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【小説】私の明日はどっちだ?8-③
ちょっと幸せになりたいだけなのに、うまくいかないことばかり。気づけば人生半ばを過ぎて、私はいったいどこへ向かっているんだろう。
これまでのおはなしはマガジンからどうぞ。
流れに乗ってみるってこういうこと?
土曜日にはまた子どもたちが来てくれる予定なのに、次郎さんは相変わらず不機嫌なままだ。私が何とかしなければならないというわけでもないんだろうけど、どうしたものか。
「ニワカさん、次郎さんのこと。どうするんですか?」
「うーん。薮田さん、どうにかならない?」
「え?私ですか?どうにもこうにも、私なんかムリですよ。ニワカさんこそ、何かいい知恵ないんですか?」
「うーん、ないねえ」
「そんな無責任な。そもそも次郎さんに白羽の矢たてたの、ニワカさんじゃないですか。うちだけの問題じゃないんだし、何とかしないと」
「だから、お願い」
「お願いって。私が全部決めていいならやりますけど、これって次郎さんたちが主役なんでしょう?どうしたら喜んで動いてくれるのか、私にはサッパリ。それに、また子どもたちにキツく言ったりしたら、もう誰も来ませんよ。せめて琴音ちゃんに頼むとか」
「…」
「そう、そうですよ、琴音ちゃんにまかせた方が安心ですよ。私なんかより」
「あのねえ。私なんかって…」
「言われたことはないけど、だって、そうだからです。それよりどうして私が怒られるんですか?悪いの私ですか?」
「そういう話じゃないでしょう」
心配して切り出したのに逆に非難されたようで、私は納得できなかった。次郎さんじゃないけど、こんなのやってられないと思ってきっぱり断ろうと息を吸ったそのとき、隣でガタン、とイスを引く音がした。
「ちょっと部屋行ってくる」
シゲルさんが律義に声をかけ、廊下の方へゆっくりと歩いていった。
「シゲルさん、うるさかったんですかね。私、つい感情的になっちゃって。ニワカさんが悪いんですよ。変なこと言うから」
ま、とにかくよろしく、と言い残してニワカさんは逃げた。やっぱり私がやることになるんだろうか。できるわけないのに。
家に帰ってからも、どうしたらスムーズに会話できるようになるんだろうとか、また怒鳴りだしたらどうやって子どもたちをなだめようとか、そんなことばかり考えてちっとも眠れなかった。明日になれば、土曜がもっと近づいてくる。気持ちばかりが焦ったまま翌朝を迎え、いつものように貴重な一日が静かに(前向きな展開もなく)終わろうとしていた。
「次郎さん、リーダーやるってさ」
え?びっくりして振り返ると、シゲルさんに腕をつかまれた次郎さんが立っていた。何が起きた?
「やっぱり次郎さんじゃないとさ。こんな役できないだろ、な?」
「まあ何だな、子ども相手にちょっとムキになって悪かったな。どうしてもっていうなら、まあやってやらんでもないが」
なぜいちいち上からの物言いなのか少しムカッときたけど、今を逃してはならない。
「さすが次郎さん!ぜひお願いします!土曜には子どもたち来ますので」
「そこまで言われちゃあ仕方ないな。どれ、夕飯の前にひと勝負するか。あつしさん、どうだい」
値が張るとはお世辞にも言えないような碁盤を出し、次郎さんとあつしさんは向き合った。きのうあれこれ悩んでいた私の苦労は何だったのか。いや、何だか解決したようだからまあいいや。あの次郎さんを説得するなんてシゲルさんてスゴイな、とひそかに思った。ヨイショする道理もないだろうに。
「シゲルさんありがとうございます。助かりました。私どうしていいかわからなくて」
「私も孫いるから。かわいそうで見ていられなくてさ。年寄りに慣れてないみたいだったし。次郎さんも悪気はないんだろうけど、言い方ってもんがねえ。長いことやってきた習慣は、そう簡単には変えられないから厄介だな」
ふうん。シゲルさんて、こういう人だったのか。知らなかった。私、今まで何見てたんだろう。
土曜になり、ボンちゃんを先頭に、また子どもたちがやってきた。あとのふたりも休むことはなかった。次郎さん、今度はものすごく気を使っている。でもやろうとしていることが何だか企業の企画書をなぞっているみたいで、子どもとの間に立った私は、まるで翻訳者のように内容を噛み砕いて話さなければならなかった。でも、次郎さんも子どもたちも、ぎこちないなりに必死で相手をわかろうとしている。学校行事でもなければ、次郎さんたちにしたってわざわざしなくてもいいんだろうけど、これって実はとってもスゴイことなんじゃないかな…とふと思った。
だいたいのインタビュー項目をまとめてハウスのみんなに渡しておくことや、おやつの準備など細かいことを確認して、あとは当日を待つだけとなった。だいたい、ここまで来れたことだけでも奇跡だ。気がつけば、進められてるじゃないか。次郎さんなりに頑張ったし、シゲルさんは何気に救ってくれたし、ボンちゃんのまとめっぷりにも助けられた。
そうか。全部私が仕切らなくてもよかったのか。
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