに用いる事や、複雑に絡み合うシンセの組み込み方などにより、更に中毒性を増している。
ラストサビでは、+1転調→-3転調と、あまりポップスでは使用されない転調を用い、楽曲の終わりに向けて、下に転調する事で更に曲を盛り上げ、中毒性を増している。
いい意味で、理論だけに捉われず、直感や感性も用い、自由自在にポップスを展開しているように感じている。

「ハイドレンジア」のYouTube再生回数は、330万再生を超えている。また、イラストやダンスなどによる、TikTokでの二次創作の多さでも非常に多い。
また、LonePiは、花芽すみれ「なにやってもうまくいかない」カバーのMV、長瀬有花「ディスコムダンス」の楽曲提供など、提供面でも、映像・楽曲ともにマルチな活動を見せ始めている。2022年も、LonePiの活動が楽しみである。

10.我儘姫/ふじを

ふじをも、勿論楽曲の力あってこそだが、TikTokを活用して一気に人気を伸ばし、再生数を獲得したボカロPの一人であろう。
2021年5月に投稿され、ふじをにとって、初めて初音ミクを使った作品である「我儘姫」が、TikTokとYouTubeで大きく注目を浴びる事となる。

リリックや音楽は勿論、かしわの手掛ける映像などで、徹底的に「我儘姫」の世界を作り上げた楽曲。
まず立体音響を用いたイントロで引き込んだ後、かわいさと狂気性を兼ね揃えた「我儘姫」の世界に更に引き込ませる。2番では、1番とは異なった衝撃的な物語展開をし、リスナーを驚かせる。コメント欄では、「昔のボカロを思い出した」というような声も多い。
ホーンや木琴なども用いた、吹奏楽的な音作りも、近年ヒットしたボカロ曲ではあまり見られない要素である。
また、サビでは、キャッチーなメロディと歌詞は勿論の事、映像でダンスなども用い、更にその中毒性や二次創作のしやすさを一気に高めている。ふじを本人も二次創作に好意的であり、TikTokでは1000本を超える楽曲を使用した二次創作動画が産まれている。
ふじをがこれまでどのような音楽遍歴があるかは不明であるが、音楽面でも映像面でも隙がなく、徹底的に自分だけの世界観を作り上げて、楽しんでいる事が伝わってくる。

YouTubeの再生回数は500万回再生を超えており、間違いなく2021年を代表する楽曲の1つであろう。
「我儘姫」につぐ新作は、未だ投稿されていないものの、次なるふじをの楽曲や活動にも、期待が寄せられる。

11.ナンセコンナセンス/あまね

あまねも、TwitterとTikTok、YouTubeを上手く使い、2021年大きく人気を獲得したボカロPであると言える。
2021年1月に、TikTokなどで活動を開始したあまね。その打ち込みピアノを主軸とした音楽面は勿論の事、制作過程動画やサビだけの動画を上げていき、曲名や一部歌詞のアイデアなどもコメント欄やリプ欄を上手く使いリスナーから募集するという作り方で、まだ当時はブルーオーシャンであったTikTokを上手く活用し、瞬く間に人気を集めていく。
2021年4月にその原型がTikTokやTwitterで公開され大きくバズり、2021年5月にフルで公開された楽曲「ナンセコンナセンス」は、フル尺の楽曲としては1作目であると同時に、ここまでのあまねの活動の1つの集大成であるとも言えるであろう。なお、「ナンセコンナセンス」のタイトルは、原型をTikTokで投稿した時にタイトルをリスナーから募集して、リスナーの1人である、たく のコメントから付けられたものである。

イントロの複雑に絡み合う気持ちいいピアノと跳ねるようなドラムで一気に引き込ませ、曲を一気に盛り上げる。
そして、サビで繰り返されるメロディや、韻の踏み方、外し方、サビ中盤で見せるキメなどによって、高い中毒性サビでは更に高い中毒性を保ち、楽曲に引き込んでいる。
また、一種の諦観的な感情を現したリリックに共感する人も多いであろう。そんな諦めの感情を抱えたままでいいから、好きに踊っていこうという強さが、この楽曲から見られる。

「ナンセコンナセンス」のYouTubeの再生回数は180万再生を記録し、TikTokでの音源使用数は1900を超えるなど、幅広い広がりを見せている。
YouTubeなどでも定期的にサビだけの動画を公開し、チャンネル登録者は10万人を超えている。
2022年も、あまねの更なる活躍に期待したい。

