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【連載小説】私の明日はどっちだ?3-①

おばさん世代の転職活動はいばらの道。手持ちの駒もスカスカで、さあどうする!

これまでのお話はこちらからどうぞ。

不思議な面接

誰に向かって言ったのかわからず、みんな動かなかった。すると、さっきより少し大きな声で、女性社員が言い直した。

「みなさま、こちらへご移動ください」

ひとりずつじゃないんだ。討論させて、キャラの違いを見るのだろうか。
ドアを開け、すぐ目の前の部屋へ、全員でぞろぞろと歩く。私はみんなに遅れないよう、でもやはりモタつきながら後に続いた。

お辞儀をしながら次々に入る。そうっと顔を上げてみると、正面には大きな窓を背にして面接官と思われる男性ふたり、女性がひとり並んでいた。
「順番におかけください」と女性に言われ、緊張感の漂うなか席に着く。

「では、今から面接を始めたいと思います」
進行役はこの女性か。
「私、今回募集しておりますチームのリーダーで、植木と申します。よろしくお願いいたします。では、まず弊社の志望動機から伺います。横川さんからどうぞ」

右端に坐っていた男性が立ち上がり、口を開いた。
「田中リョウと申します。私は以前、営業職に就いていましたが、より地元社会に貢献したいと考え応募いたしました。普段から情報収集に努めておりまして、フットワークの軽さには自信があります。お年寄りに対しても、常に最新のデータを駆使して仕事にあたりたいと思っています」
見かけからの期待を裏切らないキャラクターだ。自分のウリをよくわかっているということか。

「ありがとうございました。では次のかた…」
正面にいる男性のうち、ひとりは、チェックシートらしきものに黙々と書き込んでいる。

「はい。私、石野まり、といいます。前は派遣で働いていたんですが、なんかしっくりこなくって。やっぱり、安定した職場がいいなあと思って、応募しました。おじいちゃん、おばあちゃんの相手は得意です!」
しゃべらなければ仕事できる感じなのに。まあ、ここはスキルとか関係ないのかも。

「横川健です。健康の健と書いてタケシ、と読みます。私は小さいころからなぜかお年寄りに可愛がられておりまして。近所ではちょっとした人気者と言いますか…そんな風にして大きくなったものですから、将来は、お年寄りに喜んでもらえる仕事に就きたいと、ずっと思っていました」
カエルさん人気者だったんだ。みんなもっといっぱい話せばいいのに。ペース早い。私たちが座っている方向からは、窓越しに外の景色がよく見える。ああ、外は緑がキレイだなあ。早く、家に帰りたいなあ。アピールって苦手だ…。どうして集団面接なんだろう。

「私、太田良美と申します。」
あっ!もう次の人になってる!
「…事務処理も得意ですので、幅広い場面でお役に立てると思います。よろしくお願いいたします」

うわー私の番だ!
「や、薮田信子と申します、根は真面目です、今までいろいろな業務に携わってきましたので、いざという時の適応力がありまぅ…」
止まれ、落ち着け私、息してない…ぞ。

「みなさん、ありがとうございました」
進行役の女性が収拾をつけてくれた。何を話したか全く覚えていない。植木さん、こちらこそありがとう。

「では、今日お持ちいただいた食べ物について、ご紹介をお願いします」

ハイ、食べ物ね。え?あ、そうだカレーだ。忘れてた。
みんな各自、カバンからごそごそ出している。私は、仕方がないので容器を膝の上に置いた。すると植木さんが
「薮田さん、それは何ですか?」と聞いてきた。
「あのう、カ、カレーです…」
私がぼそぼそ答えると、植木さんは若手の女性社員に向かって
「アキちゃん、これ温めてきて」と言った。
「ああ、カレーならご飯もあった方がいいな」
ずっと黙っていた年配の男性が、ついに口を開いた。

「アキちゃん、隣のコンビニで買ってきて。大至急」
メモを取り続けていた男性が、たたみかける。

「タカケンさん、ご飯ふたつでいいでしょうか?」
頭をタテに振ったのを確認し、私の手からカレーを受け取ると、女性社員はパタパタと部屋を出ていった。…この人がタカケンか。電話では「あー」とか「えー」とか連発してたけど、こんなふうにもしゃべれるんだ。
いや、そうじゃなくて温めるんだ、カレー。温めたら匂うじゃないか。
何だ?この面接。

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