12.花を唄う/シノ

ここからは、「プロジェクトセカイ カラフルステージ!feat.初音ミク」(以下プロセカ)の楽曲公募コンテストである、「一緒に作ろう!楽曲コンテストプロセカNEXT」(以下プロセカNEXT)で採用され、大きく注目を浴びる事となったボカロP、ボカロ楽曲を3つ紹介する。

シノ「花を唄う」は、2021年1月に投稿、第2回プロセカNEXTにて採用され、4月にゲーム内実装された楽曲だ。第2回プロセカNEXTは、「春に聞きたい曲」というテーマで募集された。

四つ打ちエレクトロポップに分類される「花を唄う」。スキップするように跳ねるようなメロディのリズムやメロディの動きがクセになる一曲だ。
そして、そのメロディも休む間もなく、踊るように自由自在に展開され、所々で繰り返しや韻の踏みなども効果的に使い、聴いたり、ゲーム内でプレイしたりする上で、圧倒的な気持ちよさを出している。
また、ゲーム内には収録されていないものの、2番Bメロで新たに展開される、階段のように降りていくメロディ、そして1Bで展開されたメロディに戻っていく様子は、まるで別世界に入ったかのような感覚を与えている。
また、最後のサビでの転調の連続や、新たに展開されるメロディは、メロディの変化や韻の踏み方や繰り返し、そしてそのリズムによって、聴く側に驚きと解放感を与えている。
そして、人気絵師であるs!onの描いた、この曲のイラストから着想を得たという、リリックでの表現力も、儚さと切なさが入り混じり、この曲の世界観を形作っている。「希う」と「恋、願う」や、「口遊んで」と「口、杜撰んで」と言った、読みはそのままに漢字を変えて意味を二重に持たせるという技巧も使われ、この曲の世界観を何重にも引き立てている。

YouTubeでの再生回数は200万回を超え、2021年を代表するボカロ曲といえるだろう。
2022年も、シノの新たに産み出されるであろう楽曲が楽しみである。

13.そうだった!!/タケノコ少年

タケノコ少年「そうだった!!」は、2021年4月、ボカコレ2021春に投稿された楽曲だ。第4回プロセカNEXTにて採用され、8月にゲーム内実装された楽曲だ。第4回プロセカNEXTは、「ポップな曲」というテーマで募集された。

2020年に公開された作品である「なんだっけ!?」と地続きとなっている、ポップなギターロックである「そうだった!!」。「なんだっけ!?」と同じく、イラストは人気絵師である、ぬくぬくにぎりめしが、動画は人気動画師である、藍瀬まなみが担当した。
この曲を聴いて特に印象的であるのが、1Bメロで-3の同主調転調を行い、「あ、突然ですがここはインドで〜す!」と雰囲気をガラッと変える部分であろう。ここで大きく雰囲気を変える事により、一度聴いたら忘れられない、中毒性を持った楽曲となっている。サビでは+3転調して元のキーに戻り、Bメロの部分だけ異世界に来たような感覚を覚えさせ、聴く側に大きく印象付けている。
その枠に捉われないアイデア性と、聴いてて違和感なく、気持ちの良いようにそれを実現するタケノコ少年の作曲・編曲力の腕が溢れ出ている部分であろう。
編曲やメロディなど、楽曲全体がポップであり、リリックの全貌としても、いい意味で重いメッセージ性が無く、いい意味で何も考えずにノリノリで楽しめる、笑顔になれる楽曲である。

YouTubeでの再生回数は160万再生を超えている。また、タケノコ少年の織りなすポップなギターロックと、ぬくぬくにぎりめしの描くポップなミクのイラストの相性は非常に良く、「そうだった!!」以降の楽曲でも、その2人がタッグを組んだ楽曲が多く見られる。
2022年以降も、タケノコ少年の活躍に期待したい。

14.Brand New Day/irucaice

2020年に投稿された楽曲ではあるものの、プロセカ実装後に更に大きく陽の目を浴びた事や、今年度のボカロ界隈への実績・影響度を鑑みて、紹介させて頂く。

irucaice「Brand New Day」は、2019年に発表されたコンピアルバム『Prhythmatic Hardcore 2』にて初収録され、2020年11月にYouTube・ニコニコ動画に投稿された楽曲だ。第1回プロセカNEXTにて採用され、2021年2月にゲーム内実装された。第1回プロセカNEXTは、「テンションが上がる曲」というテーマで募集された。

キラキラでハッピーなエレクトロポップを得意ジャンルとするirucaice。ハードコアである「Brand New Day」は、irucaiceの強みが存分に発揮された楽曲である。
早いBPMで、イントロからエネルギー全開な「Brand New Day」。
Aメロに入る時に-1転調、サビでは+1転調を加え、その熱量を保ったまま、サビに入った時にガラッと世界が広がったような解放感を演出している。ラスサビでは、更に+1の転調も加わり、イントロからアウトロまで、全速力で駆け抜けていくような楽曲である。
また、2番後の間奏での、打ち込みだからこそ可能な、音ゲーのような密度の高いピアノフレーズは、この曲の明るさを高めていると同時に、ゲーム内では難所として知られている箇所だ。
そして、何よりも着目すべきは、何処までも前向きなそのリリックであろう。今回紹介する15曲の中でも、飛び抜けて明るいリリックであり、聴く人を笑顔にする強度を持っている。

「Brand New Day」のYouTubeの再生回数は120万再生を超えている。
また、irucaice自身、エレクトロなミクノポップが好きであり、他の楽曲もキラキラでハッピーなエレクトロポップに振り切っているからこそ、ボカロPとしては勿論の事、楽曲提供などの形でも今後更に存在感を放っていくであろうと感じている。
また、irucaiceが監督を務めているOn Prism Recoadsでは、様々なボカロエレクトロを中心に作っているボカロPを招いたボカロエレクトロのコンピアルバムを定期的にリリースし、irucaice自身も、そのアルバムの為に新曲を書き下ろしている。今後も、ボカロエレクトロを第一線で更に広めていく存在になる事は間違いないであろう。

15.生きる/水野あつ

最後に紹介するのは、水野あつだ。
水野あつはこれまで、ニコニコではボカロ投稿・YouTubeでは自身歌唱の投稿と、ボカロPとしての側面とシンガーソングライターとしてのの側面も持ち、2020年投稿「知りたい」などで既に注目を集めていた。
可不が発売された2021年7月に投稿され、水野あつにとって初めて可不を起用し、可不のボーカルでYouTubeとニコニコ動画に投稿された作品である「生きる」で、更に大きな注目を浴びる事となった。

可不の歌声の良さを全面に活かした、ピアノバラードである「生きる」。その歌詞の内容やメッセージ性、まるで人間のような可不の歌声は勿論の事、当時は可不が発売されたばかりで、ピアノバラードの可不の楽曲は少なかった事も相まって、大きく注目を集める事となる。
とにかく着目すべきは、何処までもリアルな歌詞と可不の歌声であろう。この何処にも吐き出せないような感情が、その歌詞やメロディ、可不の綺麗な歌声によって吐き出され、深く共感した、救われたというリスナーも少なくない。
また、楽曲時間は2分17秒と短く詰め込まれており、可不の歌声の情報量の多さも相まって、聴き終わった後の満足感が高く、物足りなさや長すぎて飽きるという事を一切感じさせず、そのバランス感覚は本当に素晴らしいものであると感じている。

YouTubeの再生回数は530万再生を超え、水野あつの新たな代表曲である事は勿論の事、可不を代表する一曲である事は間違いない。
シンガーとしての側面と、ボカロPとしての側面、両方を併せ持つ水野あつ。2022年も、水野あつの活動に期待したい。

おわりに

以上、2021年飛躍したボカロP、15人を紹介した。
ここで紹介したボカロPは全員、実力・個性を兼ね持っていると感じている。
前々から私個人でも応援していて漸く大きく飛躍した人、颯爽とボカロ界隈内に現れて大きく突き抜けた人、様々な形があるが、私は、その全員を心から尊敬する。
そして、ボカロ界隈外にも、知ってほしいな、と思っている。


そして、勿論、これはボカロ界隈の氷山の一角であり、その氷山の中には、幾つもの才能の原石が埋もれていることを、忘れてはならない。

次に出す記事では、2022年更に飛躍すると予想しているボカロPを15人、紹介する。

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